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衛兵長の証言(後編)

 小さな部屋の中はそれに似合わないような重苦しい空気に包まれていた。

 衛兵長は気まずそうにうつむき、しばらくあちらこちらに視線を泳がせた後にゆっくりと口を開いた。


「……その、実はある人物からそういった話を持ち掛けられまして……」


 それをきっかけに衛兵長はゆっくりと事情を語り始める。

 きっかけはクリスの第二次脱走計画のころ、町中で黒いローブの男に声をかけられたのがきっかけなのだという。

 町の中で捜索しているふりをしていたところ、男の路地に引き込まれ、その後彼の仲間と思われる数人の男たちに囲まれてクリスの暗殺計画について持ちかけられたそうだ。

 当然ながら、最初はそんなことはできないと断ったそうなのだが、家族が人質に取られていることを知ってしぶしぶ協力を申し出たのだという。


 そのあと、別の人物……鍛冶屋のマミから状況を打開するための方法を提案され、それに食いついたのだそうだ。

 事の顛末を話し終えた衛兵長はそのままいきおいよく頭を下げる。


「申し訳ございません! 衛兵長たるわたくしが賊に協力するなど……本当に申し訳ございません!」


 そのまま衛兵長は席から離れて床に頭をこすりつける。


「いやいや、本気で私を暗殺しようとかそんなのじゃないんですよね? ほら、頭をあげてください」

「本当に申し訳ございませんでした!」

「頭を下げてくださいって。もう済んだことですし、あなたが敵ではないというのはわかりましたので」

「本当に……本当に私は!」


 本人からすれば取り返しのつかないようなことをやってしまったと考えているのだろう。あとでちゃんとクリスを助けようと動いたとはいえ、いったんは賊に加担していたわけだ。

 彼はひたすら頭を下げ続ける。


「衛兵長。頭をあげてください。話せる範囲でかまいません。私を狙っている賊について話してください」

『ちょっとクリス。私が言うのもなんだけど、ここまでコロッと許しちゃってもいいの?』

「今はそれよりもことを解決するのが優先よ。口を出さないで」

『……わかった』


 メイとしては不本意なのかもしれないが、間違ったことを言っているつもりはない。

 責任の所在やら処罰やらを考えすぎて、問題解決が先送りになるのなら、それは本末転倒だ。最も、目の前の衛兵長が今まさに裏切ろうとしているのなら話は別だが……


 メイとクリスでは生まれた環境も育ってきた環境も違うのである程度考え方が違うのは仕方ないが、こういう時にそういった考え方の違いからぶつかるというのはどう考えても時間の無駄だ。緊急事態でなければある程度の議論は必要だろうが、今はその時ではない。証拠がなくなるより先に黒幕がだれなのかはっきりとさせる必要がある。グダグダと議論を交わして、証拠を逃すようなへまはしたくない。


「衛兵長。よく話してくれました。アニー。次はメイド長よ。この部屋を抑えたまま待っていて頂戴」

「わかりました」


 アニーが深々と頭を下げているのを横目に見ながら衛兵長とともに外に出る。


 メイはいまだに不満そうな表情を浮かべているが、今はそれを気にしていられない。


 クリスは足早にメイド長のもとへと向かった。

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