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二日目その四

 王宮の中にある使用人の宿舎。

 今は昼間のため、使用人たちは仕事に出ていて、今この場にいるのはメイド長とメイのみだ。


「……質問を変えましょうか。あなたは何が目的で私の後ろなんてついてきているの?」


 答えに詰まりメイに対して、メイド長はさらに質問を重ねる。


「答えてくれないと困ります。あなたは何者でどういう目的で私の後などつけているのですか?」

『えっと……その、私は怪しいものではなくてですね……事情を話してもそう簡単に信じてくれる人なんていないんで……その、気にしないでいただけると助かりますというかそういったところなんですけれど……』


 とりあえず、この場を切り抜けようと、そんなことを言ってみるが、メイド長の視線は痛くなる一方だ。

 こうなったら事情を話して理解を得ることし中いのかもしれないが、そんなことはできるのだろうか?


「あくまで答えてくれないのですか? あまりそういった態度を取り続けるようではこちらとしても対抗処置を考えさせていただきますが」


 目の前のメイド長は臨戦態勢に入りつつあるように見せる。

 普通に考えれば、ただの人間では触れることのできないメイに対して何かしらの危害を加えられるとは考えられないが、何かしらの対抗策を持っている可能性もあるから油断できない。


『はぁあのさ……えっと、答えても私やクリスに何もしないって約束してくれる?』

「……んっ? まぁいいでしょう」


 “クリスに何もしない”という言葉が引っかかったのか、少し不審そうな表情を浮かべたもののメイド長はメイの提案に同意する様子を見せる。

 それを見たメイは一抹の不安を抱えながらもゆっくりとこれまでの経緯を話し始める。


 メイド長はところどころ驚いたような表情を浮かべながらも終始黙って話を聞いていた。


『……というわけでして、私がクリスティーヌであの……クリスが魔王だっていう話なわけなんですけれど……』


 自分の口でこのことについて話したことがないからか、緊張から少し口調もおかしくなっているような気すらする。


「なるほど。確かにそう簡単に信じられるような話ではありませんね」

『まぁそれはそうですよね。信じてくれという方が難しいかもしれません』

「難しいなんてものではないと思いますけれど? むしろ、あなたが魔王だといってくれた方がまだ自然なぐらいです」

『はぁ……証拠も何もないし……さて、どうしたものかしら……』


 どうやって証明しよう。

 じっくりと考え込んでみるが、答えは出そうにない。


「まぁいいでしょう。クリスティーヌ様に危害を加えなければ何もしないとしましょう。それと、これ以上はついてこないでください」

『いや、それだと少し困るのですけれど……』

「なぜです?」

『えっと……それはですね……あの……』


 結局、そのまま言い逃れは不可能だという判断から、メイはこの状況に至るまでの一部始終を素直に……ただしところどころぼかしながら話す。


「……敵を探すなら、私を追いかけても意味はないですよ。もう一度衛兵長を追いかけたらどうですか?」


 結果的にメイド長はそれだけ言い残して立ち去って行ってしまった。

 あとを追いかけることも考えたが、相手に見えている以上、深追いするのも危険なのでおとなしく引き下がることにする。

 それに彼女はおそらくクリスには敵対しない。確定的なモノは得られなかったが、そんな雰囲気を感じ取ったというのも大きいかもしれない。


 メイは仕事に戻るメイド長の背中をしばらく眺めていたが、すぐに衛兵長のいる宿舎へ向けて移動し始めた。

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