部屋の中で(中編)
紅茶をのみ一息ついた後、クリスたちは作業を再開する。
「窓、閉めておきますね」
「あぁありがとう」
メイド長が部屋に入ってきてすぐに開けた窓をアニーが閉める。
そのおかげで先ほどまで通っていた風がなくなり、すこし部屋が暑くなるが、せっかく見つけた証拠が窓の外へと飛んでいくようなことがあってはならないのでこの程度の我慢は仕方ないだろう。
「そういえば、先ほどメイド長が来ていたみたいですけれど、何かあったのですか?」
「えっあぁさっきのはそんなな大したは話じゃなくて……この場所に来る前ミリィと話をしたでしょう? そのことについて気になっていたみたいで……」
「気になるというと?」
「ミリィの話のなかで勇者が私の部屋に入っていたっていうものがあったでしょう? あの話をしたことで私と勇者の仲が裂かれてしまったんじゃないかって心配してたみたいで」
クリスが事情を話すと、アニーはどこか納得の行かなさそうな表情で首をかしげる。
「……でも、人払いがされていると知っていて、その話のためだけに部屋に来たりしますかね?」
「まぁ確かに不自然だなとは思ったけれど……どうなのかしら?」
「不自然ですよ。まぁあのメイド長のことですから、一刻も早くミリィを安心させたいと焦っていたのかもしれませんけれど……」
「あぁまぁ大丈夫じゃない? メイド長なら別に話を聞かれたとしても困るわけではないし」
クリスとしては今回の件に比較的協力的な態度を見せているメイド長に対して、あまり悪い印象は抱いていない。むしろ、城から出るのを見逃してくれたりと感謝しているぐらいだ。
そういった意味では多少何かあったぐらいでは気にならなくなっているのかもしれない。
「……まぁそういうことなら問題はないと思いますけれど……」
しかし、アニーはあくまでも不満げだ。
確かにメイド長が人バラをされている部屋に入って来たのは事実なのだが、最終的に部屋に招き入れたのはクリスである。その構図を考えると、何ら問題はないように思えるのだが、アニーはどうも納得がいかないらしい。
「とりあえず、捜索を続けましょう。これ以上、この話をしていても無駄よ」
「……そうですね」
この問題についてはしっかりと話をした方がいいようにも感じたが、残念ながら時間に余裕がない。というのも、陽は徐々に傾き始めており、夜が迫ってきているからだ。
いくら部屋の中とはいえ、夜になれば捜索はしづらいし、クリスが寝るために部屋をいったん片付ける必要が出てくるからだ。
クリスとしては使用人の部屋でも借りて寝ればいいと考えていたのだが、アニーから“それは目立つからやめた方がいい”と進言されたため、それに従う形だ。
そういった事情を考慮すると、部屋の捜索はできる限り陽が落ちる前に終わらせたいというのが正直な心情だ。
「アニー。向こうの棚の中を調べるわよ」
「はい。かしこまりました」
クリスから早速指示が飛ぶ。
アニーもそれに従って、素直に動き始めた。
このような状況を見ていると、クリスは改めて自分とアニーの関係はあくまでの主従なのだなと認識する。王宮の外に出て少しはそういった関係から離れられたのではないかと考えていたのだが、そうはいかないらしい。
「どうかしましたか?」
「えっあぁいえ、なんでもないわ」
棚の前で待機しているアニーに声をかけられてクリスは現実に引き戻される。
クリスはそのまま棚の方へと向かうと、長らく開けていなかった棚の扉を開いた。




