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第18話 「バレッタに死を!」

 沈む太陽、昇る太陽。



 チョンファーレンへの出発を控えたバレッタ親衛隊が重大な情報をキャッチした。バレッタ暗殺計画である。


「どうも、軍需産業関係者が妙な動きをしているらしい」


「空軍の一部に頻繁な命令変更が出ている。どうやら、作戦を隠蔽している気配がある」


「情報部員が早期警戒システムに干渉しているそうだ」


「警戒システムの情報をいじくる準備だな。それは」


「総合的に判断して、バレッタ閣下暗殺計画が存在する」


 バレッタ親衛隊隊長マールスは保安会議の席上、そう断定した。彼はペートル空港でのバレッタ外務大臣更迭事件の際、大統領警護隊から激しい暴行を受け、その傷からやっと回復して職場に復帰したばかりである。皮膚の移植手術などで外観は元通りであるが、右目を失明していた。


「隊長。今回のチョンファーレンへの飛行は危険です。警備体制はどうしますか?」


「上空の監視衛星を確保しろ。複数だ。ステルス機の出す、熱を監視するのだ。それとAWACSも2機動員しろ。護衛機は10機に増やせ。乗員は死を覚悟しろ」


「はっ! 護衛機をミサイルにぶつけてでも、閣下をお守りします」


「早期警戒システムに、係員と完全武装の部隊を派遣しろ。暗殺者の妨害を阻止するんだ。必要ならば施設を奪え。発砲を許可する」


「はい! 敵の動きを必ず掴みます」


「機体の整備は?」


「部品1個ずつ調べています」


「まァ、さすがに常時警備している機体までは手が出ないだろうが…。そうそう、燃料とか食事とかもチェックしろ。異物や発信器が入っているかも知れない」


「了解しました!」



 一方、軍需産業ダイダロスのエンディ側にもこの情報は入っていた。


「我々の動きがジャジャ漏れじゃないか。一体なにしてるんだ」


「情報屋と情報の取引をしているからな。やむを得ない」


「護衛機が10機だと。戦争でも始める気か?」


「やつらはその積もりだよ」


「ミサイルを倍にしろ」


「こちらもAWACSを用意しろ」


「早期警戒システムの妨害はどうだ」


「やつらの邪魔が入っているので、うまく行っていない。なんとか時間までには介入するさ」


「時限爆弾と発信器は?」


「既にセット済みだ。やつらが動き出す前に付けておいたからな。必要部品との区別はつかない」


「OK。なんとかなりそうだ」


 両者の暗闘はバレッタの出発まで続いた。バレッタはタラップから挨拶し、機内に消えた。バレッタ機はそのまま離陸し、後ろから護衛機が続々と現れ、バレッタ機を取り囲んだ。空中給油機は太平洋上に待機しているはずである。その頃には追加の護衛機も追いつくはずだ。目的地はチョンファーレンである。今回の旅は緊急でないため、北部太平洋ルートを採っている。対外的は通常の飛行に見えるが、その実、内容は最高度の警戒態勢を採っている。バレッタ機の機内では、マールス隊長がバレッタにパラシュートを付けていた。



「本当にこんなものが必要になるんですか?」


「間違い有りません。敵は必ずやってきます。ターゲットは勿論閣下です」


「その際は他のメンバーも脱出してくださいよ」


「当然です。それはお気になさらないで下さい」


「現状報告をお願いします」


「はい。アイギス及びチョンファーレンの政府関係機関には特に動きはありません」


「チョンファーレンの内部ではどうですか?」


「暴動の数は先月と変わっていません。散発的で組織的な動きはありません。気になる点と云えば、組織間の通信量が次第に増大しつつあります。それに伴い、保安省の通信量も増大中です。これはちょっとした予兆の可能性があります」


「わかりました。有り難う」


 取り敢えず、今は平和だ。バレッタは眠りについた。

 どのくらい経ったか、軽い警報音が響いた。マールスがやってきた。


「閣下。ステルス機が現れました。機数5、後方約200キロメートル」


「ダイダロスですか?」


「たぶん…。だが、ご安心下さい。この機はECM、フレア、チャフなどの対空ミサイル妨害装置が付いています。しかも、護衛機は10機です」


 アナウンスが低い声で語った。


「本機ECM作動開始…。AWACS、電子戦開始」


 バレッタはふと思った。電子戦装備を施した本機を襲うと云う事は、こちらの装備以上の攻撃方法を持っていると云うことではないか。つまり、通常の対策では不足だ。


「隊長。敵は我々の力を知っての上で攻撃しています。想定外の攻撃を掛けられる可能性が高い」


「…たしかにそうです。しかし奴らはミサイル攻撃をするしか方法がないはずです。ならば、我々の装備で回避できます」


「もし、この機体に仕掛けがあったら?」


 アナウンスが再び語った。今度は少し高ぶっているようだ。


「マールス隊長。本機から強力な誘導電波が発信されています」


「なに?」


 マールスは司令所へ走った。バレッタも走った。


「先ほどから始まりました。機体から強力な電波が出ています。ミサイルを誘導するためのものです」


 バレッタが反応した。


「隊長。このままでは危険です」


「よし、急降下だ。本機及び護衛機は一気に500メートルまで降下せよ。…閣下、このままではやられます。脱出ポッドで脱出して下さい。ポッドは途中で開き、あとはパラシュートで降下できます」


「しかし、あなた達は?」


「…閣下。いつかこんな時が来る事を我々は判っていたんですよ。それが我々の望みなんです。我々の望みを叶えて下さいよ」


「それでもわたしには出来ません」


「閣下、残念ながら現実は劇とは違い、語り合う時間が無いものなんですよ」


 その時、管制官が叫んだ。


「敵機、ミサイル多数を発射。距離40キロメートル。速度マッハ4。約40秒で命中します」


「お別れです。お元気で、閣下!」


 マールスはそれでも拒むバレッタを無理矢理脱出ポッドに詰め込み、後方に護衛機がいないことを確認してから、射出ボタンを押した。急降下の中、上空1500メートルで射出されたポッドは途中で開き、バレッタは空中に放り出された。自動的にパラシュートが開き、バレッタは海面に向けてゆっくりと降下した。彼女は叫んだ。


 「隊長!」


 バレッタ機と護衛機を追って、多数のミサイルが接近してきた。その内の半数はECMの為に目標を失い、海面に向かった。残りの半数は、誘導電波を発信するバレッタ機を執拗に追いかけた。護衛機がバレッタ機の盾になろうとした瞬間、突然バレッタ機が爆発した。時限爆弾である。ミサイルは護衛機を追い抜いて、四散するバレッタ機の残骸に命中した。


「閣下ぁ!」


「隊長ォ!」


 護衛機のパイロット達の悲鳴が海面に跳ね返った。


 それから、暫く経った。バレッタは付近海域に配置されていた大型巡洋艦に救助された。バレッタ親衛隊の手配である。バレッタは垂直離着陸機で艦を離れ、バレッタ機の護衛機の生き残り8機を伴い、一路チョンファーレンを目指した。チョンファーレンに到着後、会議に出席した。特に変わった様子は見せなかったが、バレッタ専用機ではなく、大統領専用機がチョンファーレンに迎えに来た事だけが周囲の注目を引いた。

 そして、アイギスに帰国後、彼女は突然、辞任した。外務大臣及び国防大臣をである。理由は、チョンファーレン包囲同盟の失敗の責任を取ったものである。後任の外務大臣及び国防大臣は無名の政治家である、エンディ・ミオンであった。これはバレッタの登場の時以来の話題を集めた。巨大軍需産業ダイダロスのプリンスと称されつつあるエンディが、政府の要人となった事で、アイギス連邦の外交は覇権主義へと大きく傾斜するだろうと云うことは、外交通の一致した見解であった。


 これより先、アレクトー社長はエンディと会談を行っていた。


「エンディくん。作戦成功おめでとう」


「社長。これでは成功とは云えないのではないでしょうか? わたしは亡命すべきかも知れません」


「ははは。上手い冗談だ。いやいや、確かにバレッタの暗殺には失敗したものの、彼女は政界から去り、事実上死んだも同然だ。更に、ハデスは我々の警告を真摯に受け止め、物わかりが良くなった事を我々に示してくれたよ。彼は土産をもってきてくれた。バレッタの代わりに、外務大臣と国防大臣をキミにやってくれないかと云うことだ」


「それは名誉なことです」


「そう。その通りだ。わたしは引き受けたよ。やってくれるね」


「はい。喜んで」


「これでダイダロスは政界の3/4をコントロールすることが出来る様になった。大きな成果だ。で、キミには早速やってもらわなければならない事がある」


「はい。我が国の外交を覇権主義に切り替える事だと考えますが」


「…すばらしい。見込んだ通りだ」


「先ずはチョンファーレンを集中攻撃し、東アジア連合の自壊を促す事だと考えますが」


「それでよい。全て、キミに任せよう」


「バレッタを処理すべきと考えますが」


「トドメを刺せと云う事か。いいだろう。キミの好きなようにやり給え。結果だけを報告してくれればよい」


 エンディはその足で、スタッフ会議に臨んだ。


「皆、ご苦労だった」


「はっ! エンディ閣下も大臣就任とのこと。おめでとうございます」


「ありがとう。全て、キミ達のおかげだ。で、今回の作戦の反省会を行い、戦果を確実な物にしようと思う」


 姿勢を改めて、エンディは云った。


「バレッタは攻撃されたが、命を失うまでには至らなかった。よって、アイギス政府はこの事件を隠蔽した。だが、我々のメッセージはハデスに十分伝わった。バレッタは辞任し、ハデスは覇権主義へ傾斜することを誓った。つまり、我々のプロジェクトの目的は達せられた」


 間を置いた。


「我々は成功した。では、反省会を始めよう」


「まず、時限爆弾と誘導装置の設置は完ペキにうまくいったと自認します」


「見事だった。あれがなければ、トドメを刺すことは出来なかっただろう」


「早期警戒システムへの介入は、バレッタ親衛隊が戦闘部隊を送り込んできたために出来ず、代わりに中継回線を遮断することで行いました。しかし、効果が出たのはミサイル発射後でした。これは失敗だと考えます」


「もっと前から介入しておく必要があったと認める。これは反省点だ。次回までには解決しておくように。いいね」


「はっ!」


「攻撃部隊は全て予定通りのスケジュールでした。うまく行ったと考えます」


「見事だった。パイロットにも礼を言っておいて下さい。反省会は以上だが、他に議題は有るか?」


「閣下、バレッタはこのまま放置しておくのですか?」


「聞けば、彼女は帰国後放心状態となり、自ら辞任を申し出たそうだ。辞任後に失踪している。だが、油断は出来ない。彼女を捜し出し、始末せよ」


「判りました。我が情報部が探索と処理を行います」


「よろしく頼む。定時報告を怠るな」



注:

ECM:Electronic Counter Measures 、電子対抗手段

電子対抗手段は敵のレーダーを妨害または騙し、敵の指揮、統制、情報収集機能に混乱を与える兵器である。


チャフ(chaff)

レーダーによる探知を妨害する物体である。レーダー波を乱反射させることで、自機の探知を妨害したり、レーダー誘導のミサイルを回避したりする。


フレア(Flare)

赤外線誘導ミサイルの命中を回避するために航空機から空中へ放出する欺瞞装置の一種であり、航空機のエンジン排気口から放射されるのと同じ周波数帯の赤外線を出しながら燃焼するように作られている。


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