協力者の模索
「……こうなったらこっちも協力者を募るしかないわね」
しばらくの間、うなだれていたクリスであるが、ようやく発せられた言葉はこの状況を打開するにあたってどの程度効果のあるものかわからないが、少なくともこの状況は今の面々で対応できるようなものではない。
もちろん、協力者を募るといっても大々的にやるのではなく、一部の信頼できる人間にだけ、今回のことを告げて上手に探りを入れてもらおうという作戦だ。
残念なことにクリスには人事省につながるような信頼のおける人脈はないのだが、メイド長や衛兵長ならある程度のそのあたりの見極めができるのではないだろうか? という考えも根底にある。
「とりあえず、メイド長や衛兵長といった確実に白に近い人物から声をかけていきましょうか。そして、声をかける前にはそういった人物に探りを入れてもらう。これなら、ある程度敵が紛れ込むのを防ぎながら協力者を増やすことができる。こんなのはどうでしょうか?」
「確かに……それならいいかもしれないけれど……」
確かにこれまでの経験上、メイド長や衛兵長は自分たちがこのことについてある程度調べていると知っていながらも協力してくれているため、協力者として今回の件をしっかりと打ち明けて協力を要請しても請け負ってくれる可能性は高い。
それにメイド長と衛兵長を味方につければ、メイドや衛兵に探りを入れるのはある程度簡単で、そのことによって味方を増やしやすいという利点もある。
しかし、クリスの頭の中では万に一つ二人が協力者のふりをした裏切り者だった可能性がよぎって離れない。
「……あの二人を信用しきれませんか?」
そんなクリスの心情を見透かしたようにアニーが声をかける。
「いや……そんなことはないんだけど……」
「せめて、あの二人は信頼しましょうよ。今の状況では難しいかもしれませんが、誰も信頼しないでいたら、今回の件は解決しないどころか、再びお命を狙われますよ」
「そうか……まぁそうね……」
アニーに言われてもなお、クリスは踏ん切りがつかない。
『大丈夫よ。心配だったら、私が探りを入れるから』
「……探りはいいわ」
クリスはゆっくりと立ち上がる。
アニーの言う通りだ。このままだれも信用せずに立ち止まっていては解決できるものも解決できない。
「よしっメイド長と衛兵長を呼んで頂戴」
「はい。かしこまりました」
クリスの言葉にアニーは深々と礼をしてから立ち去っていく。
「メイ。私はこれからすべてのことを話します。もし仮にそれによってこの体を失うようなことがあっても……」
『いいわよ。それがあなたの決断なら応援する。例え肉体がなくなっても私は私だから』
一応、この体の本来の所有者であるメイに了解をとって、クリスは決断する。
今、クリスが一番恐れている事態は暗殺だったり、自分が魔王だとばれたときの処刑だったりでこの体を失うことだ。この体は自分のものではなく、いつかメイに返すべきものであり、その方法が見つかるまではこの体は死守しなければならない。
だが、それを達成するためには王宮のほかの人間を信頼し、この体に危害を加えようとたくらんでいる連中を追い払わなければならない。クリスはそういった覚悟のもとにメイド長たちと向き合うことにした。
しばらくすると、部屋の扉がノックされる。
「入って」
「……失礼します」
クリスが中に入るように促すと、扉の向こうからアニー、衛兵長、メイド長が顔を出す。
「まぁ適当に座ってちょうだい。話は長くなる予定だから」
クリスが促すと、三人は部屋の隅に置いてあった椅子を持ってきてクリスの近くに腰かける。
「それじゃあ、話をしましょうか……」
それを確認すると、クリスはゆっくりと語り始めた。




