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街角挿話集  作者:
番外集
2/29

私は幸せ者

『街中キャンパス』の番外に登場した、稲葉朱里と瓜生千里の物語。

初っ端から甘い可能性があります…。

「こちらが、メインの大会場になります」

 グレーのスーツに身を包んだ清楚そうな女性職員の方が、しっとりとした声で紹介してくれたその施設の内部を、わたしと千里さんは感嘆の声とともに眺めていた。

 見上げるだけで首が痛くなってしまいそうなほど高い天井にはいくつもの豪奢なシャンデリアが光り、客席用の丸テーブルには清潔そうなテーブルクロスが一寸の隙もなくピシッと掛けられている。全体的に神聖な印象を与える白を基調としたそこは、まさに結婚式場と呼ぶにふさわしい場所だ。

「新郎新婦を合わせましても、最大百二十人ほどお入りいただけます」

 職員の方がそう付け加えてくださったのを受けて、千里さんは少し考えるそぶりを見せた。そのまま思案顔で、わたしの名前を呼ぶ。

「朱里」

「はい」

 返事をして千里さんを見上げると、彼はわたしの方を見ながら、少し眉根を寄せた。

「君のところは、大体何人ぐらい招待するつもりですか?」

「そうですね……」

 何せ結婚式とは、一生に一度の晴れ舞台といっても過言ではない式典だ。なるべく後悔のないようにしたいと思うし、わたしがお世話になった人たちや、大切だと思う人たちには、絶対に見て欲しいと思う。

 そのためには、両親をはじめとした家族や親戚はもちろんのこと、仲良くさせてもらっている友人たちや会社の同僚、上司たち、かつてお世話になった学校での恩師……呼びたい人は、思いつくだけでもたくさんいるような気がした。

 けれど、わたしも千里さんも、あまり大規模な結婚式は挙げたくないという意見で一致していた。だから、できることならごくわずかの親戚や大切な人たちだけを呼ぶことにして、できうる限りのつつましやかな式にしたい。

 そうすると、大体どれくらいの人数になるのだろう……。

 しばらく考えて、わたしは答えた。

「親戚も合わせると、大体三十人ぐらい……でしょうか」

 それでも多いだろうかと、内心びくびくしながら千里さんの顔を覗き込むようにして見つめる。千里さんは「ふぅん……」と一度息をついた。

「……では、ここにしましょうか」

 えっ、とはしたなくも思わず大きな声が出てしまい、わたしはすぐに両手で口を塞いだ。それでも目を忙しなくしばたたかせるわたしを前に、千里さんはクスッと笑う。

「リアクションがいちいちオーバーですね」

「ひょ、表情豊かとおっしゃってください」

 第一、わたしの表情をめまぐるしく変えてしまうほどに驚かせるセリフを言っているのは、いったい誰だと思っているのか。

 そんな思いを込めながら恨みがましく視線を送ってみるものの、千里さんは見事にスルーしてくださった。まぁ出会った頃からこんな人だったから、今更どうとも思わないし、こんなことにいちいち目くじらを立てていてはこの先彼の妻として務まらない。

 だからいいのだ、別に。

 わたしは彼のこういうところも含めて全てを好きになり、その上で彼に一生寄り添って生きていこうと思ったのだから。

 ……と、今の状況とはほとんど関係のないところに意識を飛ばしていると、ふと千里さんが微笑みながらこちらを見ていることに気が付いた。慌てて咳払いをし、話を戻しにかかる。

「と、ところで。千里さんは先ほどここに決めると言いましたけど、千里さんの方では何人ぐらい招待されるんですか」

「僕ですか? そうですね……まず家族や親戚で二十人程度、会社の人間も何人か招待するつもりでいますし、旧知の友人などにも来てもらいたいですからね。ざっと、五十人から六十人ぐらいでしょうか」

「新郎様の招待客が五十人から六十人、新婦様の招待客が三十人……ですと、全員でも百人に満たないことになりますが。この場所では、少々持て余しすぎなのでは?」

 先ほどまでわたしたちの会話を黙って聞いていた職員の方が、おずおずといったように口をはさむ。わたしも便乗するように言葉をはさんだ。

「そうですよ、千里さん。ここには百二十人まで入れるとおっしゃっていたじゃありませんか」

「問題ありません」

 何事もないというように、千里さんはしれっと答えた。

「朱里がその分、人数を呼べばいいのです」

 その言葉に、わたしは再び目をしばたたかせた。今度は大声を出さなかっただけ、成長したと褒めてもらいたいと思う。

「いや、でも、だって……」

「だってじゃありませんよ」

 しどろもどろになるわたしに、呆れたような表情を向けながら彼が言う。

「気づいていないかもしれませんが、君は案外顔に出るタイプなんですよ。本当はもっと、呼びたい人がいるんでしょう?」

 それは図星だった。本当は、三十人程度では足りない。わたしだって、できることなら五十人ほど呼びたいと思っていたのだ。

 そんなわたしの胸中などお見通しというように、彼は続けた。

「君も遠慮なんかしないで、五十人ぐらいどんっと呼べばいいのですよ」

「い、いいんですか……?」

 恐る恐る尋ねると、千里さんはいつもの彼らしくもなく、わたしの頭をくしゃりと無遠慮に撫でてきました。

「将来の旦那である僕が大丈夫だと言っているんだから、君は何も心配しないでいいんですよ」

 どうせ君は口にしなくても、顔が先に物語ってしまうんですから。

 そう付け加えられて、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。わがままな性格は幼い頃に――初めての失恋で、すっかりなくなったと思っていたのに。その片鱗はやはり、大人になった今でも残っていたのだ。

 うつむいてしまったわたしの頭を、ぽんぽん、と軽く叩きながら、千里さんが優しい声色で言った。

「結婚式というのは、女性がメインの式典です。だから遠慮なんてしないで、いくらでもわがままを言って構わないんですよ。僕がいくらでも受け止めてあげます。……もちろん普段の生活でも、ね」

 あぁ、やはり千里さんは優しい人だ。

 顔を上げ、微笑む千里さんの顔を見ながら、改めてこの人と結ばれることになった自分の幸福をかみしめていると、横にいた職員さんがふふ、と小さく笑った。

「よい旦那様を持たれて、お幸せですね」

「えぇ、ホントに」

 熱くなった顔を両手で押さえ、わたしは頬を緩めながら答えた。

「わたしは本当に、幸せだと思います」


    ◆◆◆


 式場を決めた後は、当日身に着ける衣装選びに向かった。

 彼いわく『僕は、朱里が決めたドレスに合ったものにしたいから』とのことで、先にわたしの衣装――メインであるウェディングドレスと、お色直し用のカラードレスから決めることになった。

「試着などもしていただけますよ」

 先ほど式場を案内してくれた職員の方が、にこやかにそう言った。

 そんなわたしたち二人の眼前には、様々なデザインに凝った、真っ白いウェディングドレスを身に着けたマネキンの数々。奥の方には、色とりどりのカラードレスを着たマネキンも並んでいる。

「すごい……」

「まさに女性の憧れ、といったところでしょうかね」

 種類の多さに圧倒され、どれがいいだろうかと早速忙しなく視線を動かし始めたわたしに、隣にいた千里さんがどこか楽しそうに声を上げて笑った。

「さぁ、一体どのようなデザインがお気に召しますでしょうかね、お嬢様」

「ふふ。さ、早速選びましょう、千里さん」

 千里さんの腕を引きながら言うと、千里さんは「おや」と目を丸くした。

「僕も行くんですか?」

「もちろん。わたしのわがままを聞いてくださるんでしょう? だったらこのままわたしと一緒に来てください。千里さんが似合うって言ってくださるドレスが着たいんです」

 ほぅ、と千里さんは感心したように小さく呟いた。それからゆっくりと頬を緩めると、わたしに掴まれていない方の手をお腹のあたりに当て、恭しく礼をしてみせた。

「お嬢様の、仰せのままに」

 知的な顔立ちをしている上に、スーツを着ている今の彼に、その仕草はとても様になっていた。わたしの目にそれはあまりに格好良く映ってしまい、一瞬見惚れてぼうっとしてしまったのは秘密だ。

 照れ隠しにすいっと顔を逸らすと、わたしはそのまま急かすようにぐいぐいと千里さんの腕を引っ張った。

「い、行きましょう!」

「はいはい」

 そう答える千里さんの声は、変わらず優しかった。ちらりとその表情を盗み見ると、まるでとろけそうなほどに柔らかな視線をわたしに向けているのが分かって、さらに顔が熱くなってしまう。

 そんな照れを悟られたくなくて、わたしは千里さんの腕を引くと、まるで良家のお嬢様らしくもなく、早口でまくしたてていたのだった。

「まずはカラードレスからです。千里さんは、何色がいいと思いますか」

「ふふ、そうですねぇ……」

どうしていつもいつも、私の書くカップルはこんなにも似通うのだろうか…orz

もはや男は余裕、女はツンデレがデフォな気がしてきました。

そして…何だろうこのバカップル(←自分で書いたくせに)


さて、今回の題名はクチナシの花言葉。

クチナシ(梔子)はアカネ科クチナシ属の常緑低木です。園芸用として栽培されることが多く、ご存知の方もいらっしゃる通り、その果実は漢方薬の原料(=山梔子)などさまざまな利用方法があります。

花の色は白く、熟した果実はオレンジ色。私は何となくドクダミに似ているなぁという感想を抱きました。しかし何と、八重咲きのものもあるのだとか。もはや別物じゃね?とか思っちゃったのは秘密です←

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