使用人の情報(前編)
クリスがメイドや使用人たちを呼び出して話を聞いた次の日。
クリス、メイ、アニーの三人は図書館を訪れていた。
これはアニーがクリスの部屋に入っていないと証言した二人について聞いたところ、メイド長より図書館の奥の立ち入り禁止区域にある王宮で従事している人の一覧を見ればいいのではないかというアドバイスを受けたのでそれに従っての行動だ。ついでに言っておくと、クリスの立場は一応王女なので図書館の立ち入り禁止区域に事由に出入りできる程度の権限は持っている。
「それにしても、立ち入り禁止区域って図書館の司書ですら入れないのね」
『まぁ結構、王宮の根幹にかかわる情報とかもあるからね。警備も厳重だし、入れたとしても王族以外は中身が見れないようになっているはずだから、司書がついてきても意味がないというかなんというか……』
クリスの質問に答えるメイはどこか歯切れの悪い口調だ。その様子を見る限り、この状況にはクリスの王宮内での立場も少なからず影響しているのかもしれない。
普段は使用人たちと親しくしており、ほかの王族と接することがないため半ば忘れかけていたのだが、クリスの立場は王族の中では底辺だということができる。その理由はすべてクリスの出生に関するものだというのだからたちが悪い。こればかりは改善しようがないからだ。
「それにしても、警備をしてあるとはいえ、私たち使用人の情報が図書館にまとめられているとは思いませんでした」
「そうね。こういったものは王宮の奥とかに保管されていると思っていたわ」
『王宮の人間からすれば、使用人の情報なんてどうでもいいのよ』
メイの言葉を聞いてクリスは少なからず納得する。
この王宮の主である王族たちからすれば、使用人のことなど気に止めるような存在ではないのだろう。
「……さて、ついた」
そんな話をしている間に図書館の一番奥に到着する。
「クリスティーヌです。通してください」
クリスは早速扉の前で警備をしている衛兵に声をかける。
「クリスティーヌ様ですね。かしこまりました」
衛兵はクリスに向かって深々と頭を下げてから、扉を開ける。
「どうぞ。お入りください」
続いて衛兵が扉を押さえてクリスを部屋の中に迎え入れる。
「ありがとう」
クリスたちが礼を言いながら部屋に入るなり、衛兵たちは素早く扉を閉じる。その態度を見る限り、一応警備はちゃんとしているのだろう。
「それにしても、膨大な量ね」
扉から視線をはずしたクリスが振り向いてやっとでた一言がこれだ。
クリスの視線の先にあるのは奥が霞んで見えないほど続く本棚で作られた壁だ。
その奥行きも去ることながら、高さもクリスの身長の三倍はあるように見受けられる。
『この中から探すとなると、結構時間がかかりそうね』
「時間がかかるなんてものじゃないわよ。一体全体何日かかるのやら……」
見たところ、本の背表紙に探している人物を見つけられるような情報があるようには見えない。となると、この本を一つ一つ読んで確かめなければならないということなのだろうか?
「メイ。なんかこう、効率よく探す方法はないの?」
『少なくとも私は知らないわね。仮に司書が知っていたとしてもそう簡単に答えてくれるとは思えないし』
「そうなの?」
『司書は使用人に比べると、王族に近い立場にあるとだけ言っておくわ』
どうやら、王族以外は味方。などという都合のいいことはないらしい。メイの言葉尻にそんな思いを感じ取りながらクリスは深くため息をつく。
「まぁとりあえず探してみましょうか」
クリスのそんな一言とともに図書館内での捜索が始まった。




