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閑話 アニーの調査

 その日、アニーは王都から少しだけ離れた町の中にいた。

 その目的は主にクリスに命じられた調査を遂行すること。


 彼女はクリスから託されたメモと自らの記憶力を頼りにある人物について調査を進めていた。


「あぁあのお嬢ちゃんなら、いつもアンドレ君と一緒にいたね」

「そうですか。ありがとうございます」


 ここは調査対象であるサラとアンドレの出身地だ。

 アニーは彼女たちの古い友人だという体をとり、調査をしているのだが、意外なことに二人は王宮に努めているということを周りの人たちには伝えていないらしい。もちろん、二人に伝わる可能性を考慮して、二人の家族に話を聞きに行くということをしていないので、本当に誰人も言っていないのか、家族にだけ言っていないのかまではわからない。


 ともかく、アニーとしてはそこがまず違和感を覚えた点の一つだ。


 通常、こういった小さな町の出身で王宮勤めとなると、町ではちょっとしたヒーロー扱いされると聞いたことがある。アニーは王都の出身であり、王都ではある程度ありふれた職業なのでそれがどの程度のものかまでは知らないが、前に話をした地方出身者のメイドは村人総出で送り出してもらったと話をしていた。

 だが、二人が職業を隠しているという事実はアニーにとってはむしろ好都合で、これによってすっかりと疎遠になっている友人を探している少女を演じることができた。


 そんな背景は置いておいて、今のところ分かっていることは、“二人が非常に仲の良い幼馴染であること”と“二人が村からいなくなる一週間前……つまり、王宮に召し上げられる少し前に黒いローブを着た人物と会っていた”ということだ。

 その黒いローブの人物を見たという村人は“このあたりの人ではないかもしれないが、なんとなく見覚えがある”と証言しており、その人物が勇者の姉もしくは勇者である可能性があるという言葉を添えて、クリスに報告を入れてある。


 王宮の方は王宮の方で少女Xを名乗る謎の人物がクリスの前に現れ、大騒動になっているらしく、しばらくは警備が強くなり、アンズが王宮に入れなくなる可能性が指摘された。


 その少女の正体も気になるところだが、今は自分の役割に徹する。


「それにしても、情報がありませんね……」


 二人について不自然な点はまだある。それは、黒いローブの人物と会った次の日に一旦失踪していることだ。これに関しては、王都まで採用の試験に行っていたのだと考えれるが、もしそうだとすると試験から採用まであまりにも早すぎる。

 通常は新しい使用人を雇うとなると、その人物について徹底的に調べあげ、王族に対して危険な思想を持ち合わせていないか、もっと言えば使用人にふさわしい人物か調べるため、最低でも採用まで二ヶ月はかかる。


 それなのに、もしも失踪していた間に採用試験を受けていたのだとすると、二人は異例の早さで採用されたことになる。

 そのような状況を勘案すると、王宮にはあの二人以外にも勇者の協力者がいると見て間違いないだろう。


 その理由は至極単純で、例え勇者であろうとも王宮内の人事に介入することなどできないからだ。


「さて、今日はこのぐらいにして、報告書をまとめましょうか」

「そうね」


 ここに来て、ようやく同行していたアンズが口を開く。


 この調査が始まってからどこまでも不満そうな表情を浮かべている彼女は懐から羊皮紙を出してアニーに渡す。


「この場ではやらないわ。宿に戻ってからね」


 アニーが伝えると、アンズは静かに紙を戻す。そのわざとらしい動作を前にして、アニーは心の中でため息をつく。

 今回の件に対して、アンズが何を不満に思っているのかわからないが、それについてまで気にしだしたらきりがない。そのため、アニーは極力彼女の態度について気にしないようにしながら、宿屋へと向かった。

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