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メイド長の証言(後編)

 メイド長の部屋はどことなく重い雰囲気に包まれている。

 その原因は間違いなく、部屋の中でにらみ合いを続けるメイド長とメイだろう。


 最初こそ、普通に当たり障りのないような話を聞いていたのだが、それに対してメイがのらりくらりと軽くやり過ごされていると感じたらしく、それを指摘したあたりからこの調子だ。

 おそらく、メイド長もメイもそのあたりで何か譲れないことがあるのだろう。


「……あっあのさ……二人とも、話が進まないので……なんというか、機嫌を直してもらえると助かるんだけど……」


 そんな二人に挟まれたクリスは恐る恐るそんな提案をしてみるが、どちらからも返答は返ってこない。


 ただただ、二人は無言でにらみ合っているだけだ。それこそ、クリスが声をかけているなどという事実に気づかない程度にはだ……

 そもそも、これにはクリスとメイのメイド長に対する感情の温度差が関係しているかもしれない。


 メイド長が何かしらで今回の件にかかわっていると考えているメイとメイド長が今回の件に関しては蚊帳の外だといっているのを信じているクリスとでは対応に温度差が出るのは仕方がない。


「ちょっとメイ。ずっと、ここで黙りこくっていていいわけないでしょ? メイド長も証言の続きをお願いしてもいいですか?」


 もう一度お互いにそれぞれ話しかけてみるが、返答はない。

 どうやら、状況はクリスが思っている以上にまずいのかもしれない。


 この戦い。先に動いた方が負ける。


 外野からそんなセリフを言ってみたいほど、二人の雰囲気は深刻だった。


 そんな状態のまま、時間はどんどんと経過し、そのまま三十分が経過した。


「……私の休憩時間が終わってしまうので失礼いたします」


 意外にも先に動いたのはメイド長だった。

 休憩時間中のみという時間的な制約があるメイド長と時間に関して制限がないメイとではこうなるのはある意味で予想通りなのかもしれないが、それを踏まえてもなおその行動に対しては意外だと思えてくる。


『……逃げるの?』

「違いますよ。そもそも、私は無実です。それとも、あなた様は“そもそも存在しない事実を存在していないと証明しろ”などという悪魔のような問いかけをするつもりなのですか?」

『悪魔の証明ね。その事実が本当にないのならそうなるのかもね』

「そうですか。まったく、あなたの姿どころか声まで聞こえるあたり、私は自ら望まないのに巻き込まれている感が否めませんね。それでは、失礼します」


 そのままメイド長は静かに頭を下げて退室していく。

 それと同時にあまりにも自然に話していたので半ば忘れていたのだが、前にメイと会ったときはメイの姿が見えるだけという状態だったにも関わらず、今日になってメイと会話ができているという点はある意味で重要な点かもしれない。


 ただ、喫緊の課題は今まさに噴火しそうな火山だといえるのかもしれないが……


『まったく、何よあの態度は! 報告書提出を求められたときにこれと言って書くことがないとしか言いようがないぐらい何も言っていないじゃない! 本当にどういうつもりなの!』

「まぁまぁ本当にそれぐらいしかいうことがなかったのかもしれないし……ほら、いったん部屋に戻ってアニーも交えた作戦会議やろう? メイド長をさらに追及するべきかどうかっていうのはそのあと話せばいいわけだし……」

『だからって!』

「メイ。もうちょっと冷静になってよ。何をそんなに焦っているか知らないけれど、焦っても結果は出ないでしょう? ほら、アニーのところに帰りましょう」


 これ以上この部屋にいても時間が無駄になるだけだ。

 それに、このままではメイが証拠を探すといって部屋をあさりだす可能性もある。そうなってはいろいろとまずいので早々にこの場を撤退するべきだろう。


 クリスはメイを引っ張り出そう……として、彼女に触れられないことを思い出し、結果的に約三十分にわたる交渉の末、一緒にメイド長の部屋を出て自室へと向かった。

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