第三次脱走計画のはじまり
人々が寝静まる夜中の王宮。
王宮の中でも比較的軽微の薄いとされている地区の廊下に二つの人影があった。
一つはアニーに借りたメイド服に身を包んだクリスでもう一つはとある衛兵の部屋からこっそりと拝借した衛兵の制服に身を包んだアニーだ。正確に言えば、クリスの右斜め前方にメイがいるのだが、彼女の姿は普通の人には見えないのであえて言及する必要はない。
この状況についてだけ説明しておくと、王宮の中での調査に限界を感じたクリスが再び街に出て調査をすると言い出したのがきっかけだ。
最初こそアニーもメイも危険だからと反対したのだが、クリスに押し切られるような形で了承し、現在に至っている。
この服装についてはいろいろと試行錯誤した結果だとだけ言っておく。
「おやおや、これはこれはこんな夜中にメイドと衛兵が二人でいるとは……逢引か何かでしょうか?」
「だとすれば、こちらとしても適切に対処しなければなりませんね」
暗がりの中から突如、聞こえてきた二つの声にクリスとアニーは凍り付いたようにその場で固まってしまった。
ゆっくりと振り向いてみると、いい笑顔を浮かべたメイド長とその横にたたずむ衛兵長の姿が視線に入る。
いつの間に彼らが接近してきたのかと考えると同時にクリスは必死にこの状況を打破する方法を考え始める。
だが、衛兵長だけならともかく、メイド長まで一緒となるとそう簡単にこの状況を打開できるとは思えない。
対応に困り、すっかりと固まってしまっているクリスを前にメイド長は小さくため息をついた。
「全く、こんなところで逢引とは本当にいただけませんね。そういうのは王宮の外でやってください……衛兵長。この二人を王宮からつまみ出しましょう」
「えっ? しかし……」
「だってもしかしもありません。その代わり、このメイドと衛兵には帰ってきてからそれぞれの仕事をきっちりとこなしてもらえばいいだけの話ではありませんか。というわけで、これから衛兵長と二人で案内するから好きなだけ遊んできなさい。ただし、帰ってきたらその分だけきっちりと働いてもらいますよ」
そういいながらメイド長は軽くウインクをしてから衛兵長の耳元で何やらぼそぼそとつぶやく。
「まぁそうですね。王宮で不適切な行為に及ばれても困りますので、素直に王宮の外まで同行願えますか? それと、今日を一日目と数えてその日数分だけきっちりと働いてくださいね」
念を押すように衛兵長がそういうと、前に衛兵長、後ろにメイド長が回り四人で歩き出す。
「……えっと……その……」
「大丈夫ですよ。クリス様が何日も姿を現さないことはあまり珍しいことではありませんので」
「えっと……そうかもしれませんね……」
先ほどまで状況が全く呑み込めなかったが、どうやら二人は自分たちの正体を看破したうえで見逃してくれるといっているようだ。
二人がどのような理由からこのような行動に出ているのかわからないが、脱出させてくれるというのなら従わない手はないだろう。
「……ありがとうございます」
「お礼なんていいですよ。私たちは王宮内で不適切な行動をしているメイドと衛兵を追い出すというだけの話ですから」
メイド長はにこにこと笑みを浮かべながらクリスの頭にポンと手を置く。
「……私などが言える立場ではないかもしれませんが、無事に帰ってきてくださいね」
彼女はそういった後、表情を無表情に戻して前の方へと視線を戻す。
クリスはもう一度小さな声で“ありがとう”とつぶやいたあと、衛兵長の背中を追いかけながら王宮を出てからの計画を練り始めた。




