証言の整理
「……まぁ城内で聞ける証言といえば、このぐらいよね……」
衛兵長とメイド長。それぞれの証言がまとめられた紙の束を目の前にして、クリスがつぶやく。
ただ、この紙に書かれているのは大半が衛兵長の証言が書かれたものでメイド長に関しては書くに値するほどのことがほぼほぼなかったのでたったの一枚で終わってしまっている。
「でも、城外の人間の証言を集めようとすると、どうしても城を出る必要があるから難しいかもしれませんね。また城から抜け出すようなことがあったら、今度こそ何をされるか……」
「まぁそうよね。いくらなんでも時期が悪すぎるか……最も、相手もその時期を狙っていたのでしょうけれど……」
「というか、狙っていないわけないわよね。だって、この時期でなければ実行できないでしょうし……にしても、困ったわね。これだけじゃまったく真相にたどり着かないじゃない……」
そんなことをつぶやくクリスの頭の中には、いっそのことこのまま国外逃亡を狙ってもいいのではないだろうか? という考えが浮かぶ。
もちろん、残念ながらこの国には“国外”という概念はないのでそれに限りなく近い場所に行くという表現が正しいのかもしれないが……例えば、今のところ人類未踏の地となっている場所に挑戦してみるのもいいかもしれない。とまぁ非現実的なことも考えてみるのだが、現実はいつも非情で、仮に抜け出そうものなら国が総力を挙げて追いかけまわし、クリスたちをつかめた暁には今回の程度では済まないような目に合うのだろう。
一国の姫様というのは周りが想像している以上に窮屈なものだ。
『クリス。どうかしたの?』
さすがに余分な方向に考え事をしすぎていたらしい。
黙りこくってしまったクリスのことを心配するようにメイが声をかける。
「ううん。なんでもない……まぁとにかく、少なくともあと二人話を聞かないと……かといって、表面上は部外者になっているアニーに行かせるわけにもいかないし……どうしたものかしら……」
『あれだけアニーにやらせておいて、彼女はまだ表面上部外者だって言い切れるあなたってすごいわね』
「まぁそういうのは心持ちの問題よ。さて、改めて整理すると、二人の証言……というよりも、衛兵長の証言からして、私が解明したい謎は謎の黒服の手段とそれを束ねる黒幕の存在。そして、それを探る方法は?」
クリスはすぐ近くに控えているアニーに質問をぶつける。
彼女は少しだけ考えるそぶりを見せた後にすぐに答えを提示した。
「そうですね……やるとすれば、城下に出て直接探すか、誰かに該当の人物を探させて目の前に引っ張ってきてもらうかのいずれかでしょうか?」
「さすがアニー。そして、賊の顔をよく知っている人間といえば?」
「えっと……彼らに直接とらえられた衛兵長……ですか?」
「正解。まぁそれをするためには取り除かなければいけない大きな壁があるけれど……とりあえずはその方向で行きましょうか……というわけで、メイ。アニー。改めてその方向で作戦を練りましょう」
クリスは椅子から立ち上がり、窓際に立つ。
そこから見えるのは、この王宮のひざ元である城下町だ。
「……さて、本当の黒幕は誰なのか……アンズなのか、また別の誰かなのか……せっかくだから、ちゃんと追求しましょうか」
何かの決意を固めるかのようにクリスは静かな声でそうつぶやいた。




