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第26話 「世界制覇をキミに」

 チョンファーレン帝国外務省に付設された職員用サロンである。

 盗聴を気にせず、職員が酒を飲める場所である。


 10人の男女が、円卓を取り囲んで、既に一杯やっている。酒のつまみに大した物はないが、どこからかもらってきた高級そうなワインを飲んでいる。


「世界に偉大な人物は数多いが、この人に世界を任せたいと思う人間は殆ど居ないな」


「大体、所謂偉大な人間ってのは、その実、弱かったり、虚勢を張っていたりして、内容の無いことが多い」


「そうそう。そこで、世界の指導者の人物評をやろうってのが、今日の趣旨だ」


「先ずはジュリオくん」


 …と云うことで、この集まりは、チョンファーレン外務省の誇る、外交戦略部の面々であった。要は、サラリーマンが帰りに一杯やって、上司の悪口やら、愚にも付かない話題で盛り上がるって状態なのだが、彼らの場合は話題が世界の外交と云う事だけが違っている。


「ペートル共和国の首相ババチコフはどうだ?」


「こいつは最低の部類だな。なるほど、権謀術数にたけ、部下の制御も見事だが、何しろ、野心が大き過ぎるし、露骨だ」


「そうそう。東アジア連合の盟主と云うエサに食らいつくときの浅ましさと云ったら、無かったわ」


「ペートルより外の国々を巻き込んだ大戦略を立てることは出来ないタイプだな」


「結局は、外交家に利用されるだけの存在だ」


「よし。次はインドラ帝国の皇帝カルルはどうだ?」


「これも全然ダメじゃん」


「優柔不断で、自分ではろくな決断もできないだろう」


「大臣は外国の息の掛かった者ばかりだし、そう云った連中に動かされている人間だ」


「世界の大局を見渡すとか、大戦略をもって国を強大にすると云ったタイプではないな」


「アイギスとか、我が国に対する恐怖心だけだ」


「大臣と外交家に動かされるタイプだな」


「はい。では次、行ってみよう。」


「ヤマタイ自治共和国。総理大臣は旭野か」


「これも大した人物じゃないな」


「前の総理だった、那須香はどう?」


「那須香も酷かったな。惨めな敗戦国、アイギスの奴隷の鬱屈した心情を吐露したのはいいのだけど、世界中にばらまいたのが運の尽きだったな」


「今、どうしてるの?」


「いや、消息不明だが、生きているのやら、死んでいるのやら」


「地下組織でリベンジ図っているって聞いたぞ」


「まさか。ヤマタイでそんな事は出来ないだろう」


「大体、東アジア連合の中で、ちゃんとした独立国になったワケだし、国民も喜んでいる。そんな時に地下組織なんて、誰も支持しないだろう」


「その変な事をやりかねないのが、ヤマタイの遺伝子なのさ」


「で、旭野の方はどうよ?」


「すっかり憲兵生活に馴染んでしまったらしいよ」


「芸能記者並に、他人のプライバシーや秘密を嗅ぎまくり、それをネタに自分の権勢を延ばすってワケだ」


「大丈夫か? 行き過ぎになると、問題多いぞ」


「適当な時期に極東担当が処理するだろう。定期的な政権交代ってヤツだ」


「よし。ヤマタイはそんなところだろう」


「次、エウロペ同盟の統合会議議長ローレンツは?」


「これも問題外だな」


「結構保守的な人間らしいね」


「面白みは全然ない人間らしいよ」


「ただ、エウロペで云うと、ブリアリオ公国のサーター大公が結構野心家で、ローレンツの後がまを狙っているらしい」


「サーターはアイディアマンよ」


「でも、エウロペをまとめて行くには、野心家ではムリだろう」


「調整能力と統率力が必要だ」


「それは実務派のローレンツの独壇場だろう」


「でも、エウロペのもう一段の飛躍のためには、大戦略が必要だな」


「そんな事をしたら、また世界が大混乱になっちゃうわよ」


「彼らの考えを先取りして、我々の利益につなげる必要があるってことさ」


「アフリカと中東が次のターゲットか?」


「それは既に手を着けているわ」


「よし。次は我がチョンファーレン帝国の皇帝ルワールスと重臣メンデ」


「うーん、自分の国となると、ちょっと云いにくいわね」


「大丈夫。酒の上の話だし、給料には響かないから」


「ホントか?」


「お前って、口は上手いからな」


「人のこと、云えないだろ。ジュリオなんか世界一のペテン師って云われてんだぞ」


「ほほう。それは誉め言葉として受け取っておこう」


「はい。ルワールスとメンデ」


「皇帝は残念ながら、大人物ではない」


「って云うか、皇帝は大人物である必要はなく、有能な部下が自由に仕事を出来るよう支援してくれればそれで十分だ」


「その通り。そう云った意味では、ルワールスとメンデの組み合わせは悪くない」


「では、新星、李将軍は?」


「今のところは政治的な野心はないが、今後、皇帝の座を狙うかも知れない」


「国家親衛隊と云う強大な権力を持つ集団を握っているから、やがて部下達の突き上げで、そのような事態になるかも知れないな」


「となると、李とメンデの関係を良好にしておかないと、国が傾くと云う事だな」


「李の力が国内では狭すぎる状態になったら、東アジア連合にその力を伸ばせばよいだろう」


「更には、アイギスにまで」


「全世界的な情報組織を構築できれば、世界制覇も夢ではない」


「それも広く、深く、もっと深く」


「さて、最後はアイギスか」


「アイギスと云えば、ダイダロスの社長アレクトーだな」


「そう。ハデスは単なるロボットに過ぎなかったというのがバレてしまったからね」


「ハデスはハデスで、なかなか優れた人物だったのだが…」


「人が良すぎた」


「そう。すぐに騙される」


「国民を操縦するには法、部下を操縦するには術と云うが、その術が使えなかったな」


「アレクトーはどうだ?」


「こいつは食えない」


「目的万能主義で、手段を選ばない」


「冷血非情」


「大胆不敵」


「切れると恐い」


「新米の部下に重要な仕事を平気でやらせる」


「部下は消耗品?」


「外交戦略という物は余り無くて、武器を売るために、どうやって戦争を起こすかと云う所で完結している」


「その為の外交だ、と云っていた」


「とんでもないヤツだな」


「こうやってみると、世界の指導者にはろくなヤツが居ない」


 ジュリオが言葉を引き取った。


「…だが、世の中、捨てたものじゃない」


 ちょっと間を置いて云った。


「我々にはバレッタが居る」


「お、ついに来たな…」


「みんな。バレッタはどうだ?」


「可憐にして凶暴、冷静にして熱血」


「戦略家だ」


「チョンファーレン包囲同盟を作ったくらいだからな」


「行動力も高い」


「ある時はアイギスの外務大臣兼国防大臣」


「あるときは、反乱軍の将軍」


「またある時はチョンファーレンの外務大臣」


「彼女が口を開くとき、世界の同盟は崩れ」


「再び彼女が口を開くとき、新たな同盟が生まれる」


「部下の忠誠心は高い」


「バレッタ親衛隊を見たか?」


「彼女のために喜んで死んだ」


「志も高い」


「人を救えずして、何が世界制覇か…と云ったとか」


「彼女こそ、世界を任せても良い人物ではないか?」


「異議なし」


 そのとき、インターフォンから守衛の抑えた声が聞こえた。


「外務大臣です…」


 ジュリオが皆の顔をぐるりを見回し、云った。


「諸君、バレッタ閣下だ」


 ドアが開いて、バレッタが小走りに入ってきた。


「ごめんなさい。遅くなっちゃって」


 外交戦略部のメンバーは一斉に立ち上がり、酒が回ったために少しよろける者も居たが、バレッタを迎えた。ジュリオが代表して云った。


「閣下。お待ちしておりました。閣下の就任祝いとして、簡単な席を設けました」


「まあ、気を遣ってもらって、悪いわね」


「では、バレッタ閣下の外務大臣就任を祝して、乾杯を行いたいと思います。みんな、用意は出来たか。閣下も…。それでは、乾杯します」


 一同、声が揃った。


「バレッタに!」


「ありがとう、みんな…」



完 2007.06.07



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