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マミの証言(中編四)

 クリスと出会って早数か月。

 マミは彼女の正体を機会もないまま、交流を続けていた。


 マミは時々マミのもとを訪れては近況を聞き、ちょっとしたお土産を置いて帰っていくというのを繰り返していた。


 結局、目的地へたどり着けなかったマミはクリスの紹介で鍛冶職人の工房に居候することになり、ある程度充実した日常を送っていた。

 数か月たって、落ち着いてくるとただ家に住んでいるだけであると迷惑になると考えて、最近ではある程度鍛冶職人の仕事も手伝うようになっていた。


「こんにちわーマミさんいますか?」


 夏も終わりに近づき、風も徐々に涼しくなってきたある日、クリスはいつものように土産である菓子を片手に工房に顔を出した。


「こんにちわ!」


 マミは工房の奥にある住居から飛び出てクリスを出迎える。


「あら元気そうね。ここに預けたには間違いじゃなかったみたい。鍛冶屋のおじさんもありがとね。この子を預かってくれて」

「……ふんっそいつが勝手に元気なだけだ。俺は何もしてないぞ」


 クリスが工房の奥にいる老年の鍛冶職人に声をかけると、彼はどこか不機嫌そうな顔を浮かべてそのまま住居の方へと姿を消した。

 そんな彼の背中を見て、クリスはくすりと笑ってからお菓子を近くの机に置く。


「全く、相変わらずあのおじいちゃんは素直じゃないのね……と、そんなことはさておいて、マミ。今日はマカロンを買ってきたわ」

「やった! ねぇ食べてもいい?」

「どうぞ。あぁちゃんとおじいちゃんの分もとっておいてね」

「わかってるって」


 今すぐにでも、マカロンを完食しそうな勢いのマミを制止すると、クリスはにこにこと笑いながら椅子に座る。

 そんな彼女を見て、マカロンを食べようとした瞬間、マミの中で小さな疑問が生まれた。


「そういえばさ、いつもどこでお土産買ってくるの?」


 よくよく考えれば、このご時世、マカロンのような菓子類は少々高価で入手しずらいものとなっている。

 少なくとも、このあたりの食料品店に行ってもマカロンはおろかクッキーすら見当たらない状況だ。


 クリスの身なりからして、ある程度の身分にいる人間には見えるのだが、こんな高いものを毎回もらっていていいのだろうか?

 子供ながらにマミはそう思ったのだ。


 そんなマミを前にしているクリスはクリスでマミの口から飛び出してきた質問に驚いているのか、目を丸くしている。


「えっと、どうしてそんなことを?」

「だって、このあたりで売ってないでしょ? だから、どこで売ってるのかなって」

「えっと……その……私って、その町から少し離れたところに住んでいるんだけどね。それで、家に住み込みでいるお菓子職人さんが作ってくれているからどこかで買ってくるとかそういうのじゃなくて……」


 クリスは眼を空に泳がせながらいろいろと言葉を紡いでいく。

 その中から見いだせた答えといえば、彼女はお抱えの料理人がいるぐらいには大きな貴族の人間だということだ。

 そんな彼女がどうして、こんなところにいるのかわからないが、この状況からしてそれを追求しても答えてはくれないだろう。


「……ふーん。住み込みのお菓子職人さんね……」

「えっあぁいや、住み込みというかあれですよ。居候。そう居候ですよ。今、修行中でよく練習で作ったものをくれるんですよ。ほら、そういうわけなので気にせずに食べちゃってください」


 クリスはそれでごまかし切ったつもりなのかもしれないが、いろいろと隠せていない。


 そんなことを考えながらマミはマカロンを口に含んだ。


「それじゃ、私はそろそろ行くから」


 これ以上、話を聞かれたくないという心理が働いたのか、いつもよりも随分と早く帰り支度をして工房から出ていくクリスに手を振った後、マミは先ほどまで持っていた疑問など忘れてマカロンを堪能し始める。


 また、おいしいお菓子を持ってきてくれないかな。


 マミはそんなことを考えながら笑みを浮かべる。


 しかし、この日を境にクリスが再び工房を訪れることはなかった。

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