作物の育ち具合
クリスが中庭に到着すると、中庭に作られた畑には青々と元気よく作物が育っていた。
「すっかり任せきりになっていて申し訳ないわね」
クリスは畑に近づくなり、畑の手入れをしていた青年に声をかける。
「これはこれはクリスティーヌ姫。お久しぶりでございます」
「堅苦しいのは無しっていったはずだけど?」
「まぁ職業病のようなものだと思っていてください」
軽く青年と会話を交わした後、クリスはさっそく作物へと視線を送る。
「クリス様……いつのまにこんなものを……」
そんなクリスの背後でメイド長がため息交じりにそんな言葉をつぶやく。
それに対して、クリスは作ったのではなく、元ともここに存在していたのだということを説明しながら、作物の状況について青年に尋ねる。
「……私の目から見た限りは問題なさそうだけど……実際どうかしら?」
「そうですね。水やりの頻度は少なくてもいいのですが、干ばつが発生するような地域でも栽培できるかと聞かれると少し厳しいように感じます。それに水をやりすぎると、すぐに根腐れを起こすので、干ばつが解消し、雨が降り出したらすぐに全滅なんてこともあり得るかもしれません」
「……結構繊細なのね」
「そうですね。そういった意味ではまだまだ改良の余地があるかと思います」
何とも難しいものだ。もし水不足に陥っても作れる作物をと思って開発を進めているのに、いざ出来上がったものは普通の雨では根腐れを起こす可能性があるという曲者なのだから、扱いが難しい。
そこまで考えて、クリスはある考えに行きつく。
「でも、これはちゃんと育っているわよ。別に王都は雨が不足しているなんて聞かなかったけれど」
「あぁそれに関しては、この畑の場所が関係していると思いますよ」
「というと?」
クリスが聞くと、青年は空を指す。それにつられるような形でクリスも上を見る。それと同時にクリスは素直に納得した。
今の今までまともに見てなかったため気づいていなかったのだが、中庭の天井は周りの壁が出っ張り、空があまり広くなかった。雨がまったく入らないとは言わないが、雨の降り方によっては中庭は周りの庭ほど濡れないなどと言うこともあり得るだろう。実際に畑の中央付近の作物はかなり刈られていて根腐れを起こしてしまったのだということがうかがえる。
「なるほどね……つまり、雨が降りこまない屋根の下が育って、雨がよく降りこむ屋根のない部分が根腐れしたと」
「そうなりますね」
これは少し考え物だ。雨が少ない地域で栽培するという前提ならいいのかもしれないが、干ばつが起こったときの食料と考えたときに干ばつが解消した瞬間に使い物にならなくなるのでは困る。しかし、雨が多くても少なくても育つなどという都合のいい植物などこの世に存在するのだろうか?
「せめて、畑に屋根があればね……」
雨が降りこまないということは同時に陽のあたりも悪いのだろう。その環境で育っているということは水が少なくて、陽のあたりの悪い場所で育つ作物なのだろう。
「畑に屋根か……それもありかも。畑に屋根……」
そこまで考えて、クリスは自分がつぶやいた言葉を繰り返しつぶやく。
普通の環境で育たないのなら、育つ環境を作ってしまえばいい。そう考えた結果だ。
「ねぇメイド長。畑に軽く屋根を作ってそこでこれを育てるなんてどうかしら?」
「……そうですね。どういった構造になるかにもよりますが、水をやる手間がかかるかと……」
「そのあたりも含めて検討するから、執務室に帰りましょう」
「はい。かしこまりました」
その会話を交わした後、クリスは青年に礼を言ってから、メイド長とともに執務室へと戻った。




