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部屋の中で(後編)

「……なにこれ……」


 棚の中にあった荷物を一通りどかし、その床を見るとなにかの紙の切れ端が落ちていた。

 クリスはそれを拾い裏返してみる。すると、何やら多数の線が書かれていることが見てとれた。


「ただの紙の切れ端というわけでは無さそうですね」

「みたいね。これだけだとわかりづらいけれど、一種の魔法陣にも見えるわね。あとでアンズにでも聞いてみようかしら?」


 クリスが手に取った切れ端に書いてある無数の線は魔法陣を描くために必要な記号の一部にも見える。黒い紙に書かれたそれらは淡く白い光を帯びていて、どこか不気味な雰囲気を放っていた。


「にしても、これが魔法陣だとしたら、なんの魔法をかけるものなのかしら?」

「それは専門家に見てもらった方がよいのでは? それよりも重要なのはどうして魔法陣の一部がここにあるのか? という点だと思いますが」

「状況からして、勇者が置いたのかしら?」


 仮に勇者がこの部屋に入った目的がこの魔法陣を設置することだったとすると、この部屋の捜索は一定度の意味があったということになる。

 ただし、この事実は新たな問題をはらんでいた。


 そもそも、この魔法陣は完全な状態ではなく、一部しか残っていないのだ。これが意味することは、勇者がこれを仕掛け、効力を発揮し終えた後に誰か魔法陣を回収したということである。

 普通に考えれば、仕掛けた本人といいたいところだが、残念ながらそれはあり得ない。


 なぜなら、魔王城に向かっているはずの勇者が王宮にいては不自然だし、少なくともクリスがいるときに勇者が部屋を訪れたことはないからだ。

 仮に城から脱走しているときに勇者が来たのだとしても、正面から堂々と入ってきたのなら、何かしらの形でクリスの耳に入るだろうし、誰にも見られずに侵入というのはたやすいことではないはずだ。そうなると、王宮内……それもクリスの部屋に入ることのできる人間が勇者に協力しているということになる。


「置いたのは勇者……回収したのは王宮関係者……もしかしたら、勇者が話していた相手かしら?」

「……そうなると厄介ですね。いずれにしても、王宮の関係者と協力関係に無ければあなた様の命を狙うことなんてできないでしょうけれど……仮に勇者本人が回収したとしても、この部屋に入るためには誰かがこっそりと勇者を招き入れる必要があるわけですし……となると、王宮の衛兵がこぞって姫の捜索をしていた時に潜入した可能性が高いように感じますね」

「……あぁまぁ……そうかもしれないわね」


 どうやら、アニーの方が一枚上手だったらしい。というか、なぜここまで頭が回るのにダメメイドだとか言われていたのか理解できない。一体全体彼女は何をやらかしてそのように言われているのだろうか? 今の彼女の立場といえば、完全にクリス専属メイドではなくクリス専属の策士である。


 そんな彼女はしばらく考え込むような仕草をとっていたが、唐突に立ち上がりクリスの顔をじっと見つめる。


「……そういえば、あの噂って本当なんですか?」

「……噂って?」

「あなたが冬の森で衛兵から逃げ回っていたっていう話ですよ。正直、半信半疑だったんですけれど」

「あぁあれは……あはははは」


 そういえば、クリスが最初に脱走したとき、アニーはまだ専属メイドではなかった。あの後も、話に上がることはなかったから知らないないのかと思っていたが、どうやら噂程度では知っていたらしい。


「やっぱり本当だったんですね……となると、一回目の脱走のときに侵入された可能性が高いかもしれませんね」


 クリスはアニーの半ば呆れたような声を聴きながら乾いた笑い声をあげていた。

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