第22話 「動乱2」
革命家は最後に国賊と呼ばれる事を覚悟しろ。
反乱軍Aに対して、李将軍の解散勧告が届いた。
「直ちに解散せよ。さもなくば必ず皆殺しとなるであろう。1時間以内に行動せよ」
これに対して、反乱軍Aは勝ち目がないことを悟ると共に、退却することも体面上不可とし、窮した挙げ句、試みに超将軍を派遣することとした。
「どうだ。そろそろ時間だが、反乱軍Aからの回答は無いか?」
「何やら使者らしき者が旗を掲げて5人ほどでやってきます。橋を渡り、こちらに向かっています」
「ほう。少しは理性の残っている人間が居るとみえる。こちらに連れてこい」
使者は李将軍とその幹部達のいる小屋に連れてこられた。布陣の最も後ろである。
「将軍。敵の使者を連れてきました」
「よし。入れろ」
5人の人間が入ってきた。先頭は短髪の女、残りは4人の背の高いゴリラのような若い男達である。先頭の女は、この敵陣の威圧を全く感じないように、涼しい顔で堂々と進んだ。それに続く4人は眼を白黒させ、体格に似合わずびくびくしながら歩いている。女は李将軍の前に進み、胸を張って止まり、将軍とにらみ合った。李将軍は、その女の風格と貫禄に内心驚いた。女は云った。
「私は、所謂反乱軍の代表、超将軍だ。李将軍に話があってやって来た」
李将軍は見上げるほどの背丈と、歳には似合わないほどの筋肉質の身体を持った老人であり、白いヒゲが顔を覆い、威厳と風格を醸し出している。
「うむ。わしが李だ。話とは何だ? 降伏の条件か?」
「あなたは銃口を向ける方向が間違っている。それを云いに来た」
「なに? それはどう云う事だ」
「あなたの敵は我々ではないと云うことだ」
参謀長が割り込んだ。
「閣下。お聞きになってはなりませんぞ。これは謀略です。言葉巧みに閣下を陥れようとする策略です!」
「参謀長。判っておる」
「はははは」
超将軍が高笑いをした。
「これはこれは、李将軍ともあろう方が、何と臆病な」
「ナニぃ?」
「そうでしょう。将軍は我が国最強の軍団30余万を従えているのです。如何なる敵、如何なる鬼神でも将軍を畏れ、避けるでしょう。その方が、私のような一人の人間の、しかも1枚の舌を怖がるというのですか? いやはや、将軍を尊敬する人々がこれを聞いたなら、どんな反応を示すでしょう。なんと小心な将軍であることかと噂することでしょう」
「ええい。黙れ! わしはナニも怖がってはおらん。ましてやお前の話など畏れてはおらん」
「閣下、これも策です。乗らないように」
「黙れ、参謀長。お前はわしを臆病者にするつもりか?」
「いえ。そう云うワケでは…」
「ならば、黙っていろ」
参謀長が引き下がったのを見て、超将軍は続けた。
「李将軍。先ずお聞きしたい。あなたはなぜ、我々に銃口を向けるのですか?」
「知れたこと。それはお前達が反乱軍だからだ。つまり、我が政府に楯突く者だからだ」
「では、なぜ、政府に楯突く者に銃を向けるのですか?」
「これまた、当たり前のこと。我が軍は政府を守り、ひいては我が国を守る事を目的としているからだ」
「では、なぜ、政府を守る事が国を守る事になるのですか?」
「我が政府が我が国を治めているからだ」
「我が政府は我が国をどのように治めているのですか?」
「国を栄えさせ、国民を富ませ、繁栄と平和をもたらす為だ」
「ならば、お聞きします。もし、政府が国民を不幸にし、国を衰えさせる政策を実行しているとすれば、どうですか? 将軍は政府を守るのですか?」
「守る。それは我々軍人の役目であり、軍人は政治に干渉しないと云う無形の決まりがある」
「将軍、それでは悪しき政府を盲目的に守ると云う愚行を犯すことにはなりませんか。つまり、国民と国家の敵に成り下がって、しかも自らの行いを省みることのない、愚かな軍人とは云えませんか?」
「けしからん! 我々はそんな愚かな軍人ではない」
「李将軍、失礼はお詫びします。賢明な将軍ならばお判りのはずです。聞こえるでしょう、国民の怨嗟の声を。
将軍の部下の皆さんも家族が犠牲になっている方は多いはずです。役人の腐敗堕落により、国民の権利と自由は奪われています。土地を奪われ、流民に成り下がった人々。無実の罪を着せられ、獄死した人々。彼らの声が将軍にも聞こえるでしょう。
政府は正しい政府ではない。国民の幸福と国家の繁栄をもたらす政府ではない。そのような政府を守る事は、国家と国民に対する反逆です。いやしくも国家と国民の守護者たる軍人はその様な卑劣な行為に手を貸してはいけない。軍人は国家と国民を守るために立ち上がり、政府の腐敗勢力を粛正しなければならない。そうではありませんか? 銃口を向けるべき相手は腐敗堕落した政府と役人であり、我々反乱軍ではありません。
故に私は云いました。銃口を向ける方向が間違っていると」
「将軍! こんな話に乗ってはなりませんぞ!」
「参謀長。ならば、キミはどう思うのだ。この話を」
「…そ、それは。しかし、我々は政治に干渉しないと云う立場を守るべきであろうと」
李将軍は参謀長の答えを遮り、云った。
「わしとて、この国の国民である。何のための軍隊なのだ? 国民のための政府ならば、それを守る事は国民を守る事と同じだ。誇りを持って政府を守るだろう。だが、わしにも聞こえる。天命が改まったのだと云う声が。わしは国家と国民を守るべき軍人だ。だから、わしは政府よりもまず、国家と国民を救いたい!」
超将軍は顔を輝かせ、李将軍に近付いた。その時、李将軍の一人の幕僚が列から飛び出した。彼は特別の赤い制服を着ていた。それは将軍を監視するために皇帝から直接遣わされた皇帝側近の証であった。彼は叫んだ。
「謀反だ! 李将軍が謀反だぞ! 兵隊はこの謀反者を捕らえろ!」
その途端、超将軍の随員が拳銃を抜き、その幕僚を射殺した。李将軍はうろたえた。
「な、なんて事をするんだ。彼は皇帝側近だぞ」
超将軍は冷たい眼で李将軍を見つめ、云い放った。
「覚悟を決めて下さい。この状況で皇帝の側近が死んだ。もはや将軍が政府に対して謀反を起こした事は明白な事実。如何なる弁解も通用しません。将軍のみならず、ここに居る幹部の皆さんも全ての名誉は奪われ、家族もろとも死刑になるでしょう。こうなれば、ハラをくくって、首都に進軍し、政府を軍事力で改革するしかありませんぞ」
「うーむ」
参謀長が紅潮した顔で云った。
「閣下。もうこうなれば、やむを得ません。超将軍の云う通りにするしかありません。引けば反逆者として殺されるでしょう。進んで政府を動かせば、我々が政府の実権を握ることになります。利害得失ははっきりしています。やるしかありませんよ」
李将軍は決めかねているようだったが、死んだ側近の赤い制服をちらと見て、決心がついた様だ。
「判った。我が軍団はこれより首都に進軍する。先遣隊を出し、進路上の町々に宣伝しろ。我々は政府の腐敗堕落を正すために立ち上がったと」
「はっ」
命令が下り、部下達が李将軍の周りに集まった。
「閣下。閣下ならやってくれると思っていました」
「我々も閣下と同じ気持ちです」
「国民を敵に回すことは出来ません」
「共に政府を正しましょう」
李将軍は云った。
「有り難う。諸君らの支持があれば、この作戦は成功するだろう。共に最後の最後まで戦い抜こうぞ」
超将軍が近付いて李将軍に云った。
「閣下。有り難うございます。無礼の数々、お許し下さい」
「いやいや。超将軍、良い話を聞かせてくれた。我々が過ちを犯す前に正してくれて感謝する」
「これから、我が反乱軍も共に首都に向かいたいと考えますが」
「うむ。反乱軍と共に首都に向かえば、民衆も我が軍の意図を正しく知るだろう。よろしい。その様にしてくれ」
「判りました」
参謀長が言い添えた。
「超将軍、先ほどは失礼しました。こうなったからには将軍の力に頼るところ大であります。よろしくお願いします。早速ながら、反乱軍が我が軍と合流して首都に向かう際は、軍紀が一番心配です。これはお願いできますか?」
「まさしく、その通りです。軍紀が乱れ、略奪などやってしまったら、民衆の支持は永遠に失われるでしょう。これは厳しく守らせます」
「有り難うございます。では、両軍が委員を出し合って、打合せをしながら進軍する形に致しましょう」
「お見事です。その様に致しましょう」
超将軍と随員は対岸に戻り、待ちかまえた反乱軍に首都進軍を報告した。100万の反乱軍は緊張が一度に解け、狂喜乱舞した。早速、全体を進軍に参加する者と、地元に戻る者に分けた。進軍に参加する者は、出身地域ごとに団を編成し、団の責任で風紀を取り締まることにした。違反者は銃殺という厳しさである。進軍組は橋を渡り、李将軍の軍隊の前後について移動を開始した。
この情報は早速に首都にもたらされ、巨大な衝撃を中央政府に与えた。曰く、
「李将軍を総帥とする、軍及び民衆合計100万人が首都に向かって進軍中」
「首都周辺には防衛軍はなく、警察隊を大集合させているが、総数10万に過ぎず、しかも装備は自動小銃10万丁のみ」
「各地の防衛軍は各所の反乱軍と対峙しており、退却すれば背後を襲われる。よって、早急に首都へ向かうことは出来ない」
「李将軍は中央政府に要求している。腐敗役人の殲滅と国家機能の改革を」
「李将軍は進路の町々に宣伝を行っており、同調する民衆が加わり、総数は200万人を超えつつある」
「反乱軍は軍紀厳しく、違反者は容赦なく射殺されている。よって、民衆の信頼は極めて厚く、各地で熱烈歓迎されている。よって、食糧補給は潤沢である」
中央政府は緊急会議を開いた。例によって、重臣メンデが仕切っている。
「国難の時が来た。阿鼻省事件に対する外国からの攻撃に対しては、間もなく反撃できる。しかし、問題は国内だ。李将軍が謀反を起こし、中央政府に要求している事態をどう解決すべきかだ」
「反乱軍は皆殺しです。家族も同罪。よって、反乱軍の家族を拘束し、見せしめに処刑して、我が政府の意思を示すべきと考えます」
「バカな。そんな事をやったら、首都は焦土と化してしまうだろう。皇帝はおろか、我々も家族もろとも皆殺しだ。最強の正規軍30万人。主力戦車だけで500両、戦闘爆撃機100機、しかも大量破壊兵器も装備しているんだぞ。その上、武装民兵70万人も加わっている」
「我々の防衛は、武装警察隊10万人に過ぎない」
「敵が来たら、みな逃げてしまうぞ」
「我々も逃げる支度をしなくては」
「貴様。裏切る気か?」
「見苦しいマネをするな」
「反乱軍は民衆に圧倒的に支持されている」
「結局、腐敗堕落した役人が我が国を滅ぼしているのだ」
「そんな事は判っている。では、反乱軍の云うとおりにするのか?」
「それしか選びようがないではないか」
「大義名分は反乱軍にあり」
「軍事力も反乱軍にあり」
「民衆の支持も反乱軍にあり」
「天の時、地の利、人の和、全てを握った反乱軍は我々の敵ではない」
「我々は屈しよう」
「負けた…」
「彼らを懐柔して、何とか今の役職を維持しなくては…」
「そうそう。今さら路頭に迷うなんてまっぴらだ」
「李将軍に渡す金を用意しなくては…」
「早く海外に送金をしなくては…」
「飛行機だ。飛行機を用意しよう」
敗北と決まった途端、大臣達は早速、保身に奔走し始めた。メンデは呆れ返りながら、総括した。
「我が政府は反乱軍に降伏する。直ちに彼らと連絡を取れ」
「それと、国境線を封鎖しろ。また、国内からの送金を直ちに停止しろ。悪徳役人の国外への逃亡を阻止するのだ。命令に付け加えておけ。今までとは違うのだ。買収されて国外に逃がした場合は、親族を含めて公開処刑に処す。なお、摘発と処刑を実施するのは反乱軍なので、買収は効かないぞ」




