表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/28

第20話 「チョンファーレン帝国の暗雲」

 小さい穴から堤防も崩れる。



 チョンファーレン帝国中部山岳地帯。沿岸地方の経済的発展とは無縁の、所謂、ど田舎である。ほんの百年前までは、子供は裸と裸足が当たり前であり、唯一の大河の氾濫で、常に飢餓の恐怖に怯える貧しい土地であった。やっと数10年前に国土を統一する英雄が現れ、経済発展により子供は服を着ることが出来、靴を履くことが出来、死者は葬式で弔うことが出来るようになった。

 そんな幸せが崩れるのはあっと云う間だった。経済発展、世界の強国、世界の中心の国…。貧しい人も豊かな人もない、平等な世界がいつの間にか、昔の殺伐とした世界へと変貌したのは。

 沿岸地方は急速な資本投下と制約のない開発により、爆発的な成長を遂げた。1万年掛かっても手に入れることの出来ない大金を1年で手に入れ、テレビで見るアイギスやエウロペの人々の生活と同じ生活をする、選ばれた人々。自分たちも同じ夢を見ることが出来ると、沿岸地方に出稼ぎに出る若者。幸せと徳の世界ではなく、欲望と傲慢の世界へと人民は走った。

 その結果生まれた世界は、遙か昔の呪われた世界だった。働くことは愚かであり、賢く美しく気高い人々は、働くこともせず、ただ、刺激と快楽を求めるだけ。欲望に誘われ大都会へと出た人々は、蔑まれ、利用され、搾取され、失望と絶望と全ての喪失を携えて、故郷へと落ち延びた。

 だが、現実は逃避者を追ってきた。

 金儲けをして沿岸地方の様な裕福な生活をしませんか? そんな誘いが地方の役人を襲った。彼らは乗った。

 この土地の発展のために、工場を造りましょう。従業員はこの土地の人達だ。彼らにカネがはいる。よって、地域は発展する。だから、土地を提供して下さい。何? 農民が居る? 頭を切り換えて下さい。時代の風を感じませんか? 地域の発展こそが必要です。農民には代替地を与えましょう。土地の代金は当然払います。役人の皆さんには色々と大変なことをお願いすることになるでしょう。これは些少ですが、お礼です。よろしくお願いしますよ。


 役人は工場を誘致するために、農民を追い出した。草も生えない代替地を与え、土地の代金は自分たちが着服した。そう、ここはチョンファーレンなのだ。役人が仕事をするときは、何らかの役得がなければならない土地なのだ。

 土地を奪われた農民は怒った。素手で役人に向かった。役人は銃と剣で農民を鎮圧した。逮捕者は国賊の烙印を押され、獄死する者も多数発生した。そうさ。ここはチョンファーレン。金持ちは牢屋に入ることがない世界なのだ。金がない者は命すらなくなってしまうのさ。力もなく、金もない貧民になった農民は、のたれ死にでもするんだな。歴史にはキミ達負け犬のことを記載するスペースは無いんだよ。


 既に数千万人の農民が自分たちの土地を奪われ、流民と化した。彼らは沿岸地域に流れ込み、労働力として搾取されつつ、摩耗して滅んで行くのだ。なにしろ、大帝国を築くためには巨大なエネルギーが必要なのだ。そのエネルギーは無名の労働者が無償で提供すべきものなのだ。


 この土地に話は戻る。

 地域の名士にワン先生と呼ばれる人物が居た。改革と発展という美名の下に、搾取と破壊が行われていることに憤慨している人物である。多くの農民が自分の土地を奪われ、支払われるはずの土地代金は役人の懐に消えている。役所に文句を言っても、そんな事実はないと取り合ってすらもらえない。農民は救い主を求めていた。王先生は、農民の希望の星だ。彼は、役所に出向き、役人とやり合って、多少の金を取り戻してくれた。

 役人達は考えた。こんな事が続けば、我々の取り分が少なくなる。そうだ。王先生が居なくなれば、金を取られる必要はない。だから、彼を殺すことにしよう。

 それは白昼堂々と行われ、ついでに役人に逆らった数人も同じ運命になった。民衆は憤慨した。しかし、役人は押さえつけようとした。


「国法を犯す者は死刑である」


「民衆は土地を奪われたと云っているが、契約書では代替地と代金が保証されている。全く問題がない」


「代替地は豊かな土地であり、収穫は以前よりも多いはずである。なぜ、彼らは文句を言うのか? それは彼らが欲深いからである」


「土地の代金はちゃんと払われている。受領書にもちゃんと農民のサインがしてあるではないか。これは正統な契約である」


「農民は4千年前からずるい。自分の持ち物をちょっとでも多くしようと嘘を平気でつくのだ」


「この土地が発展して最も利益を得るのは農民である。それなのになぜ反対するのか? それは彼らが自分の取り分を少しでも多くしようとするからである。つまり、欲深いからである」


「自分の利益しか考えない保守的でわがままな農民は武力で鎮圧すべきである。なぜなら、彼らの欲望を放置したのでは国や地方の発展は見込めないからである」


「農民は暴徒と化した。彼らは扇動者により操られている」


「扇動者は国家に対する反逆者である」


「扇動者はアイギスのスパイとの情報がある。彼らを捕縛し、拷問せよ。依頼主を吐かせるのだ」


「扇動者もしくは政府に対する反逆を試みる者は、国家反逆罪により無条件で死刑に処す」


 役人の対応は苛烈を極めた。3人以上の人間が集まることを禁じ、それを破る者は国家に対する反逆を計画するものとして、容赦なく捕縛し、拷問をくわえた。


 公然と殺された王先生には息子が居た。民衆は、彼に王先生の跡を継ぐことを希望した。


「息子先生。先生もわたしたちの生活をご存じでしょう」


「省政府のやり方をご存じでしょう。こんな事が人の道として行われても良いのでしょうか?」


「もし天がこの様な事を許すとすれば、我々は一体何を頼りに生きて行けば良いのでしょうか? それは先生です」


「王先生は我々の味方でした。わたしたちは先生のような方無しでは生きて行けません」


「息子先生に、王先生の跡を継いで頂きたいのです」


「先生こそがこの国を正して下さる方なのです」


「我々は先生に従います」


 この様な民衆の懇願により彼はついに立ち上がり、民衆の代表として役人に対抗した。役人は彼を捕縛し、拷問を7日間にわたって加え、ついに殺した。

 殺された息子には子供が居た。まだ10歳にも満たなかったが、民衆は彼に親の意思を継ぐことを望んだ。


「孫先生はまだ子供ですが、我々には生きる希望が必要なのです」


「王先生や息子先生のような方が我々には必要なのです」


「息子先生の妻でいらっしゃる奥様は、この様な政治を許せるのでしょうか?」


「息子先生は拷問で殺されたのです。この恨みを晴らし復讐する事は人の道として天も許し給うでしょう」


「孫先生を支え、息子先生の意思に報いるのが妻の本分と云うものではないでしょうか?」


 この様な民衆の懇願により、後見人の妻は子供に父親の遺志を継がせることにした。役人はその子供と妻を捕縛し、拷問により殺した。


 民衆は怒った。農具や棍棒を持って、役所に押し掛けた。王先生らの遺体を渡すように要求した。役人はそれを拒み、返って、ベランダから遺体を投げ捨てた。

 民衆は更に怒り、役所に突入した。これに対して、役人は重機関銃で応戦した。役所の前は死体で山ができ、血は川のように流れた。民衆は逃げ帰った。


 既に戦争であった。血は新たな憎しみを生み、それは更に新鮮な血を求める。その限りなき循環が始まったのである。


 民衆は怯えていた。役人の容赦ない殺戮にである。


「どうしよう。王先生一家は既に無く、戦うにしても武器はない。勇者は既に骸となった。オレ達はどうすれば良いんだ」


「どうしようもないだろう。このまま役人の言いなりになって、あの荒れ果てた土地にしがみつくしか無いんだよ」


「いやだ。それは死ねと云うのと同じじゃないか」


「そうかも知れないが、今死ぬよりも少しはマシだろう」


「おい。イイ話が有るぞ」


「イイ話? どこかの土地に逃げる話か?」


「いや。役人共を皆殺しにして、この土地に、オレ達の政府を作る話だ」


「なんだ、それ」


「夢を見るのもいい加減にしろよ」


「何をどうすれば、そう云う話になるんだ」


「ふふふ。武器がある」


「武器?」


「そうさ。それも大量にだ」


「どこからそんな物を手に入れたんだ」


「首都に知り合いが居るんだ。そいつが地方役人の腐敗に理解があってな。どうしても必要なら、武器をやるから使えと云っている」


「武器って、何だ?」


「自動小銃だ」


「そんな恐ろしいことを…」


「戦争をやるつもりか?」


「政府軍が出てきて、皆殺しになるぞ」


「いや。大丈夫だ」


「なぜ?」


「実は、各地で一斉蜂起の計画がある。それに便乗すれば、オレ達を止めるヤツは居ない」


「一斉蜂起?」


「本当なのか?」


「いや。ダメだ。そんな事をしたら、一家皆殺しになってしまう」


「そうだ」


「…実は、もう遅いんだ」


「え。何が遅いんだ?」


「省政府に密告したんだよ。オレ達が反乱を起こすって事をな」


「なんだって!」


「そんな事をしたら、政府軍がやってくるじゃないか!」


「わあ、もうダメだ!」


「その通り。政府軍はやってくる。オレ達は皆殺しさ。さァ、どうする、待っていても皆殺し。だったら、乾坤一擲。軍事蜂起をして、ここにオレ達の政府を作ろうじゃないか。オレ達の行動を聞いて、全国で一斉に蜂起してくれれば、政府軍はどこに行って良いか判らなくなり、オレ達は救われる」


「なんて事をするんだよ。もう、それしか無いじゃないか!」


「終わりだ…。もうやけくそだ」


「うわぁ、みんな死んでしまうんだ」


「愚か者。そうと決まったわけじゃない。オレ達の頑張りようで、生き残れるんだ」


「もう、やるしかないな」


「武器をくれ。こうなったら、とことんまでやってやるさ」


「武器は既に倉庫に運び込んである」


「どれだけ有るんだ」


「自動小銃AK-47が2万丁。銃弾は4200万発だ」


「そ、それほどか?」


「軍隊が一個師団できるぞ」


「こ、これは本当に勝てるかも知れないぞ」


「よーし。やってやるぞ」


 民衆は武装して、役所に夜襲を掛けた。役所側では民衆の攻撃に備えて、数百名の兵隊を備えていたが、完全武装の数千人の民衆には叶うはずもなく、役所は炎上し、兵隊と役人達は全員号泣しながら投降したものの、磔にされ、自動小銃の的として肉塊となった。


 その報を受け取った省都では、早速探偵を派遣して、敵情を探った。


「反乱軍はどの程度か?」


「はっ。総数20万人と思われます。但し、武装しているのは、その内2万人と見られます」


「武装は?」


「AK-47を2万丁装備している様です」


「大軍だな」


「弾薬は?」


「不明ですが、最低でも1丁当たり200発は撃てる様です」


「手強いな」


「他の武装は?」


「棍棒や農具です」


「現地への道路は?」


「道は堅固ですが、阻止線を各所に敷いています」


「手強いぞ。心して掛かれ。反乱を許しては中央政府に聞こえが悪い。手段を選ばず短時間で片付けるんだ」


「はっ!」


 省政府は兵力10万人、戦車200両、戦闘爆撃機50機と云う大火力を3方から投入した。作戦時間僅かに8時間。民衆は正規軍の圧倒的火力の前にアリのように殺され、女子供といえども、生き残った者は皆無であった。山野には草すら残らず、地面は血で固まり舗装でもした様になった。川も血で染まり、河原に追いつめられた女子供の死体で、川の流れが変わったと云われる。所謂、阿鼻省事件と呼ばれる反乱であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ