衛兵長の証言(前編)
昼下がりの休憩室。
一仕事を終えてすっかりと落ち着いているその場所にクリスは何の予告もなく現れた。
「……失礼するわよ」
そんな一言とともにクリスが入ってきた瞬間、騒がしかった部屋が一気に静まり返った。
中でも休憩室の一番奥にいる衛兵長に至っては顔を真っ青にさせている。
「……衛兵長」
「はっはい」
休憩室の入り口からクリスが彼を呼ぶと、衛兵長は顔色をそのままに立ち上がり、クリスの方へと駆けよってくる。
兵士たちは誰に言われることなく衛兵長に道を譲り、彼は不本意ながらも真っすぐとクリスの前へとたどり着いて膝をついた。
「衛兵長」
クリスがもう一度呼ぶと、彼は深々と頭を下げる。
「……ついてきなさい。別室で話をしましょう」
「はい」
メイが言っていたことがすべて本当であれば、彼の中でも何か思うところがあるはずだ。むしろ、後ろめたさもあるかもしれない。
クリスはそのまま振り返って休憩室から出ていく。衛兵長もそれに従うようにして立ち上がり、歩き始めた。
すぐ近くにある部屋をアニーが抑えているはずなのでとりあえずはそこを目指して歩いていく。
廊下を歩く間、クリスも衛兵長も一言も言葉を発しないため、どことなく空気が重くなってしまっているが、これは仕方のないことだろう。
ここで楽しく会話ができたら少し引いてしまう自信がある。
そのあと五分間ほど、沈黙のまま歩き続けていると、アニーが待っているはずの部屋の前に到着し、クリスは部屋の扉を開けて中に入り、衛兵長もおとなしくそれに従う。
部屋の中ではすでにアニーが四人分の椅子を用意して待っており、クリスはその中でも部屋の入り口から一番遠い席に座ると、そのままアニーと衛兵長にも腰掛けるように促す。
メイが開いている椅子に座ると、ようやく舞台が整った。
「さて、今日はあなたに聞きたい事があって呼び出しました」
あいさつすら挟まずにクリスはいきなり本題について切り出す。
衛兵長はその聞きたいことについて心当たりがあるといわんばかりに体を硬直させて、ギギギッという機械音でもなりそうなぐらいゆっくりとクリスの方へと視線を送る。
「……実はですね。ある筋からあなたが私を葬り去ろうとしているなんていう非常に不愉快な情報が入りまして。その事の真偽を確かめるためにあなたを呼んだんですよ。そのあたり、どうなんですか?」
自分ながらあまりにストレートすぎるきき方にアニーはもちろん、メイも目を丸くしている。
本来ならもう少し遠回しに聞くべきだったのかもしれないが、彼が本気でそう画策しているわけではないというのはわかっているので直接この言葉を叩き込むことにしたのだ。あわよくば、誰かに命令されたからやっているという言い訳を引き出せれば満点だ。
質問をぶつけられた衛兵長は明らかに動揺したまま視線を右往左往させて、焦っているのが手に取るようにわかる。その姿を見ていると、どうして彼が衛兵長など務められるのだろうかという疑問を持ってしまうのだが、それは今議論すべき点ではないだろう。
「……それで? どうなんですか? そのうわさが虚偽ならばはっきりとそう申告してください」
クリスは動揺する衛兵長に対して、しっかりと念押しをするように彼へと質問をぶつけた。




