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火出国(ひいずるくに)の姫  作者: 小春日和
封神との出会い
3/30

風穴 3

 遊永から不二へ。

 とりあえず母子の霊との対話を試みるという理由で、黒岩の同意を取りつけた此花は、

「ちょっと待っててね」

と亀岩の陰でお色直しを行った。妙な無防備感を醸していた女子高生の制服を脱ぎ去り、今度は全身を白とレースで華やかに縁取った令嬢スタイルとなって現れる。

「このほうが成功率が高いの」

と言いのける女神に、

「何の成功率?」

と黒岩が聞くと、

「ヒッチハイク」

と答える。

 此花は、不二からこの地までの道程も、人間のドライバーに取り入って辿り着いたらしい。

「最近はお宮のお賽銭の管理がきつくなったから、電車代をくすねるのも難しいのよね」

と愚痴る少女に、

「お前って本当に神なのか?」

と再度呆れる封神。


 首尾よく若者二人連れの車に拾われた此花を追って、黒岩も高速道路へと身を乗り入れた。

 全身を黒尽くめで覆った青年は、その特異な身体能力を生かして、次々と同乗する車を乗り換えた。早い話が屋根を渡ったのである。

 ちなみに、道路公団の緊急電話に複数の「人が高速道路にいます! いや違う! 人が車の上にいます! え、どういうことかって? そのままだよ!」という連絡が入ったと知れたのは、後日のことである。


 此花よりだいぶ先行した黒岩は、彼女との距離を縮めるために、齢八〇に届こうかという老人がゆっくりと運転する軽トラックの荷台に落ち着いた。運転手は視力がおぼつかないらしく、たびたびセンターラインをオーバーしては盛大なクラクションの餌食になっている。

「危ねえぞ!」

「免許返せ!」

と怒号が飛び交う中、路肩のガードレールにこすれたサイドミラーが、風になびく封神の黒髪の横を飛んでいく。

「やれやれ」

このまま事故で大破でもされては寝覚めが悪いと踏んだ青年は、運転席の老人に向かって無造作に腕を伸ばした。

 急に脱力した老人の態度に反して、運転の安定した軽トラックは、そのままサービスエリアへの側道に危なげなく侵入する。


 黒岩の封印は、死して怨霊化した魂は元より、まだ生きている人間の精神をも強制的に封じることが可能だった。肉体から霊魂だけを抜き出し、岩などの無機物に移して閉じ込めてしまうのである。

 魂を抜かれた肉体は、呼吸、鼓動などの最低限の活動以外を停止する。すなわち、封印が長期に渡れば死は必至である。一方で封じられた魂は、黒岩が解除の契約を施すまで、永遠に封印神の下僕として存在し続けるのであった。

 使いようによっては人類を滅ぼしかねない恐ろしい能力。だから、これを持つ神は、自然と自己を律することに優れていく。封印の最高神、豊都の玄武にしても、性格はいたって穏やかだと言われていた。

 軽トラックに封じた老人の魂に、駐車場に停止するように指示した黒岩は、そこで彼を開放した。急な覚醒に驚いた老人はパニックを起こしてすぐに発進しようとしたが、すでにトラックの鍵は、黒岩の驚異的な投力によって、施設外に放られていた。


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