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クリスティーヌの出生

 王宮の一角にあるクリスの部屋。

 クリスはそこに置いてあるベッドに寝そべり、枕に顔をうずめていた。


 メイはベッドに腰掛けた。


『クリス……』

「メイ。あなたは悔しくないんですか? やっと帰ってきて、あんなこと言われて」

『……何とも思わないとは言わない。でも、昔からだから……お父様は昔からあぁだった』


 メイが表情を崩すことはない。

 無表情で淡々と語っている。


「昔からって」

『物心がついたときから……あなたは王宮内部の事情なんて知らないでしょうけれども、ここでは何よりも長男である私の弟が重宝される。あの人はいらないのよ。正妻との子ができない中で愛人との間に生まれてしまった私なんて』


 初耳だった。

 ずっと前、国王が子宝に恵まれないという話は有名だったが、そんな話は聞いたことがない。


 それに彼女には悪いかもしれないが、表舞台に出てこなかったせいでクリスの存在は実際にさらうまで知らなかった。

 だから、部下は彼女をさらってしまったのだから……仮にそういう立場の人間だと知っていれば、まず手は出さなかっただろう。


 これもまた、国王が彼女に興味を示さなかった結果の一つなのかもしれない。


『これから話すのは私の出生について……本当ならあまり人に話したくないけれど、あなたがこれから王宮でいかにしてふるまうか学習してもらうために話すわ。本当は王宮につく前に話そうと思ってたんだけど、ゆっくり話せなかったから』


 そこから、メイは子供におとぎ話を聞かせるような静かな口調で話し始める。

 自身の生まれてから魔王の手下にさらわれるまでの話を……




 *




 クリスティーヌは王宮の一角で産声を上げた。

 その知らせを聞いた国王は顔を真っ青にさせて部屋に飛び込んだという。


 その国王が目にしたのは、愛人が自分の子供を抱きかかえている姿だ。


「……なっ……」

「ベッドの上で申し訳ございません。この子は女の子ですが、念願の子供であることには変わりありませんよ。これで私を正妻にしていただけますか?」


 その言葉はまるで死刑宣告のように聞こえただろう。

 このままでは浮気がばれてしまうと……


 そこから国王がどうしたのかは定かではないが、紆余曲折を得てクリスは王家の長女として迎えられることになった。

 これには、他に子供がいなかったからという点が大きいだろう。


 しかし、クリスが二歳になるころ。

 正妻が身ごもったことにより事情がガラリと変化する。


 その前ぐらいまでは多少距離があるもののちゃんと接してはいたが、その日からクリスにまったく興味を示さなくなったのだ。

 生まれた子が男の子だったことがそれに拍車をかけ、気づけばクリスの世話をする使用人の数も減っていたという。


 その後、クリスは父や弟とほとんど会うことなく成長し、現在に至る。




 *




『大体わかったでしょ? 私の立場……まぁそういうわけだから、悪目立ちしないようにしてほしいっていうのもお父様が興味を示さないのもそういうこと。わかった?』

「……わかったわ」


 それがすべてかもしれないし、それだけではないかもしれない。

 ただ、その真実は国王の心の中にしかない。


「まぁ言われなくてもおとなしくするつもりだ。誰かにばれてはまずいからな……少し待てばきっと、アベルが何とかしてくれるはずだ」

『そうね』


 メイは昼間同様に窓の外を眺めている。

 彼女はこの瞬間、なにを思っているのだろうか? 彼女の心中もまた、クリスが知れることではない。


 そうして夜も更けていく。


 そのまま、寝てしまおうと考えたとき、ドアをノックする音が聞こえた。


「私だ。入ってもいいか?」


 続いて聞こえてきた声は紛れもなく勇者のものだった。

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