マミの証言(中編二)
マミの部屋に到着してから約二時間。
意外と彼女の口は堅く、なかなか必要な情報が引き出せない。
これがだめならこう、あれがだめならこうだと次々と手を変えるものの、ことごとく見破られ、看過され、涼しい顔で交わされてしまう。
正直な話、彼女が何をしたいのかわからないが、これ以上時間を浪費することはあまりほめられたことではない。しかし、その一方でできることは限られている。
考えられる手段は大体やりつくしたし、暴力に頼るような穏やかではない手は取りたくない。となれば、あとはプライドをきれいに捨て去って、証言をしてくれるよう頼みこんでみるというのもありかもしれないが、そこまでして何も話してくれなかったら、本当の意味で打つ手がなくなってしまう。
「……ねぇ。そこまでいろいろな手を講じてまで私の証言が聞きたいの?」
そんな風に思い悩んでいると、唐突にマミから声をかけられた。
あまりに突然だったので一瞬対処ができなかったが、クリスはすぐに意識を彼女の方へと向ける。
「決まっているでしょ? 私としては、あなたがどういう立場でこの件にかかわっているのか知りたいんだから」
「そう……まぁ真実は知りたいでしょうね」
「……話す気にでもなった?」
「……いいえ。でも、そうね……あなたが相応の誠意を見せてくれれば考えなくもないわよ」
言いながらマミはにやりと笑って見せる。
これは言外にプライドを捨てて頼み込めとでも言っているのだろうか?
いや、おそらくそうではない。なんとなくだが、このまま彼女の言葉をそのままの意味で受け取って、土下座のようにプライドを捨ててしたところで彼女は話をするということを検討するだけで話してくれるとは限らない。
しかし、そうなると本格的に正解が見えてこなくなってきた。
「……あなたが求める誠意というのがどんなのかはわからないけれど、もう一度お願いするわ。私が暗殺されかけた件について、あなたは何を知っているの?」
だからこそ、クリスはあえて一番最初にしていたように普通に尋ねてみた。
これで何かを要求されればそれを受け入れればいいし、それができないのから諦めて撤退するべきだろう。
そんな思いをのせて、クリスは目の前に座るマミに視線を送る。
しばらくの間、彼女は表情を変化させることはなかったが、にらめっこのような状況が十分も続くと、ついにマミがクスリと笑い声をあげた。
「あらあら、ここであの子の体を借りていながら無様な態度をとるようだったら、追い出してやろうかと思っていたのだけど、どうやらそのあたりのプライドというか、信念はちゃんとしているみたいね……いいわ。話してあげる」
どうやら、黙ったままマミを観察してみるというのは思っていたよりもかなりいい方向に傾いてくれたようだ。
答えが出ないからという動機からの皮肉の策だったのだが、結果よければすべてよし。下手にプライドを捨てなくて正解だったようだ。
「さてと、それじゃあどこから話しましょうかね……」
マミは先ほどまでとは違い、どこか楽しそうな表情でメイが浮かんでいる方向の天井を仰いだ。




