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火出国(ひいずるくに)の姫  作者: 小春日和
【瓊々杵】の謀略
22/30

海底宮 5

相当に残酷な描写があります。また性表現もあります。ご注意ください。

 いくつもの白い放電の柱が、四人を囲むようにして回廊に現れる。

 強烈な発光の中でまず動いたのが【良来(らく)】だった。倒れた此花に駆け寄り、助け起こす。

「姫さま、大丈夫ですか!?」

未だに力の入らない女神は、力強い女官に支えられるまま、かすかに首を上下させた。

 他にこの空間に残るのは【瓊々杵(ににぎ)】と【建雷命(たけみかづち)】の二人。

 闘う術を持たない此花と【瓊々杵】は、男神である【瓊々杵】のほうが有利、【良来】と【建雷命】の力の差も歴然であった。

「……助けて、お父さま……」

思わず父、【大山津見(おおやまつみ)】に祈る少女に、【良来】が勇気づけの言葉をかける。

「心配なさらないでくださいまし、姫さま。この【良来】が必ずお守りいたします」


 【建雷命】。

 稲妻を駆って天変地異を起こす厄災の神。【須佐之男(すさのお)】に匹敵するとまで評される猛々しい神。

 その強烈な覇気が、神々の間で欠片も賞賛を呼ぶことなく恐れられているのは、彼の相手構わず放たれる暴力性にあった。豊都の玄武によって封印されるまでに【建雷命】が死に至らしめた神族の数は、四桁を下らないと言われる。


 此花に楽天的な言葉をかけた【良来】だったが、自分に勝算がないことはとっくにわかっていた。【建雷命】に捕まってしまえば(にわか)仕込みの闘気など一挙手で潰されてしまうだろう。

 でもこの場で女神を守ることができるのは【良来】だけなのだ。どんなものでもいい。主君である少女と自分を守り通し、この空間から解放される手段を探さなければならない。

 闘神としての目覚めを迎えた女官は、鋭い眼力を周囲に配して、活路を探す。

「……【瓊々杵】……」

見つけたのは、絶対的に有利な状況に、いつになく頬肉を(たる)ませる男神だった。【建雷命】の後方、半分隠れるように立っている。

「あれを捕らえて盾にすれば、【建雷命】も手は出せない」

どうやら【瓊々杵】に盟友としての敬意を払っている様子の雷神。その関係を利用すれば動きを封じることはできそうだ。


 心細げに見上げている少女の視線を笑顔で受け、【良来】はそっと此花に耳打ちした。

「姫さま、少しだけ我慢していてくださいませ」

 そして。

 【瓊々杵】に向かって爆発的な瞬発力で疾駆する。

 盛り上がった背の筋肉は惰弱な男神の頭部を粉砕するほどの腕力をもたらす。この筋力を使って、まず前に塞がる【建雷命】をどかし、背後から【瓊々杵】を引っ張り出すつもりだった。

 牛のような体型に変化して猛進する女官に標的にされたと気づいた【瓊々杵】は、

「ひい……っ」

と情けない声を発して顔を引き攣らせた。かつては美貌の残滓を留めていた【良来】の顔は、いまや完全な凶相となって、見たものを震え上がらせる。

 【建雷命】の横をすり抜けざまに、鉱物のようなその硬い胴に渾身の拳打を突き入れる【良来】。

 がつん、と浅い音がして、雷神は女官の打撃をなんなく跳ね返した。が、一瞬だけ隙のような空白の間が訪れる。

 【良来】は狙い通り、【瓊々杵】の捕獲に即座に移った。

「うわ、うわ」

と上ずった悲鳴を上げた男神の胸倉を掴もうとした。

 その刹那。

 女官の(ほう)の後ろ襟を捕らえた【建雷命】が、闘神化して重量を増した【良来】を軽々と持ち上げた。そしてそのまま彼女の体を中空に掲げて。

 床に叩きつける。

 青畳が裂け折れた破壊音とともに、肉や骨の破砕する響きが渡った。


 戦慄の光景に、此花は全身を震わせながら座り込んでいた。

 水中にある宮殿内では(ほこり)による視界の劣化は望めない。クリアな景色の中、床に埋没した【良来】の肉体の惨状が垣間見えてしまう。

 上半身が完全に埋まった女官は、畳上に両足だけを残していた。それが立ち上がろうと足掻いている。生きてはいるが、思うように動けないらしい。

 暴れるせいで女官の下半身を覆っていた翡翠色の()がめくれ上がっていた。太めだが艶かしい腿を露出する【良来】の醜態を見せつけられて、少女はますます恐怖に萎縮した。躾の厳しかった母代わりの女官がここまで余裕をなくすほど、彼女の劣勢は逼迫(ひっぱく)しているのだ。


 わずかの間、もがく女官を静観していた【建雷命】は、やおら彼女の両足首を片手で掴み取ると、全身を床穴から引き上げた。

 闘気の消え始めた【良来】の姿は普通の女に戻りつつあった。だが右腕が肩先から反対を向き、顔は判別がつかないほど血に(まみ)れている。


「【良来】……。【良来】……」

我知らず、女神から呟きが漏れる。

「【良来】が死んでしまう……」

考えもしなかった【良来】の酷い姿に嗚咽が漏れる。


 雷神は女官の上半身を正常な床の上に投げ出すと、両足を引き開いて、身に付けるもののない彼女の股間に爪先を乗せた。そのままめりめりと【良来】の膣の中に足を突っ込んでいく。

 全身を痙攣させた女官が絶叫を上げる。

 【瓊々杵】の嘲笑がそれに重なった。


 耳を塞いだ此花は、ぼやける視界で、それでも自分のために身を投じてくれた女官を見つめ続けた。

「誰か来て……」

非力な少女の願いが、【建雷命】の作った放電の結界の中を、虚しく彷徨う。


 凶神の【良来】に対する暴行はさらに苛烈を極めた。

 一蹴りで内蔵を潰した【建雷命】は、血混じりの嘔吐物を噴き出す女官の上着をも剥ぎ取って全裸にした。そして乳房に歯型の裂創をつけながら、脊椎骨をへし折った。

 くらげのように脱力した【良来】は、豊満な肉体のあちこちを奇妙に捻れさせながら、辛うじて息をしている。

 【大山津見】の娘の乳母という尊厳をとことんまで蹂躙した雷神は、今度は血塗れの頭部に手をかけた。みしみしと女官の頭蓋骨が鳴り、喉奥から掠れた悲鳴が迸る。


「……たけみかづち……さま……」

冷笑すら浮かべたサディスティックな凶神に、小さいがよく透る声が呼びかけた。

「わたくしが【瓊々杵】さまの元に行けば……【良来】を放してくださるのでしょうか……」

放心した目で棒読みの台詞を羅列する女神。

 哀れみの中に隠せない歓喜の表情を現した【瓊々杵】が、

「おお。そのように言ってくれる日を待っていましたぞ、【このはな姫】」

とふらつく少女の体を抱きしめた。

 けれど此花は、【瓊々杵】を無視して、

「【建雷命】さま……」

と雷神にのみ話しかける。

「わたくしが【瓊々杵】さまの元に行けば、【良来】を放してくださるのでしょうか」


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