第15話 「東アジア連合の成立」
弱点は強さのウラにある。
ハデス大統領とバレッタ外務大臣が関係の修復を行っている最中に、歴史的発表は行われた。
東アジア連合の成立である。
ペートル共和国、チョンファーレン帝国、インドラ帝国、そして、ヤマタイ自治共和国による巨大地域同盟である。
人口26億7千万人、常備軍490万人、GDPは世界の18%を占める巨大勢力である。因に、
エウロペ同盟は人口4億6千万人、常備軍140万人、GDPは世界の31%
アイギス連邦は人口3億人、常備軍150万人、GDPは世界の28%
である。
東アジア連合はペートル共和国を盟主とし、東アジア地域の繁栄と安全保障を共同で運営する組織である。連合本部をペートルの首都に設置し、各国の代表が常駐して、会議により方針と施策を決定し、各国が実施する。各国は独自の軍事力を保持するが他国に基地を設けることはしない。地域同盟の中に存在する所謂「緩衝地帯」は近々独立させ、東アジア連合に組み込む。この地域はアイギスの手先であったヤマタイとチョンファーレンの緩衝地帯であったが、ヤマタイとチョンファーレンが同盟を結んだ為、そのレーゾンデートル(存在理由)が無くなったからである。
この連合の成立により、従来存在したチョンファーレン帝国包囲同盟はアイギスを除く構成国家の全てを失い、事実上崩壊した。
ヤマタイはアイギス連邦と安全保障条約を結んでいたが、これを一方的に破棄する事を宣言した。「我が国は独立国である。よって、領土内に外国の軍事基地を認めない」として、軍事基地の期限付き撤去をアイギスに要求した。これに対して、アイギスは本国の安全保障上重大な事態であるとし、太平洋艦隊を動員して軍事的威嚇行動に出たが、ヤマタイの軍は怯まず、また、東アジア同盟は事前の計画通り、一致してヤマタイの主張を支持し、ヤマタイ周辺に100万人を超える陸海空及び宇宙軍を展開した。更に、ミサイルによるアイギス軍事衛星の撃破と大量破壊兵器によるアイギス本国の攻撃も辞さないとした。
それから3日が過ぎた。
アイギスの外務大臣兼国防大臣となったバレッタは、情報分析に余念がない。権力闘争で空費した数日間はただの数日間ではなかった。極めて重要な動きが有ったため、それは一ヶ月にも相当するダメージであった。それを急ぎ取り戻さなければ、いつまでもジュリオに追いつけない。
余談だが、血まみれのバレッタは大統領との会見の後、空軍基地格納庫にバレッタ親衛隊を訪れ、大統領の言葉を伝えると共に、ようやく素肌の血の痕を拭ったとのことだ。だから、ここに居るバレッタは以前の姿をしている。
但し、今回の事件により、大統領の信頼は飛躍的に高まり、併せて権力も大きく集中した。文字通り大統領すら超える権力者となったワケだが、大統領の信任と云う裏付けがある為それは許されている。一方で、包囲同盟が崩壊した責任も感じている。自分の構築した同盟がジュリオによってあっけなく倒されたというその事実は、大きな悔しさとと共に、自分よりも遙かに優れた者が存在するという畏れを彼女に醸し出した。
「ヤマタイの国内状況はどうですか?」
「はい。旭野総理の独断とも云える安全保障条約廃棄ですが、政治家、財界、マスコミ、文化人を含めて、極めて好意的な反応になっています」
「アイギスの協力者たちはどうしたのですか?」
「寝返ったか、暗殺されるか、それとも、自殺しました」
「理由は?」
「我々が使っていた手口を旭野も使っています。つまり、要人の弱みを握り、協力を強制することです」
「データはチョンファーレンから手に入れたのですか?」
「その通りです。ジュリオが提供したようです。協力者は我が国と旭野の両方から協力を強制され、旭野に寝返るか、それとも板挟みになって自殺したようです。それ以外の者は当局によって拘束後洗脳されるか、消されています」
「アイギスに協力する者は居ないのですか?」
「全滅です。旭野は公安組織を動員して要人を常時監視しています。盗聴や暗殺もやっています。我々の活動は不可能です」
「我が軍の基地はどうなっていますか」
「完全に封鎖されています。電気・水道・エネルギーは制限されており、機能は停止状態です」
「基地は放棄しましょう。ヤマタイから撤退です」
「しかし、閣下。ここで引けば、東アジア連合は調子に乗ってますます要求をきつくするでしょう。1歩引けば、100歩引くのと同じと云うではありませんか」
「彼らはここを正念場と考えています。このまま押していても、結局、基地の機能は戻りません。それに兵站の問題が有ります。彼らは近くの自国から調達できますが、我々は近くに補給基地を確保できないので、はるばる地球の反対側に運ばねばなりません。緊張関係が長期になればなるほど不利です。ならば、彼らに油断させた方が得策です」
「つまり、我々が力負けして撤退し、彼らは増長してスキを作るって事ですか?」
「その通りです。緊張関係のママではいつまでもスキは出来ません。つまり我々はいつまでも勝てません」
「OK。それで行きましょう」
アイギス軍はヤマタイから1ヶ月以内に撤退する事を発表し、直ちに撤退の準備を開始した。この結果、極東の緊張関係は解かれ、各国の軍隊が自国に戻っていった。東アジア連合本部はまるで戦勝の様な騒ぎであった。
日を置かず、東アジア連合は「世界平和会議」を提唱し、開催した。目的は他の地域同盟とのパイプを構築することである。東アジア連合各国の首脳が出席し、アイギス連邦、エウロペ同盟からも代表が出席した。アイギスの代表はバレッタである。彼女はこの機会に東アジア連合の弱点を探るつもりだった。
会議の前日には、情報スタッフを集めて情報の集約を行った。スタッフに好きなように喋らせ、最後にとりまとめるのがバレッタのやり方である。
「東アジア連合諸国の国内状況は?」
「極めて安定しています」
「反対勢力は沈黙しています」
「治安維持に関して、チョンファーレンは力を入れています」
「各国治安部隊の指導もチョンファーレンがあたっています」
「チョンファーレンのスケジュールでは1年以内に指導を終了する予定です」
「チョンファーレンは1千人規模の外交団を各国に常駐させ、極めて活発な工作を行っているようです」
「通信内容は不明ですが、通信量は極めて膨大です」
「東アジア連合には、チョンファーレン外務省外交戦略部が深く関わっています」
「彼らが黒幕です。緻密とは言い難いインドラやペートルを、あれだけ効率的に動かすのは自国の力ではありません」
「ジュリオを含めて11人いると云われていますが、会議には出てきませんね」
「あくまで黒子のつもりか」
「ジュリオはエウロペに行っているとの情報です」
「またしても先を越されましたね」
「あ、そう云う、引いたような云い方やめろよ」
「それはともかく、我が国の先遣隊もエウロペに送ってある」
「バレッタ閣下でないと説得はムリでしょう」
「エウロペも今の段階では東アジア連合の値踏みをしているはず。判断はこれからだ。まだ十分に間に合う」
「エウロペはどう動いている?」
「連合のポイントとなる、チョンファーレンとヤマタイの結びつきをチェックしている」
「結論はどうなりそうか?」
「旭野首相の気の弱さは弱点と見ているが、逆にチョンファーレンにうまく利用されているので、総合点はプラスだ」
「って事は、エウロペは東アジア連合を重要なパートナーと見るだろうな」
「そうなるだろう」
「東アジア連合が狙う、世界三分の計の実現か…」
「エウロペは覇権主義志向をどの程度持っているのか?」
「彼らは基本的に受け身だ。同盟を作ったのも、アイギスの覇権主義的外交に危機を覚えたためだ」
「おい、自分の事を覇権主義って云うなよ」
「客観的にそうなんだからしょうがないだろう」
「エウロペは危機がない限り、攻勢には出ないと云う事だな」
「局外中立って事です」
「3つのパターンが考えられる。1つ目。エウロペはどことも組まない。2つ目。東アジア連合と組んで、アイギスに対抗する。3つ目。アイギスと組んで、東アジア連合に対抗する」
「東アジア連合に対抗して欲しいのだが」
「そのためには東アジア連合がエウロペを脅かすと云う状況を作る必要がある」
「ペートルだな」
「ペートルが覇権主義的行動を開始する」
「ペートルとエウロペは隣接しているから、これは脅威だ」
「よって、エウロペはアイギスに助けを求める」
「エウロペ+アイギスの誕生だ」
「これは我が国に大きな富と繁栄をもたらすだろう」
「ペートルは東アジア連合の盟主だが、実際に手綱を握っているのはどこだ」
「チョンファーレンだ」
「具体的にはジュリオ」
「ペートルの首相ババチコフは野心家で知られる」
「彼をけしかけて、チョンファーレンとの間にクサビを打ち込み、ペートルを西に、つまりエウロペに向かせる」
「こうなれば、エウロペはアイギスと結び、東アジア連合は脅威の前に内部分裂を起こし、戦わずして亡びる」
「つまり、今回の会議の主役はババチコフって事ですね」
「文字通りね」
「バレッタ閣下。大体、この様な結論ですが…」
「みんな。有り難う。メインディッシュはババチコフ…ですね」
「はい」
「では、早速、ババチコフとの会談を設定しましょう」
その時、
「閣下。火急の用件が発生しました」
と、係官が会議室に連絡してきた。
「何ですか?」
「ペートル共和国ババチコフ首相が火急にお会いしたいとのことです」
「ババチコフが…」
まるで計ったかのように、当のババチコフがやってくるとは一体どういう偶然なのだろう。いや、これほどの偶然など有り得ない。とすると、これは計略か?
「会いましょう。応接室に通して下さい」
「…閣下。これは謀略の可能性があります」
「おい。ここの盗聴防御は大丈夫なんだろうな」
「勿論、完ペキだ」
「ここの会議が漏れたワケではないのか?」
「なぜ、ババチコフが来たんだ」
「盗聴無しで、このタイミングにババチコフを寄こすとは、これはジュリオだ」
「閣下。ジュリオ襲来の可能性大です」
「ええ。その臭いがプンプンしますね。何れにせよ、避けて通るわけには行きません」
バレッタは応接室に入った。そこにはババチコフと、そして、予想通りジュリオが居た。ババチコフが早速始めた。
「これは、バレッタ閣下、お久しぶりです」
「ババチコフ閣下。この度は東アジア連合の主宰とのこと。おめでとうございます」
「有り難うございます。そうそう、こちらが貴国とも縁の深いチョンファーレンのジュリオ閣下です」
「チョンファーレン外務省のジュリオ・劉です。初めまして」
バレッタとジュリオが真っ向から向かい合って、相対するのは初めてであった。視線を交わした瞬間から、二人の間には激しい闘争心が燃え上がっていた。




