表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/160

アニー旅立つ

 話し合いから数日。

 ついにアニーが旅立つ日が来た。


 彼女は大きな荷物を抱え、クリスとともに城門のところまで来ていた。


 クリスの休暇の理由として、表向きには旅をして見分を広げるということになっている。そのため、持ち物やなんかも少し大げさに用意している。


「アニー。元気に帰っておいで」

「はい。ありがとうございます」


 メイド長や衛兵長、その他多数の使用人が見ている手前、変なことをするわけにもいかず本当に彼女がどこかへ旅立つような演出をする。実際は隣町へ行くだけなのだから、そこまでする必要はないのだが、当の本人たちに怪しまれないようにするためには仕方のない措置だ。


 クリスはアニーの方へと歩み寄る。


「……アニー。くれぐれも頼みましたよ」


 そして、アニーにしか聞こえない程度の声量で囁くと、彼女は小さくうなづいた。


「それでは、いってまいります」


 そういってからアニーは一礼し、クリスたちに背を向けて歩き出す。


 もともと小さいアニーの背中は歩いていくにつれてさらに小さくなっていき、やがて見えなくなる。


「……行っちゃったわね」

「はい。でも、彼女はきっと大きくなって帰ってきますよ」


 クリスがぽつりとつぶやいた言葉にメイド長が返答する。

 それに対してクリスは小さく頷いく。


「そうね。信じていましょう。彼女が無事に帰ってくることを」


 クリスは若干目を潤ませながら答える。ただし、忘れてはいけないことがひとつある。アニーがこれから行くのは隣町である。

 しかし、それを悟られるわけにはいかないのでクリスは全力で芝居をする。それこそ、彼女が二度と帰ってこない旅に出るかの如く振る舞い、その場は終わりを告げる。


「……全く、姫は大げさですね」


 そんなクリスに向けて、メイド長はクスリと笑いながらそういった。

 確かに少しオーバーにやりすぎたかもしれない。でも、中途半端にやってわざとらしくなるよりはずっとましだ。


「さて、そろそろ戻りましょうか」

「はい。かしこまりました」


 アニーの背中が完全に見えなくなってから約十分。

 クリスはようやくその場に背を向けて歩き出す。


 メイド長と衛兵長もそれに続いて歩き出した。


「それにしても、寂しくなりそうですね」

「そうね。あの子はずっと私のそばにいたから……まぁその分代理のメイドには頑張ってもらわないといけないわね」

「はい。本人も張り切っていますよ」


 クリスとメイド長は穏やかに会話をしながら王宮内に戻っていく。


 それから少し遅れるような形で衛兵長は二人の後について歩いていた。




 *




「いなくなって初めて気づく大切なものっていうのはこういうことなのかしら?」


 アニーが旅立った次の日。

 部屋で朝食をとりながらクリスがつぶやく。


「私では不満ですか?」

「あぁいや、そういうわけではないんだけど……」


 クリスの言葉にアニーの代理としてやってきたメイド……というかメイド長が眉を潜ませる。


「いや、なんというかその……アニーにはアニーのメイド長にはメイド長のいいところがあるから誰がよくて誰が悪いっていう話じゃないんだけど……やっぱり、人が変わると雰囲気も変わるなって……」


 メイド長とともにアニーを見送った後、メイド長は自分がアニーの代理だといって自らの部屋までついてきたのである。

 そこまではよかったのだが、そこから先は大変だった。


 王女としての礼儀作法がどうだとか、食事の態度がどうだとか、生活習慣がどうだとか……これまでアニーに指摘されてこなかった数々の生活習慣やマナーの乱れを次々と追及され始めたのだ。そもそも、人間世界の王族のふるまいなど知る由もないクリスからすれば、初めて知ることばかりでそのたびにそんなことも知らないのかと叱られ、指導される始末だ。


 これは大変な一か月になりそうだ。


 クリスはメイド長に気づかれないぐらいに小さく息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ