水やりの方法(前編)
執務室に戻ったクリスはさっそく、部屋にある資料をあさり始める。
屋根を作った際に問題となる、水やりを楽にする方法がどこかに無いかと探すために始めたのだが、それに協力するのはメイド長だけだ。
「本当に畑に屋根を作るお作りになるですか?」
「作るって言ったら作るの。そうすれば、ある程度不毛の大地でも作物が栽培できるし、何よりも管理が簡単になるわ」
「そのために水やりが大変になるのでは本末転倒では?」
「そうならない方法を探しているのでしょう」
しかし、メイド長の態度が全面的に協力的かといわれるとまた別問題で、彼女はクリスが提案した方法に対して完全に半信半疑といった態度をとっている。
確かに畑に屋根を付けて、水やりは人力もしくは何かしらのからくりを使ってなどという方法は一見、非現実的なのかもしれないが、最初から全く方法がないと決めつけては話が前に進まない。どちらかといえば、水が多くても少なくても育つ作物などという都合のいいものが出来上がる可能性の方がかなり非現実的だということができるだろう。
『クリス。私は応援しているわよ』
そんな中、久しぶりにメイから声がかかる。
メイド長がいる以上、声を出して返事をするわけにはいかないので私は小さくうなづくだけで答える。彼女はそれで満足したのか、くるりと一回転してからどこかへ消えて行ってしまった。
「……ないわね……建築関係のところに資料提供を頼んでみようかしら」
小一時間ほど資料をあさってから、ようやくクリスはそういった仕組みに関するものがほかのところにあるのではないかという可能性に気が付く。
「建築関連……といいますと、水道橋とかですか? でも、あれは河川から生活水を引き込むためのもので畑にもっていっても水浸しになるかと……」
「もう。やる前からだめって言わない。とりあえず、建築大臣のところに行くわよ」
「……はぁ……かしこまりました」
建築大臣のところに赴くというクリスに対して、メイド長は困惑気味だ。
「しかし、そこまで行ってもしダメだったらどうするおつもりですか? 下手をすれば、そんなことできるはずがないって笑いものですよ」
「私は笑いものになろうが何になろうが、最後までやり切って、もうだめだってならない限りは諦めるつもりはないので……行きましょう」
しかし、それを理由にあれはだめだこれはダメだと机上でやっていてはできるものもできなくなってしまう。
そう判断して、クリスはそのまま執務室を出るという行動をとる。
それに驚きながらも、メイド長はクリスの少し後ろについて歩き始める。
「行くにしても建築大臣の許可を……」
「資料見せてもらうだけでしょう。それなりの立場の人の許可がもらえればいいわ」
「まさか、自分で調べるおつもりですか?」
「その方が早い」
アニーだったら一々こんな細かいこと聞かないのにな……などと思いながら、クリスは廊下をずんずんと進んでいく。
『建築大臣の部屋はこの廊下をまっすぐと進んで突き当りを左、右側にある三番目の扉よ』
そこへいつの間にか帰ってきていたメイが道案内を始める。
クリスは彼女の方を向いて小さくうなづいて、彼女の言う通りに廊下を進み、左折、右側にある三番目の扉をノックする。
「誰だ?」
「クリスティーヌです。今よろしいですか?」
中からの声に返答をすると、少しばかりどたばたと音がしてから、扉がゆっくりと開いた。
「これはこれはクリスティーヌ姫。ようこそお越しくださいまいた。少々汚いところで申し訳ないですが、どうぞ中へ」
「ありがとう」
クリスは扉を開けてくれた建築大臣の男性に礼を言ってから彼の部屋に足を踏み入れた。




