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街角挿話集  作者:
番外集
9/29

あなたについてゆく

かなり久しぶりになりました(投稿日をご覧ください)

このたび、カクヨム様にこちらの『街恋物語』シリーズをまとめて重複投稿させて頂くにあたりまして、ちょっとした書き下ろしのようなものを一つ公開させていただきます。

くるみと蓮の出会い編。蓮視点でお送りします。

 僕――青柳蓮が親元を離れ、叔父夫婦と一緒に暮らすことになったのは、小学校二年生になる少し前の頃だったと記憶している。

 今ほど世間をよく知っていたわけではないが、それでも当時から少しませたところのあった僕は、同世代の子たちに対しても大人びたように自分を見せたがった。暮らしを変えるにあたり、当然小学校も転校することになったけど、そのスタンスは相変わらずで。

 その頃の小学生――僕が知っている範囲内で、の話だけど――は意外と大人っぽい人が好きだったみたいで、そんな僕でも『みんなからの憧れの存在』とか『スーパーマン』とか、そういう取ってつけたような存在を確立することができた。

 けど今思えば結構、嫌な子供だったんじゃないかと思う。

 テストではほぼ満点近く、教師たちからの受けもいい。

 けど口を開けば生意気ばかり。学校で孤立することはなかったけど、いつも一緒に遊ぶような仲のいい友達も、特にいなくて。

 上級生から呼び出しを喰らっても屁理屈で言い負かし、女の子から好きだと言われても、ほんの少しも心が動かない。

 叔父夫婦は僕のことを、自分の子供のようにとても可愛がってくれたけれど、それでも僕が心を開くには事足りなかった。

「突然環境が変わったんだ、無理もないだろうよ」

 成長して色々な人と出会い、閉塞していた世界がぐんと広がった、そんなずいぶん後のことだ。僕が当時の無礼について謝った時、叔父は笑ってそう言った。

 もともと叔父と僕には似た性質があるみたいで、それまで腹を割って話すことはほとんどなかったのだけど、成長するに従って不思議とその考え方に同調することが多くなった。

 叔父も子供の頃は、あんな風だったのだろうか。

 そして……叔母という存在に出逢い、救われたのだろうか。

 直接聞いてみたことはないけど、けどきっとそうなのだろうと思う。何となく、叔父夫婦を見ていると分かってしまうのだ。

 何を隠そう、僕にもそんな人がいるのだから。

 どことなく孤独であり続けた、僕を救ってくれた唯一の存在。

 ただそこに、笑っていてくれるだけでいい。他に何も望まない。それほどまでに、心から愛おしいと思える存在が。


    ◆◆◆


「僕たちが出会った時のこと、覚えている?」

 唐突に聞いてみると、隣を歩いていた彼女――東雲くるみは「何、いきなり」と純真に目を丸くした。

「覚えてないに決まってるじゃない……だって物心ついた時にはもう、あんたはあたしの隣にいたんだから」

 全く予想通りの答えに苦笑を浮かべれば、くるみは今度は心外そうに眉をひそめた。感情に従ってコロコロと表情が変わる、そういう素直なところも彼女の魅力だと思う。

「そう答えるだろうなって、分かってたよ」

 覚えてなくても仕方ない。だってくるみに初めて会ったのは、僕がこの街に引っ越してきてすぐのこと。あの時まだ彼女はほんの四、五歳ほどの、あどけない園児だったのだから。

 それでは何故、言ってもさほど年の変わらなかった僕が、その時のことを覚えているのか。

 非常に説明はしにくいのだが……それほどまでに、彼女との出会いが印象的だったから、としか言いようがない。

「ま、蓮は昔から賢かったから。そういう小さい頃のことも、ちゃんと覚えているんだろうけど」

 凡人のあたしに同じことを求めないでよね、と少し不服そうに言われて、僕はまた笑った。そういうところ、昔から変わってないよね。

「覚えているに決まってるじゃないか」

 僕は、出来るだけ自然に聞こえるよう(ポーカーフェイスは昔から得意だ)会話の流れでサラッとその事実を告げる。

「あれが、僕の初恋だったんだから」

 すると案の定、くるみの顔はみるみるうちに真っ赤に染まっていく。それを横目で確認しながら、僕は一人でほくそ笑んだ。


『――今日から青柳さんのおうちで一緒に暮らすことになった、蓮くんだよ。青柳さんのおうちはここから近いから、仲良くしてあげてね。くるみちゃん』

 叔父と以前から近所づきあいがあったという、東雲のおばさん――つまりくるみのお母さんに連れられて、その子はちょこちょこと僕の目の前にやってきた。

 少しも物怖じすることなく、彼女は僕に無邪気な笑みを向ける。

『あたし、東雲くるみっていうの。五歳だよ! 蓮くんは、おいくつ?』

『もうすぐ八歳』

『うわぁ、じゃあくるみよりお兄ちゃんだ!』

 僕の簡潔な答えに、キラキラと目を輝かせる。そんな純粋な姿が、可愛らしいと思ったのだ。

『あたし、お兄ちゃんいないから、すっごくうれしいな。ねぇ、いっしょにあそぼ?』

 期待に満ちた笑顔に、僕は自然と笑みを浮かべてうなずいていた。

『いいよ』

『やったぁ!!』

『それから、僕のことは蓮って呼び捨てでいいから』

『蓮。れん!』


 僕の一挙一動に、言葉に、一つ一つ反応しながらぴょこぴょこと嬉しそうにはしゃぐ、その微笑ましい姿を今でも覚えている。

 今思えば、その頃の幼い園児はみんなそんな感じだったのかもしれない。くるみだから、ということではなかったのかもしれない。

 けど、あんな風に受け入れてもらえるのは――必要としてもらえるのは、初めてだったから。実際に、そうしてくれたのはくるみだったから。

 僕に、あんなにも無垢な笑みを見せてくれたのは、あの子が初めてだった。

 その後はもう――言わずもがな、だろう。


「蓮、ずるいよ……」

 相変わらず顔を真っ赤にしながら睨んでくる愛しい人を見て、僕はあの時彼女がそうしてくれたように、無垢ににっこりと笑ってみせる。

「アイスでも買おうか。奢るよ」

 会話の流れをぶった切るようにそんなことを言ってみれば、くるみは途端にぱぁっと顔を輝かせて「ストロベリーがいい!」と嬉しそうに笑う。

 子供の頃から変わらないねと言ったら、きっとまた、ぷくっと頬を膨らませて拗ねてしまうのだろうけど……。

 そういうのも可愛くていいかもな、なんて意地悪なことを思いながら、僕はアイスクリーム屋に向かって一足先を走っていくくるみの姿を微笑ましく追いかけた。

「こけるんじゃないよ、くるみ」

「うわっ!?」

「ほら、言わんこっちゃない……」


相変わらず、蓮の背景はぼやけてます。…つまり、叔父夫婦と一緒に暮らすことになった背景などのことなんですが。

まぁ、おおかた想像はつくと思いますけどね。けど蓮くんは話したくないようなので…。


今回の題名は、ジャスミンの花言葉。

パッと聞きだと「くるみが蓮に言ってる」ように見えますけど、本編を読むと「蓮がくるみに対して思ってる」ような感じですね。あぁ、この子なら…というような。意外と、蓮くんはくるみ嬢に依存しているのかもしれません。


さて。ジャスミンとはモクセイ科ソケイ属の植物の総称で、世界で300種ほどあるとかないとか。いい香りのする、白い花が咲きますね。ハーブティーなどにも使われます。私はあまり好きじゃないんですが(何)

『ジャスミン』という名前はペルシャ語に由来し、和名だと『茉莉花(まりか/まつりか)』と呼ばれることもあるようです。

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