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使用人の情報(後編)

 王立図書館の奥の部屋にこもってからどれだけの時間が経過しただろうか。


 時々ある採光口から入ってきた光はすっかりと赤色に染まり、本棚の上に置いてある灯りがいっぺんに点灯する。


「まだ見つからないわね……」


 あたり付けをしてから大体二十冊は確認したが、あの二人に関する情報は出てこない。


 一冊当たりが分厚いのに加えて情報がかなり雑多に書かれているため、必要な情報を探すのにどうしても時間がかかってしまっているのだ。

 さらに言えば、いくら時期を絞り込んだとしても、労働条件が悪いためか、使用人の入れ替わりというの意外と激しく同時期に採用されたと思われる使用人の数もかなり多い。そういったことも相まってどうしても時間がかかってしまっているのだ。


 ここまでしても見つからないのなら、実はあの二人の情報など最初からないのではないか。そう思い始めたとき、横で別の本を確認していたアニーが声を上げた。


「ありました!」

「よくやったわアニー!」


 クリスは持っていた本をたたんでアニーが見つけた資料を覗き込む。


「確かにこの二人ね……まさか、同じ日に採用されていたなんて……」

「ますます怪しくなってきましたね」


 そこに書かれている情報によると、二人の名前は衛兵の方がアンドレ。メイドの方がサラと記されている。


「この二人、共通点が多いですね……同郷で年齢もほぼ一緒。幼馴染とかですかね?」


 アニーが指摘するようにこの二人には共通点が多く見受けられる。

 まず、出身地であるが、二人とも王都の南にある集落の出身で年齢もアンドレの方が一つ上というだけでほぼ一緒だ。となると、二人は顔見知りである可能性は非常に高いだろう。


『二人に絞って調べて正解だったかもしれないわね』


 この状況にはメイも手ごたえを感じているらしく、その表情はこれまでにないほどの笑顔だ。


「よし。それじゃこの二人についてもう少し詳しく調べてみましょうか」

「もう少しってどうやってですか? って……まさか」

「そのまさかよ。アニー」


 出身地がわかっているのだ。となれば、やるべきことは一つ。


「この二人の出身地に乗り込んで聞き込みよ」

「また脱走ですか……」


 まさしく第四次脱走計画の始動した瞬間である。

 堂々と脱走を宣言するクリスを前にしてアニーもメイもあきれ顔だ。しかし、ここにある情報は出身地と名前、年齢、性別、最初に従事した役割ぐらいでそれ以上の情報は書かれていない。この程度の情報なら直接聞いてもよかったもかもしれないが、それをしたことによって怪しまれては意味がない。そういった意味ではこの対応は正解だったのだろう。


「さてと……とりあえず出身地の情報だけメモをして外に出ましょうか。いい加減お腹がすいてきたし」

「かしこまりました。それでは戻ったらすぐに夕食を準備いたしますね」


 その後、クリスはさらさらと情報を書き写し、本をもとの場所に戻す。


 そうした後は二人を伴って部屋の外へ向けて歩き出した。


「それにしても、思いのほか早く見つかりましたね。正直、最初にこの部屋を見たときは一週間ほどかかるのではないかと思っていました」

「そうね。早く見つかったのはメイのおかげね。感謝しているわ」

『ありがとう。そういってくれると嬉しいわ』


 自分が役に立っているという事実がうれしいらしく、メイは満面の笑みを浮かべ、何度も何度もくるくると回っている。


 しかし、本当の問題はこれからだ。


 あの二人のことをもっと詳しく調べるのは確定として、どうやって王宮から抜け出すかという点と抜け出したとして、どうやって調べるかという点だ。


「今日の夕食は何をご用意いたしましょうか?」

「……あぁそうね。適当に用意してもらってもいいわ。アニーの好きなものでいいわよ」

「かしこまりました」


 夕食について尋ねるアニーに返答をしながらクリスは小さく笑みを浮かべる。


「夕食を食べてから作戦会議ね」


 部屋から出る直前、クリスはぽつりとつぶやいた。

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