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閑話 勇者担当メイドの憂鬱

 王宮の一角にある中庭。

 いつの間にかきれいに整備されていた畑があるその場所でミリィは縮こまるように体操座りをしていた。


 本来なら自らの持ち場である国王主催の晩さん会の準備に戻るべきなのだが、どうもそれがうまくできるような気がしなかったため、こうして中庭までやってきたのだ。


「はぁ……余分なこと話しちゃったかな……」


 勇者について聞きたい。つまり、姫は勇者に好意を持っているのだろう。だから、姫は勇者のすべてを知りたいと思っている。


 そんな考えから、必死に記憶の糸をたどり、勇者のいいところを並べたつもりでいた。それでもなお、姫が納得するようなそぶりを見せなかったため、必死に話のタネはないかと探したところ、どう考えても余計なことをしゃべってしまった。


 自分のいない間に勝手に部屋に侵入されていたとなれば、姫は間違いなく不機嫌になるだろうし、現にあの握られたこぶしは確かな怒りを示していたと思う。


 下手をすれば、自分が勇者と姫の間を裂いてしまったのではないだろうかとすら思えてきた。


「……どうしようかな……でも、わたくしでは勇者と姫の間を取り持つなんてできないし……あとでアニーにでも相談してみようかしら……」


 言いながらミリィは大きくため息をつく。


 しかし、そうしたところで状況が変わるわけでもない。


「……どうかしたの? クリスティーヌ姫に何かされた?」


 庭の端で頭を抱えだしたとき、ミリィの背後から声がかかった。


「メイド長ですか……いえ、わたくしが悪いのです。クリスティーヌ姫は何も……」


 ミリィは振り向かないまま声の主……メイド長に返答をする。

 振り向きすらしないのは失礼ではないかと一瞬、思ったのだが、今浮かべている表情を人に見られたくないという感情の方が勝ってしまったのだ。


「……そう。何をやったの? 謝罪なら一緒に行くわよ」

「いえ……あの……実は……」


 そこからミリィは順を追って説明をする。


 姫から勇者について聞かれたこと、自分が二人の仲を取り持とうと必死に勇者のいい面を伝えたこと、その中でうっかりと勇者の妙な行動について話してしまったこと……


 メイド長は話しが終わるまで何度もうなづきながら、じっくりと聞いていた。


 一通りの話が終わると、彼女は小さく息を吐き、ミリィに声をかける。


「……それなら大丈夫だと思うわよ。クリスティーヌ姫はそんな些細なことであなたに怒ったりはしないわ。むしろ、感謝しているんじゃないかしら?」

「…………感謝……ですか?」

「そう。だって、あとからその話を知ったらどうして話してくれなかったんだって怒ると思うわよ。むしろ、勇者のいい面も悪い面も話してくれたあなたに感謝していると思うわ。まぁ勇者とクリスティーヌ姫の仲はあまりよくない方向へと向いてしまったかもしれないけれどね……」


 メイド長の声色はとてもやさしいものだ。

 正直な話、持ち場を勝手に離れたことを起こりに来たのかと思っていたため、その言葉と同時に一気に緊張が解ける。


「……ありがとうございます。幾分か気が楽になりました」

「そう。ならよかったわ。あなたの持ち場にはほかのメイドを向かわせているから、もう少しゆっくりしていなさい。ただし、元気になったらいっぱい働いてもらうけれどね」

「……もちろんです。ありがとうございました」

「いいのよ。メイドの悩みを解決するのも私の仕事だから。あと、クリスティーヌ姫と勇者の関係の修復については何か考えてみるわ。そっちも任せてちょうだい」

「はい。ありがとうございます」


 ミリィが顔を上げて、メイド長の方を見ながらお礼を聞いうと、メイド長は小さく笑みを浮かべてその場から立ち去る。

 ミリィはその背中が建物の中に消えるまで見送った。


「……そうだよね。黙っているより良かったよね」


 自分に言い聞かせるようにそういうと、ミリィは立ち上がって大きく伸びをする。


「よしっ頑張ろう!」


 その言葉を残して、ミリィは中庭を離れた。

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