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クリスの部屋に入れる人物(前編)

「クリスティーヌ姫の部屋に入る可能性がある人物ですか?」


 王宮内にある使用人休憩室の横にある個室。

 その部屋に呼び出されメイド長はクリスからの質問をつぶやきながら眉をひそめる。やはり、いきなり理由の説明もなしに質問をしたのはまずかっただろうか?


「えっと……この質問なのだけど……」

「言いにくい理由でしたら別に言わなくても構わないのですが……それを調べてどうするおつもりですか?」

「調べてどうするって……それは……」


 やはり、目的を告げない時点で多少なりとも怪しまれているようだ。

 なら、正直にここまでの経緯を話すか? そういった考えが頭をよぎるが、それはあまりよろしくない様な気がする。

 そもそも、勇者が悪者だという証拠がつかめていないため、どうしても説得力に欠けるし、それを告げたら勇者が悪者なはずがないと諭されて逆に調査が進まなくなる可能性もある。


 しかし、このまま理由も言わないのも不自然だろう。


「えっと……」

「クリスティーヌ姫の部屋から身に覚えのない物が出てきまして……誰かが落としたのではないかと落とし主を探しているのですけれど、誰が入ったかとはわかりませんか?」


 そんな中、横に控えていたアニーがメイド長の質問に回答する。


「落とし物ですか? でしたら私がいったん預かって……」

「いえ、それは結構だそうです。暇つぶしもかねてご自分で探したいと申されています」


 言い訳としてはいろいろと苦しいような気もするが、大丈夫だろうか?

 そんな思いを乗せてちらりとメイド長の様子をうかがってみると、彼女は顎に手を当てて深く思案するような様子を見せている。


「まぁいいでしょう。どうせ、私が探すといっても聞き入れてもらえないでしょうし」


 彼女としてはこれ以外にもいろいろと聞きたいことがあったのかもしれないが、結局、最後の最後でメイド長の方が折れるような形で議論は決着の様相を見せる。


「……ちょっと待っていてください。クリスティーヌ姫の部屋に入りそうな人物を何人か連れてきますので」

「あぁいや、そこまでしなくても……教えてくれれば私の方から勝手にいくから」

「そういうわけにはいきません。せめて、この部屋の中で物事を完結させてください。では」


 それだけ言うと、メイド長は部屋から出ていく。


 部屋に取り残されたクリスは呆然とした様子でその背中を見送る。


「最後の最後でしてやられましたね」

「私には自分の満足がいく答えが得られずにすねただけに見えたけれど」

「そうですか? まぁあなた様の目にそう映るのならそうなのでしょうね」


 なぜ、アニーがしてやられたと感じたのかはわからないが、最後の最後でメイド長の思う通りにことが進みだしたのは事実だろう。

 おそらく、彼女としては部屋に入った人物の調査は容認できるにしても、クリスがむやみに王宮内を歩き回るのはよしとしないと考えているのだろう。


「はぁこれは長引きそうね……」


 言いながらクリスは近くの椅子に腰かける。


 メイド長は簡単に集めてくると口にしたが、それは仕事中のメイドを何人もこの場に集めるということを意味している。つまり、そのたびに仕事の引継ぎだったり、当人を探すという作業を発生するわけであり、クリスが自ら赴くよりも間違いなく時間がかかる。


「まぁ仕方ないのではありませんか? お茶でも入れてくるので少々お待ちください」


 クリスの言葉を聞いたアニーは恭しく頭を下げて部屋から出ていく。


 その背中を見送ったクリスは深く深くため息をついてメイに話しかける。


「どうして、こうも自由に動けないのかしら……」

「それはあなたが王女だからよ。中身はともかくね」


 その会話のあと、クリスは再び深いため息をつくのだった。

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