つむじまがり
診断メーカーの『可愛いカップル描いちゃったー(http://shindanmaker.com/62729)』よりいただいたお題をもとに書いた小説です。
今回は『街を巡る手紙』コンビ。言っても、伊織しか出てきませんけど←
というわけで。
手紙以外だと何気に初かなぁ…伊織こと、柊教授視点でお送りいたします。
さて、何がきっかけだったか。
今となってはもう詳細をほとんど覚えていないというのが正直なところだったりするのだが、とにかくほんの数時間ほど前、私と彼女――芹澤深雪はちょっとした言い合いをした。
実際、互いに本気で怒っていたわけではない、と思う。多分。彼女はどうかわからないけれど、少なくとも私の方はそうだ。
いわゆる言葉の綾というか、その場の勢いというか……いや、何だ。手紙を交わしていた頃からそうだが、彼女と接しているとどうにも余計なことではないかと思うようなことまで語ってしまうような節がある。この年になってまで他人に――しかも女性に、調子を狂わされるなんて思いもしなかった。
現に、こうしている今だって……。
「――柊教授」
「え?」
声が聞こえた気がして、振り返る。目の前には多くの生徒たちの姿があり、一番前の席に座っている生徒が怪訝そうに眉根を寄せていた。どうやら私を呼んだのは、この生徒らしい。
……さて、しまった。今は講義の最中だったというのに。
「あぁ、すまないね」
取り繕うように笑顔を作ると、生徒たちに向き直って謝罪の言葉を告げる。
「ちょっと、ぼぅっとしてしまっていて」
先ほどの生徒が、訝しげに眉根を寄せた。
「どうしたんですか、教授。今日、変ですよ」
まぁ、いつも変といえば変ですけど……。
ポツリと付け加えられたその言葉を聞き逃しはしなかったが、私は敢えて聞こえないふりをしておいた。私が周りからそのような人間に見られているというのはずいぶん前から知っていたことだし、自分でもそれを認めているのだから、今更目くじらを立てたって仕方ない。
まぁ、そんなんだから深雪に怒られてしまうのだが。
……あぁ、また。
気を抜くと、どうしても彼女のことを考えてしまってならない。今は講義の最中なのだから、集中しなければいけないのに……。
「……何でもない。どこからだったっけ」
「テキスト二百五十一ページの、三行目からです」
「ふむ、わかった。ありがとう。では講義を再開させようか」
黒板に向き直ると、私はいつの間にかだらりとぶら下げていた手を持ち上げ、気合を入れるようにチョークをぐっと握りしめた。
◆◆◆
「……はぁ」
本日の講義を終えた私は、げんなりとしながら研究室へと戻ってきた。
今日はなんだか、いつもよりどっと疲れたような気がする。しかもその原因が分かっているだけに、余計に落ち込んでしまう。
何でもないことのはずだった。別に大したいさかいというわけでもない。ただ……なんだか今日は一日ずっと、彼女に避けられているような気がした。
いや、もともと今日は彼女と顔を合わせるゼミナールは入っていなかったし、大学構内も広いから、会わないのは当たり前なのだが……。
「ふむ、どうにもネガティブだねぇ」
柄にもないことをつぶやきながら、私は研究室のドアを開け、中へと入る。
ソファーにぐったりと腰かけようとして、ふとその向かいに置かれているテーブルが目に入った。資料やら何やらでごちゃごちゃとしている場所の本の隙間部分に、何やら見慣れないメモのようなものが置かれている。
よく見ると、それは便箋だった。淡い水色で、二つに折りたたまれている。
私の講義を取っている生徒の一人が、何やら用事があってメモを置いて行ったのだろうか、と初めは考えた。
しかしこれ、どこかで見たことがあるような……?
ふと過ぎる既視感に首を傾げながら、私はとりあえずその紙を見てみることにした。もし生徒の誰かからだったとしたら、至急対応をしなければならない。
先ほどの既視感によって心に生まれた仮説や期待を完全に無視すると、私は二つ折りにされた紙をパラリと開いた。
中に書かれた文字を見た私は、一瞬驚きのあまり目を見開いてしまった。やがてその内容を理解し、実感しているうちに、だんだんと自分の表情が崩れていくのが分かる。
「まったく、口で言わないところが素直じゃないよなぁ」
笑みをこぼしながら、私は呟いた。
かつて私のもとに何度も届いていた水色の便箋の中には、同じく何度も見た愛しいペン字で、こう書かれていた。
『さっきはごめんなさい。また明日、この場所に来てもいいですか』
そりゃ、いいオッサンだって恋くらいしてますよ。相手のことを思っては、ぐるぐる悩みますよ。…きっと。
少なくともうちのオッサン(伊織)はそうです。いつの時代も、恋とはいいものですな(←お前は何を言っているんだ)
というわけで、お題は『素直になれなくて手紙orメモで謝る伊織と深雪』でした。
『街を巡る手紙』が主に手紙で構成された物語だったので、何気に二人に合ってるなぁ…とか思ったり(笑)
今回の題名は、シャコバサボテンの花言葉。
シャコバサボテンとはサボテン科スクルンベルゲラ属で、ご存じあのチクチクするサボテンさんの園芸種です。
シャコバサボテンという名前は、茎の節ごとに一対ずつ何か突起状のものが生えて(?)おり、これがシャコ(エビに似た甲殻類の一種)の身体に似ていることから名づけられたのだとか。
冬…特にクリスマスの時期に赤・朱色・ピンクなどの花を咲かせ、ここから別名を『クリスマスカクタス』とも言います。また、観賞用の品種改良がデンマークで始められたことから、『デンマークカクタス』とも呼ばれているそうです。




