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第7話 「チョンファーレン帝国の憂鬱」

 追い詰められたときに本当の力が出れば大国。



 チョンファーレン帝国皇帝ルワールスの元には悪い知らせが束になって届いていた。


「チョンファーレン帝国包囲同盟が完成。加盟国はアイギス連邦、ヤマタイ自治共和国、ペートル共和国、インドラ帝国(GDP順)」


「包囲同盟の合計は人口約17億人、兵力400万人、GDPは全世界の40%」


「包囲同盟国の連携を助けるために、包囲同盟最高司令部を設置。長官はアイギス連邦バレッタ外務大臣」


「各国世論調査結果。包囲同盟に対してアイギス連邦は賛成50反対50、ヤマタイ自治共和国は賛成10反対90、ペートル共和国は賛成40反対60、インドラ帝国賛成50反対50」


「包囲同盟国各軍の動きが活発化。国境に兵力の移動を実施中。国境添いに恒久的防衛線を設置中」


「アイギス連邦第7艦隊と第3艦隊が連合艦隊を結成。緩衝地帯及びヤマタイ自治共和国周辺に展開中。兵力は艦艇約200隻、航空機約2千機、兵員は海兵隊を合わせて約24万人」


「極秘。ヤマタイ自治共和国は軍事的活動を希望し、アイギス連邦はそれを認めた」


「極秘。ヤマタイ自治共和国は包囲同盟の見返りに緩衝地帯の領有或いは統治をアイギス連邦に求めた。アイギス連邦は不承認」


 新たな情報が入るたびに大臣達は右往左往し、会議は紛糾した。

重臣メンデは大臣達を落ち着かせる必要があった。


「みんな、落ち着け。圧力は戦争ではない。敵の挑発に乗らずに耐えることだ。我々の攻撃を奴らは待っているのだ。だが、耐えるだけではダメだ。万が一の戦いの準備が必要だ。軍隊、国民が一丸となって、この国難に向かって行こうではないか」


「メンデの云う通りだ」


「しかし、ヤマタイの領土拡張志望を聞いたか。許し難い事だ。属領に落ちた理由を連中は歴史から学ばなかったのか?」


「待て。先ずは話をまとめよう」


「包囲同盟諸国の動きはどうだ?」


「包囲同盟各国は我が国の国境付近で活発な動きを始めています。陸続きのペートル共和国及びインドラ帝国は国境付近に恒久的な要塞を建設中です。海で隔たったアイギス連邦及びヤマタイ自治共和国は大量の海軍艦艇及び航空機を海域に展開し、我が国の主張するEEZ(排他的経済水域)は無視されています」


「国際法違反ではないか?」


「一応、彼らが主張するEEZ(排他的経済水域)内ではあります」


「トラップだな、これは」


「我々の主張するEEZ(排他的経済水域)を根拠に彼らを攻撃すると、逆に彼らは自分たちが被害者であると主張するだろう。ヤマタイの世論は逆上して包囲同盟支持に走るだろう」


「ヤマタイは自分が加害者だと鈍くて、被害者だと驚くほど敏感だ」


「ヤマタイの世論を敵に回すのはまずい。我々の協力者や工作員が働きにくくなる」


「…続けます。兵力は我が国が230万人に対して、敵が400万人であり、ランチェスター第2法則によれば戦力比は1:3であります」


「これではかなわないではないか。何とかしろ」


「劣勢を何とか同等以上にまで持ち上げるのが作戦だ。これは我々軍人に課せられた使命だ」


「と云うか、その数は軍の総数であって、全軍を我が方に回せるわけではない」


「そりゃそうだ。アイギスにしてもせいぜい40万程度だろう」


「再計算しろ」


「はい。…ただいま計算しました結果、敵の正面兵力は最大で200万人と思われます」


「数では同等と云う事か」


「それでも大軍だ」


「各個撃破しかないな」


「戦線の長さから云って、インドラが狙い目か」


「高山が邪魔している」


「山岳部隊を使えば問題ない」


「ヤマタイは海が邪魔している。海軍、空軍しか使えない」


「海軍、空軍共アイギスがダントツだ。全くかなわんぞ」


「黙って見ているしかないか」


「いや。彼らも世界世論が恐い。あからさまに侵略行為をする事はできない。つまり放っておいても問題ないと云う事だ」


「だったらいっその事、マスコミを乗せた船を一杯浮かべておくことにしよう。万が一彼らが失態を犯したら、それこそチャンスだ」


「そいつはいい」


「失態を仕掛ける…と云う手もある」


「その方法はペートル共和国及びインドラ帝国にも使えるな」


「つまり、マスコミを無敵の盾に使おうと云うワケだな」


「それは採用するとして、万が一戦闘が始まった場合の準備も必要だ」


「何れにせよ兵隊が足りない。予備役を使おう」


「1ヶ月で350万人まで増やせ」


「兵器が足りない。使える工場は全て使え」


「予算は3倍に増やせ。敵との生産競争だ」


「しかしこれでは一般産業部門が資金不足と工場不足でストップしてしまいます」


「一般産業が生き残っても、国が亡びてしまえば元も子もあるまい。やるんだ」


「ちょっと待て。そんな事をやっていたら、連中の思うつぼだぞ」


「兵力の増加と兵器の増強が不要だと云うのか」


「その通り。連中の目的は我が国の疲弊だ。疲弊の原因は過度の軍事費だ。かつてのソビエトや北朝鮮が滅んだ理由はここにある。連中はその再現を狙っているのだ。だから、我々はそれには乗らない。いや、返って、連中が圧力を掛けるために大量の軍事費を使っているのを尻目に産業を振興する。疲弊するのは我々ではなく連中だ。彼らがそれに気付いたとき、包囲同盟は破綻する。我々は待っていれば良いのだ」


「うむ。それは一理ある。しかし、連中もバカではあるまい。我々が動かなければ、もっと姑息に仕掛けてくるのではないか?」


「マスコミの顔をしたスパイを使って我が軍を攻撃し、我々が反撃すれば記者を殺したと宣伝するか」


「或いは、自らの手でバレッタ大臣を暗殺するとか?」


「我が軍の服装をしたスパイ軍を使って、包囲同盟軍を攻撃させるとか?」


「偵察中の包囲同盟兵士を拉致し拷問をかけたと言いふらすとか」


「きりがないな。守る側はあらゆる事を想定しなければならないが、仕掛ける側は一点突破で良い。極めて有利だ」


「これを避ける方法はあります。こう云った謀略が効を奏すのは、我が国と包囲同盟の緊張関係が有ってこそです。緊張関係が無ければ、これらは謀略だとすぐに判るものです。ですから、我が軍の非常事態体制を解除し、通常体制に戻すべきです。つまり、何事も無かった様な顔をしていれば良いのです。そうすれば彼らは空振りを演じ、最後はバカらしくなって止めてしまいますよ」


「しかし、現に敵は我々を包囲しているのだし」


「国際世論の監視の下で何もできない敵は敵ではありますまい。ならば敵でない物に対して、我々は無視をすれば良いのです」


「どう思う?」


「うーん。確かに云われてみれば納得と云う気もするが、じゃあ、今までの大騒ぎは一体何だったんだと云う気がする」


「それはバレッタ・チャオの魔法ですよ」


「…いや、バレッタの魔法はこれからだと思う」


「どう云う事だ」


「我々が先制攻撃をすれば、彼らは予定通り反撃する。彼らにその準備は出来ている。これは判る。

我々が攻撃をしなければ、彼らは攻撃しない。マスコミが抑止力になっているから。でも本当か?もし、彼らが電撃的に攻撃すれば、我々は即座に中枢部をやられて倒れる。その後で彼らが先に攻撃したのだと非難しても何にもなるまい。戦いは既に終わっているのだから。もし、バレッタが電撃戦を考えていたら、我々は無視どころか完全武装しなければならないのではないか?」


「…実にそうだ」


「大モルトケの思想(先制攻撃主義)を最も忠実に実施しているのはアイギス連邦軍だからな」


「やっぱり兵力の増加と兵器の増強が必要だ」


「何れにせよ我々は膨大な軍事費を使わなければならない。すると我が国の疲弊そして滅亡は必至なのか?」



注:

1.EEZ, exclusive economic zone, 排他的経済水域。国連海洋法条約に基づいて設定される経済的な主権がおよぶ水域。

2.ランチェスター第2法則(集中効果の法則)

 ランチェスターは航空戦の損害率から簡潔な数式によって戦闘が計算できることを発見し、戦力を数値モデル化すると云う道を拓いた。その第2法則は集中効果の法則と呼ばれ、近代戦のように一人が複数の敵を攻撃できる場合、戦力比は兵士数の二乗になり、大兵力が極めて有利となる。能力が等しい兵士同士が戦った場合、兵士数3:5ならば、戦力は9:25となる。

 フレデリック・ウィリアム・ランチェスター, Frederick Wiliam Lanchester, (1868年10月28日-1946年3月8日)イギリスの自動車工学・航空工学のエンジニア、王立航空協会の名誉会員。

3.ヘルムート・カール・ベルンハルト・グラフ・フォン・モルトケ, Helmuth Karl Bernhard Graf von Moltke, (1800年10月26日 - 1891年4月24日) 。通称、大モルトケ。プロイセン王国の軍人。陸軍参謀総長として天才的な手腕を見せ、ドイツ統一(ドイツ第2帝国)に多大な貢献をした。素早い動員と先制攻撃こそが勝利をもたらすという理論を実績により確立した。

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