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ンぽヘなトぷーSide 3.初××登録と初スキル取得

 2123年8月23日(木)00:03


『バゲド』という名のゴブリンにこの洞窟の外に出ると返事をした後。

 視界右上に表示された洞窟内のマップ、そこに新しく追記された出口を示すマーカーに向かって、オレはスライムボディで這い進んでいた。

 ゴブリンや他の鉱山スライムたちが居た先ほどの広い空間とは違い、洞窟内の通路に光源は無い。視界全てが真っ暗なので、唯一見えるマップに記された自身のマーカーを頼りにひたすら進む。

 途中、何度も岩や壁にぶつかる事もあったが、このゼリー状の体のお陰かダメージを食らうこともなかった。ちゅーちゅーと『土喰い鼠』らしき鳴き声も聞こえるが、こうも暗くては経験地稼ぎも出来やしない。


 もしかしたら、バゲドとか他のゴブリンに訊けば何か明かりになるものを貰えたのかもしれないが、そのことに気付いたのが既に道のりの半分に差し掛かっていたので今更戻るのも辛かった。

 体感で10分ほど進むと、ようやく進行方向の先に光の点が見えた。きっと出口に違いない。

 残り約50mくらいをラストスパート。


(暗いの怖い。狭いの怖い。暗いのこわいィ……!)


 あっせあっせと坂道を必死に這い登る。出口付近は緩い坂になっているようだ。気を抜くと重力に従って滑り落ちるので一気に駆け上がらなければならない。

 もはや軽くトラウマになりそうだった暗闇から逃げ出すように、次第に大きくなる光へ向かう。


 ――もう……ちょっとぉ……!!


 そして視界が一転し真っ白になる。


(うお、まぶしっ)


 しばし立ち止まり、光に目が慣れるのを待つ。

 そして数秒後、再び視界に現れたのは――――



 ……むぎゅっ。

(おふっ)



「え? きゃっ、な、なに!?」


 自分の顔面に、何かに踏まれているような圧迫感。

 同時に聞こえてきた女の子の声。


 ――な、な、な、なに? なんなの!? 


 せっかく暗い洞窟から出れたと思ったのに、こっちが何って訊きたいわっ!


「……え、スライム? こんなところに? やだ、攻撃してこないわよね?」


 顔の圧迫感が消えた。

 ようやく解放された視界で正面を見てみると、そこには微妙そうな顔をした結構カワイイ悪魔っ娘が居た。


 短めのピンク髪ポニーテールに、あどけなさの残る可愛らしい顔。

 女の体付きになり始めた中学生くらいの健康美という言葉が良く似合う体躯に、露出の大きい明るめの紫を基調とした衣装を纏っている。

 何よりも目立つのは背中から生えた小さな一対の蝙蝠のような翼、そしてゆらゆらと揺れている矢印型のしっぽ。


(まさしく悪魔っ娘だ)


「しゃべった!? もしかして……プレイヤー?」


 ――お? なんだ、ちゃんと会話できるのか。


 この独特なエコーかかった声だと心の声と勘違いしてしまいそうになる。


「おっどろいた~。『スライム』なんて選ぶヒト、まーだいたんだぁ」


(い、いや、これは別に選ぼうと思って選んだわけじゃ……)


 ランダム設定にしたらこれになっただけで。

 それを言ったら――


「あは。あっはっはっ、ふふっ、なにそれ~w」


 盛大に笑われた。


「ランダムなんて普通しないわよぉ。普通は、こだわりのあるプレイヤー以外は『人型』モンスターを選ぶのが当たり前よ? 人型ならそこまで操作も難しくないし、きっちり道順に沿って育てれば進化しても人型になるし」


(だって、思い通りにならなかったからってキャラ消すのは、なんか負けな気がする)


「うんうん。その気持ちはよくわかるよ、同じゲーマーとして。――まあそれでも、スライムはないけどねぇ~」


(ぐふっ……)


 スライムって、もとから地面に這い蹲っているから『orz』の体勢がとれないんです。

 そのかわり気分的に落ち込むと余計にでろぉ~となります。


「でも……ふ~~~ん、『スライム』のプレイヤーモンスターねぇ」


 中腰になって俺を見下ろし、じろじろと眺める悪魔っ娘。





 ――てか、今気付いた衝撃の事実っっっ!!!





 パ、パパパ、『パンツ』がまる見えちゃんです! 少し暗いが、ミニスカの中に白と水色のしましまを確認しました隊長ぉっ!

 スライムの利点、ひとつ見つけちゃったよオレ。誰よりも視点が低いから、常に見上げる形になる。

 つまり、女の子のパンツ見放題! うひゃっほーい! ゲームデザイナーさん、わかってるなぁ……うんうん!

 ああでも、パレマニナ大陸にはプレイヤーは少ない! くそっ、ダーナ大陸の町とかだったら道行く女の子のパンツとか見放題なのに!


(パレマニナ大陸って、やっぱ暗黒大陸だから基本的に暗いのか? もうちょっと明るければ……っ)


 ここまでしたならもうちょっと気を利かせてよゲームデザイナーさん! ただでさえスライム微妙なんだから……!


「ん? どうかした?」


(いえ、なんでもありません)


 キリッ、と答えた。

 視線に敏感な女の子といえども、スライムの視線は感じ取れまい。

 なんせ、目はおろか顔すら無いし。


「ま、いっか。ねねキミさ、…………わたしと登録しない?」


 悪魔っ娘が提案してくる。

 おお。なんだか知らないが、かなり友好的だな。

 初めてのフレンドがこんなに可愛い娘とは、幸先いいかもしれない。


 ――ここでみんなに注意だ。相手がネカマかもしれないという心配はしない方がいい。個人が確認する方法なんてリアルで実際に会うくらいしかないんだから、せめてネット上では気にせずに夢を見ていればいいんだ。それが、いつか消えてしまう泡のように儚いものだったとしても……。


 過去の経験からこれらを学んだオレは、仮想は仮想と割り切って、ゲームで美人に遇ったら、もうその人には美人に接する態度をとる。現実のことはここでは考えないのが大事なのだよチミィ。


(あ、おkおk。登録バッチコイっす)


「うん。それじゃ申請とばすねー」


 その言葉のあとに目の前に現れたウインドウに、オレは特に気にせず【OK】を選択した。


「ありがとー」


(いえいえ、こちらこ――)


 そ、と言おうとしたオレの目の前に、新しくウインドウが現れる。

 そのウインドウに何気なく目をやった瞬間、オレは言葉を発するのをやめてしまった。




【リエルロッテさん と 『スレイヴ登録』 をしました。】


【リエルロッテさん が ンぽヘなトぷーさん の 『御主人様(マスター)』 になりました。】




 ――す、スレイヴ? ご、ごごご御主人さまぁ~~~!!?




「ぷっ……なに、この名前ぇ~www 『ンぽヘなトぷー』ってwww ぷぷぷ、言いづらwwwww」


 翼をパタパタさせて軽く浮きながら腹を抱えて爆笑する悪魔っ娘『リエルロッテ』。

 そのリアクションには反論したくてもオレもそう思うから出来ないが、もうひとつのほうには反論せにゃやってられない!


(ちょっ、あのっ、えーと……リエルロッテさん? 『スレイヴ登録』ってなんなんだよ。それに『御主人様(マスター)』って……)


 そのオレの言葉で、リエルロッテの爆笑が一転、冷笑に変わった。鋭い八重歯がキラリと光る。


「フフ、まさかねーとは思っていたけど、本当に気付かないとはねぇ。しかも『スレイヴ登録』も知らないなんて、キミ、何も聞かされてないんだね。マジ超初心者(ビギナー)w」


(な……た、確かにオレはさっき始めたばっかのビギナーだけど、そもそもGCOは全くと言っていいほど情報が公開されてねーじゃんさ!)


 説明書にはゲーム始めるまでの設定方法ぐらいしか書かれてなかったぞ。


「ホーント、何も知らないんだね。キミを誘ったヒトはきっとすっごいSだね」


(それには同意する)


 ――あれ?


 というか何故、オレが誘われてGCOを始めたってわかったんだ? 何も話していないのに。


「まあいいよ。わたしは『やさしーごしゅじんさま』だしねw ちゃんと説明してあげるよ~」


 悪魔っ娘が話し始めたことで、オレの小さな疑問は頭の隅へと追いやられた。


「ここ『パレマニナ大陸』を選択したプレイヤーたちには、フレンド登録のほかに『奴隷(スレイヴ)登録』ってのが出来るようになるの」


 全てのモンスターMOBには『使役(ユージング)ポイント』が設定されており、魔物プレイヤーは条件を満たすことで自分よりもレベルの低いモンスターMOBを、自分の『指揮官(コマンダー)ポイント』の分だけ奴隷(スレイヴ)とすることが出来る。『格』も、自分よりも低ければ低いほど従順になる。


(レベルはわかるけど、『格』って?)


「『進化回数の多さ』のことよ。たとえば進化を3回した『格3』プレイヤーなら、まったく進化していない『格0』モブをスレイヴにした場合、裏切りの心配は絶対といっていいほど無いわ」


 逆に、いくらレベルが自分よりも下でも、自分と同格や一個下のモンスターはひょんなことで裏切る可能性もあるという。


「その点、プレイヤーは良いわねーw 何もしなくても最初に契約しちゃえば裏切りの心配は無いしぃ。自分に利があるうちはちゃんと協力してくれるしぃ。そこを見極めれば問題ナッシング♪」


 先ほどのオレのように、もちろんモンスタープレイヤーもスレイヴとして登録できる。

 しかも、なんと最初の申請に【OK】してしまうと、裏切ることは出来ないらしい。

 プレイヤーは勝手に強くなるし、スレイヴにするとしても、それは魅力的だ。


 ――でも、スレイヴ持ちのモンスタープレイヤーは誰かのスレイヴにはなれない、っと。


 オレの奴隷はオレのもの、オレの奴隷の奴隷もオレのもの、というようには出来ないらしい。


(……なあ。スレイヴってなにすんの? パーティみたいなもの?)


「全然ちがうわ。わたしたちモンスタープレイヤーは、そもそもプレイヤー同士でパーティを組めないの。自分のスレイヴにしたモブとは組めるけどね」


 まじか。それは初耳だ。

 でも、よくよく考えるとそれも納得のいく話ではある。オレらモンスタープレイヤーが強くなって、迷宮のボス級になったとしよう。ボス級同士でパーティを組む。ゲームバランスが崩壊するぞオイ。


 ――まあ、かなりやってみたくはあるけど……。


「どっちかっていうと戦略SLGに近いかしら」


(へ?)


 パレマニナ大陸とダーナ大陸の境は《神壁リャントス》というエベレストによく似た灰色の険しい山脈が聳え立ち、普通には行き来出来ないようになっている。

 パレマニナ大陸からダーナ大陸に行くには、四種類の方法があるという。


「わたしはその中のひとつ、『大戦』に備えて、今スレイヴを集めているところなの」


 大戦――正確には『ダーナ大陸侵略戦』というらしい。

 5回以上進化した『格5』のモンスタープレイヤーのみが、神壁リャントスの麓にある神殿で申請と予約ができ、早くて三日後に『大戦』が出来る。

 侵略地点――最初はダーナ側のリャントス麓だけだが――を選び、次に参加スレイヴを自分の『指揮ポイント』の分だけ選択、侵略地点のバトルフィールドにスレイヴを配置する。

 戦闘開始は午後10時からと決まっている。開始1時間以内に、ダーナ陣営の守るフラッグを全て叩き折ることができれば勝利。一回勝つ毎に10%支配率が上がり、支配率100%になると、そのエリアはパレマニナ大陸の所有となり、神壁リャントスを跨いで自由に行き来できるようになる。


「ちなみに、今のわたしの格は5。ようやく大戦の申請が出来るようになったわけ。 『指揮官ポイント』は326で、キミの『使役ポイント』は……うふふ、たったの1ね」


 1て。オレどんだけ弱いんだ。


「レベルを上げればもっと『使役ポイント』は高くなるよ。進化すればもっとね」


 いよーっし、やってやるかぁ。


(――んじゃ、その大戦のときにオレは借り出されるってわけか)


「基本はそーね。あ、ちなみに強制だから。ログアウトして逃げないでね♪」


 誰が逃げるかっての。

 ネトゲの大規模戦闘はお祭りも同然。祭りは参加してこそ楽しいんだ。見てるだけなんてつまらない!


「もし冒険者プレイヤーを倒せば、かなりの経験地とかアイテムを貰えるわ。で・も、死んだらお互いに生き返りは無し。わたしはモブスレイヴをリストから失うし、冒険者プレイヤーは装備すら剥ぎ取られて下着姿でバトルフィールドからポイされちゃう。プレイヤースレイヴは普通のデスペナだけで済むんだけどね」


 ポイされた女冒険者さんを見てみたい。


「わたしが予約したのは明後日よ。それまでに、いっぱい鍛えてつよくなってね♪ キミが強くなったときのために『指揮官ポイント』は余裕を持たせておくから☆」


 タイムリミットは明後日の夜10時か。


 ――ってやべぇ! 明後日テスト返却じゃん。


 時間はそんなにかからないが、それでも十分な痛手だ。

 ウチの大学はいまだに古臭い教授が多く、デジタルデータ送信ポン、というわけにはいかないのだ。


「わたし、ホントはこの洞窟の奥に居る『オーク』のスレイヴを確保しに来たの。弱いけど使役し易くて体力もあるから、初期の壁役にするにはいい子たちなのよ♪」


 そういえば、バゲドがオークも居るとか言ってたな。オレは見てないけど。


「――と、いうわけで~、またねっ」


 尻尾をふりふりしながらフワ~と洞窟の中へ飛び立とうとするリエルロッテ。


(あ、ちょ、ちょっと待って!)


「ん?」


 これだけは聞いておかなければ。


(スレイヴ登録って破棄できないの!?)


 ずっと誰かの奴隷だなんて、そんなの困る。オレの目的は魔物たちの――――トップなんだから。


「できるよー。わたしが自分で破棄するか、それか……」


 それか?


「わたしよりも、強くなることっ♪」


(マジで!?)


「マ・ジ・で♪」


 おいおい、既に進化を5回もしてる奴を追い越せってか。




 ――フッ、いいだろう。その挑戦受けた!




 と、オレが胸に熱い決意を刻んでいる間にリエルロッテは既にこの場から離れようとしていた。


「あと~、わたしのことは~、『ロッテさま』って呼ぶように、奴隷クン! じゃあね~、バイバーイ」


 両手をメガホンのようにしてオレに呼びかける悪魔っ娘。

 その姿に多少萌えつつ、オレは透明な触手を伸ばし、ピコピコと手を振った。




   ◆◇◆




 思わぬところで思わぬ契約をしてしまった。

 流石パレマニナ大陸。友達(フレンド)登録と思いきや奴隷(スレイヴ)登録とは……アッハッハッハ。




 ――いや笑えねえよ!




 せもてもの救いは、御主人様がカワイイ悪魔っ娘だということか。ネカマかどうかは気にしない方向で。


(さてっと、意外に時間食ったな。洞窟を出て、そのあとはどうするんだろ?)


 今更だが、洞窟の外はやや樹木多めの山って感じだ。

 空は一面、分厚い黒い雲で覆われている。

 雨が降った後のように、地面にはところどころに水溜りが出来ていた。


(お、あそこに見えるはゴブリンか)


 オレの中では既に、ゴブリン=NPCという等式が出来上がっていた。

 なので、特に気負いもせずにそのゴブリンへ近づく。


(やーやー、お勤めご苦労さまですー)


 触手をぴょこんと出し、イヨゥと声をかけた。


「おーう。バゲドから話は聞いてるだ。活きのいいスライムがいるってな」


 いつ、そんなやりとりがあったのだろう。


「オラは『デゲロ』だ。これからの仕事はオラから割り振るだ。いっぱいあるでな、仕事がなぐなるっちゅー心配は、しなくてえぇべ。へへっ」


 いじめかっ。


「んじゃ、さっそく選ぶでよ」


 デゲロがそういうと、オレの正面に複数のクエストが書かれたリストウインドウが現れる。


【クエスト:黒蜜蜂の毒蜜】

【クエスト:猪豚の肉】

【クエスト:沼蛙の肝】

【クエスト:仙人へのお使い】


 今、選べるのはこの4つ。

 というか、ひとつだけ他とは全くと言って良いほど毛色の違う奴があるな。

 オレはそのクエストの説明を見た。


【クエスト:仙人へのお使い】

【概要:マルタ山の頂上に居る自称『スライム仙人』に、木の実を30個拾って届ける。】


 自称て……。


「それは一番難易度が低い仕事だなや。だが、『出歯栗鼠』には気を付けぇ? やつらが先に目を付けた木の実を採ろうとすっと、ガブリと噛み付いてきやがるでな」


 自分スライムの液体ボディなんですが、ダメージくらうのかな?


「弱いスライムは、ただの雑魚だべ」


 そーね。そーだねー。オレまだ最弱だもんねー。

 そんな弱いオレは、最低難度のこのクエを受けた。


「マルタ山っつのはこの山のことだべ。ヘンテコなスライムだから遇えばまあ分かるべや」


 こうして、オレと出歯栗鼠との『木の実争奪戦』の幕が開いた。




   ◆◇◆




 出歯栗鼠たちとの死闘は40分にも及んだ。

 やつらの噛み付き攻撃のせいで、オレの少ないHPが半分になってしまった。

 やつらは木の実に向かってちょこちょこと走っている。いくら自分の方が木の実に近くても、やつらの進行方向に落ちている木の実をゲットすると、がばっと飛び掛ってくるのだ。

 だがようやく木の実30個を手に入れ、マルタ山の頂上にたどり着くことができた。

 マルタ山の頂上付近に木々はなく、上空から見れば10円ハゲのようになっているだろう。

 木が無いかわりに大小の岩がそこらじゅうに転がっており、その中でもひときわ大きい岩の上に、そいつはでんと居た。


 ――こ、こいつが……『スライム仙人』……!


 仙人を自称するだけの風格はある。

 なぜなら、そのスライムにはもっさりとした『白いヒゲ』が蓄えられていたからだ。

 顔がどこかも分からないスライムにヒゲだぞ? そりゃもう、色んな意味で只者ではないだろう。


(ふぉっふぉっ。此処に同族が来るのは久しいのぉ)


 ヒゲを震わせながら笑うスライム仙人。

 怪しさ爆発だが、とりあえずクエストを達成しちまおう。


(おーい。木の実持ってきたんだけどー)


(ほう、ようやく来たか。よっこいしょっと)


 仙人は大岩からすべり降りてきた。


【木の実 ×30 を スライム仙人 に 渡しますか?】


 すごく【NO】を押したい衝動に駆られたが、なんとか【YES】を選択する。


(うむ、確かに受け取ったぞい)


 クエスト達成だ。早くデゲロに報告に行こう。


(……ところでお主)


 と思ったら仙人が声をかけてきた。


(その半分にまで減ったHP……もしや、出歯栗鼠ごときに苦戦したのではあるまいな?)


 ぬぬ、出歯栗鼠ごときだとぉ? あいつら動きは速いわ攻撃はしてくるわでかなりの強敵だぞ?

 だが、なめるなよ! こう見えても『土喰い鼠』のときの方法で2匹も仕留めてやったわ! わはは!


(弱いのう、お主。だがまあ木の実を届けてくれた恩もある。お主が望むなら、わしが修行をつけてやってもよいぞ)


 ――修行、だと?


(ふぉっふぉっ。新たな技、欲しくはないか……?)


 なんとこのスライム仙人、スキルを教えてくれるNPCだったのか!

 スキルが増えれば、もっとクエストの効率も上がって早くレベルアップも出来るに違いない。


(じいさん! いや師匠! オレに、スキルを教えてくれ!)


 スライム仙人は重々しく頷いた。


 ……ように見えた。












(よいか。今のお主が習得できる技は2つじゃ)


 今のオレのステータスでは、ってことか。もっとレベルを上げればスキルも更に習得できるってわけだな!


(わしがお主に教える技は……)


 やばいよ。今から強くなったときのことを思うと、妄想がとまらない!






(――その名も、『しょうべん』と『だえき』じゃ!!)






 そう、『しょうべん』と『だえき』を駆使してオレは並み居る冒険者プレイヤーを千切っては投げ千切っては投げ――――って、オイィィィ!!!


(思わずその光景を思い浮かべちまったってばよっ!!!)




   ◆◇◆




 それから数分を要し、なんとかオレは落ち着いた。


(で? 教えを請うのか、それとも止めるのかの?)


 ちなみにこの質問をされるのは4回目である。なんともマイペースな仙人だ。


 ――う~ん。


 スキルは欲しい。強くなるには必須だろう。他にもスキルを教えてくれるところは」あるだろうけど、その場所を見つけるまで無スキルというのは避けたい。

 でも『しょうべん』と『だえき』て……。本当に、ここは悩みどころだ。


(……………………よし。決めた!)










(では、これより《戦闘》系スキル『だえき』習得の修行を行う……!)


(……おぉー)


 どっちかを選べと言われたら、まあこっちですよ。

 スキルはあった方が良い。でもスキル名がビミョー。だけどやっぱりあったほうが良い。

 なので、スキル『だえき』にしてみました。

 いったいどんな習得方法なのやら。


(では、わしの動きを真似、わしのあとにつづくのじゃ)


(へ?)


 言うが早いかスライム仙人はさっそく動き出した。


(うぅぅっぴらっぱ、んがーんごーぅえぇ~~ぃ!!)


 ――えぇぇぇぇ……。


 なにそれ。

 スライム仙人はにょきにょきっと二本の触手を体から生やし、それを両手のようにして何度も万歳を繰り返す不思議な踊りをしながら、円を描くようにぐるぐると回っている。

 そしてこの奇声。親父のいびきのほうがまだましだぞ……。


(ん? どうしたのじゃ? はよぅ、わしのマネをして神に祈らんか)


 神への祈りだったのか。

 つか、神ってあの女神さん?

 なるほど、確かに邪神への儀式っぽかった。流石パレマニナ大陸。


(ほれ、もう一度じゃ)


 と、現実逃避していたら呼び戻された。


 ――え、まじでこれ、やるんすか……?
























(ぷるるるれるろぉぉ~、ぱれろ~かぎゅをぉぉ~、ずわれるにぃぃ~、ばっへだまんべぇぇ~~!!!)


(なぁぁぁああぁぁぁぁ、ぎゃんばぁぁ、わなびっ……ちわわぁ~)


(ぼんびーぼんびーぼんびーぼんびーぼんびーぼんびーぼんびーぼんびーぼんびー)





 やりました。

 オレの中の何かが壊れた気がする。




【スキル『打液』を習得しました。】




 え。


 え?


 えええええええ!?







/////////////////////////////////////////////////////



PC名:ンぽヘなトぷー Lv.2

種族:スライム

職種:里山スライム

マスター:リエルロッテ

備考:リエルロッテの奴隷


-装備-

頭  :不可

右手 :不可

左手 :不可

上半身:不可

下半身:不可

靴  :不可

装飾品:不可


-習得スキル-

戦闘:『打液』

魔法:無し

技術:無し

特殊:『吸水』『沈体』『卑弱』



PC名:リエルロッテ Lv.??

種族:タイニーデーモン

職種:百人長

備考:ンぽヘなトぷーの御主人様

スライム、というか下位モンスター全ての初期スキルに『卑弱』を追加しました。


卑弱(ヒジャク)』:下位魔物常備スキル。成長してもステータスが上がりにくい。進化すると消える。

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