国王との面会
夜になると、メイの予想通りに国王から部屋に来るようにと言われた。
クリスは若干、重い気分で廊下を歩く。
『そこの角を左です』
誰か案内がつくわけでもないのでマナの案内だけが頼りだ。
途中ですれ違う人々は頭を下げると、あわただしく立ち去ってしまう。
どうやら、国王ではなくてもクリスは関わりたくない人間ということなのだろう。
「なんだか肩身が狭そうね」
『残念ながら事実ね。まぁ国王の話なんて簡単に終わるだろうから、肩に力を入れる必要なんてないわ』
「そうか」
『そうよ』
そんな会話をしながら歩いているのだが、周りの人は誰も気にしない。
いくらなんでも姫がぶつぶつと独り言を言いながら歩いていると誰かが声をかけると思うのだが、誰もそれをしない。
いや、姫だからかもしれないが……
今頃だが、姫の様子がおかしいだのなんだのと陰でうわさされていそうで怖い。
そんなことをいちいち気にしていたら、この先生きていけない気もするが……
とりあえず、ここは魔王城の牢屋で話す相手もなく、空想上の話し相手との会話にふけっていたことにでもしよう。
まぁそれで周りも納得してくれるだろうし、こちらから何にも言わなくとも勝手にそう納得してくれるはずだ。
『ここがお父様の部屋です』
そんなことを考えながら歩いていると、立派な扉の前にたどり着いた。
この造りからして、自室ではなく執務室や謁見の間と言ったところだろうか?
クリスは小さく深呼吸をしてからコンコンと控えめにノックする。
「クリスティーヌです。入ってもよろしいでしょうか?」
「来たか。はいれ」
相手の了承もとれたのでクリスはあまり音をたてぬようゆっくりと扉を開ける。
部屋の中には先代国王と思われる老人の肖像画とその前にある書斎机が置いてあり、沢山の書籍が置いてある本棚の上を始めとした各所に豪華な装飾が施されている。
魔王城にある執務室に比べ、きらびやかな部屋に思わず見とれてしまった。
「クリスティーヌ。こっちへ寄れ」
肖像画を見上げるような形で立っていた国王に声をかけられる。
クリスはゆっくりとそちらに歩み寄った。
「お父様。ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
ちょうど、書斎机を挟んだ位置に立ち、クリスが口を開く。
「……クリスティーヌよ。これ以上、国の恥さらしになるような真似はしてくれるなよ。なにもされなかったという点ではまだましだが、魔王なんぞにさらわれるなどという失態を冒してくれてわしの面目は丸つぶれだ。わかっておるな」
国王の口から出てきた言葉はあまりにも冷たいものだった。
実の娘なのだ。もう少しねぎらいの言葉があってもいいはずなのに……
クリスは思わず拳に力を入れてしまう。
『抑えて。さすがに今は立場が危うくなるのは避けたいから……とりあえず、黙ってやり過ごしなさい』
メイの言葉で少し冷静さを取り戻せた。
こちらに背を向けている彼がどんな表情を浮かべているか察することはできないが、この調子だとこっちを向いた途端に冷たい視線をぶつけてくるに違いない。
「まぁよい。今回は仕方ないとしよう。ただ、次に似たようなことがあれば、容赦はしないからな。わかったらとっととわしの部屋から出て行け。この面汚しが」
ふつふつと怒りが湧き上がってくるのを自覚していたが、ここで怒ってしまったら困るのは自分ではなくメイの方だ。
クリスはそのまま頭を下げて、部屋から出ていく。
「まったくもって不出来な娘だ」
そんな声が聞こえた気がしたが、聞こえないふりをしてそのまま部屋を飛び出していった。




