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パレマニナ大陸Side 2.コントロール

 2123年8月22日(水)22:07


(ど~しましょっかね~……)


 ランダム種族設定で、あろうことか『スライム』になってしまったオレ――三島練助。

 オレは今、とても困っている。


 ムネ先輩からパレマニナ大陸での魔物の身体の操作の難しさは聞いていたのだが、軟体であるスライムの操作性の困難さは想像以上だった。

 通常、人間型以外を仮想体(アバター)とさせた場合、人間の動きと非人間型アバターの動きは、ほぼリンクさせてあるはずなのだ。普通に現実で歩くのをイメージして体を動かせばアバターは前進するし、膝を曲げて跳ぶイメージをすれば例え軟体のアバターでもジャンプする。

これは数あるVRMMOで、ある程度統一された認識だったはずだ。


 なのに――


(ただ移動するだけのが『匍匐前進(ほふくぜんしん)』て、どういうことだぁ~~!!)


 いや、匍匐前進よりも酷い。芋虫みたいに体を前に伸ばして、下半身を引っ張るという……。

 スライムには骨格が無い。腕も無ければ足も無い。べたっと地面を這うしかない。更には顔すら無いから、言葉を喋ることも出来ないようになっているようだ。


 ――凝り過ぎだよ、開発者さん……。


 とりあえず嘆いても仕方ないので、洞窟の先へ進んでみる。

 ここでキャラクター削除するのはオレのクソゲー好きの矜持に反するからだ。






 オレが現れたのは、洞窟の行き止まりになっている場所だった。

 どうやら一本道のようなので、えっちらおっちらと暗闇の続く方へ向かう。


(ひっひっふー、ふっふっひー)


 ほうほうの体でやっとこさ広い空間になっている場所に到着。

 所々に点在する松明に鈍く照らされて見えたのは、廃坑の作業場のような広場だった。


(うわっ! モンスター!?)


 よく見るまでも無く、広場には無数のモンスター。

 スライムやゴブリンぽいのが居た。


(くっ、襲われ――……無い? あ、そっか。今はオレもモンスターだった……)


 目の前を通り過ぎるゴブリンに身構えるも、今の自分の姿、そしてパレマニナ大陸のことを思い出し、構えを解く。


 ――パレマニナ大陸じゃ、モンスターがNPCということなのか?


 それとも、この中にプレイヤーも居るのか? オレ以外にスライムになった奴がいるのか?

 モンスターたちにそれぞれカーソルを当ててみると、頭上に緑色の◆印マーカーが確認できた。たぶんNPCの証だ。


「ん? 新入りぎゃ?」


 ふいに、一匹のゴブリンがギギッと喉を鳴らしながらこちらを向いた。

 地面に伏せったような視点のオレからは見上げる形となるが、ゴブリンの身長は小学校低学年くらいしかなさそうだ。ギョロッとした大きい目に深緑色の肌。皮の腰巻のみの服装に、右手には歪で短い棍棒を持っていた。

 マーカーは金色。イベントNPCのようだ。


「俺ちゃんはバゲド。おまえら鉱山スライムの監督をしているんば」


 鉱山スライムって何? 鉱山奴隷みたいなもの?

 でも、このゲル状の体じゃ、掘った土を運び出すことも出来ないんじゃ……?


「此処は『マナライト』っつう魔鉱石の採掘場じゃん。奥の方じゃ、オークの豚野郎どもがあくせく掘り続けているっぺ」


 わざわざ説明してくれるバゲドという名のゴブリン。

 しかし、語尾が統一していないのはなんなのだろう。

『マナライト』ってのが何なのかは解らないが、雰囲気を察するに、何かのレア素材なのではないだろうか。


「おまえ仕事は、この採掘場の至る所に居る『土喰い鼠』を捕まえることだ。あの鼠どもは土を喰い、泥を排泄するっしょ。泥は踏ん張りがきかないし、最悪、鉱山崩れも起こす可能性があるパカ。他の奴らも定期的に捕まえてはいるが、いつの間にか何処かから湧いてきやがるコンチキショウ。――とりあえず、『10匹』捕まえたら報告してこいコラ」


 バゲドが話し終わると、ピコンと視界斜め左上にメッセージが表示された。


【クエストが発生しました。】

【強制クエスト:発掘場の鼠取り】


 初っ端で強制……てことは、これはチュートリアル的なクエストってことか?

 まあ、こんな操作の難しいスライムなんだ。専用チュートリアルがあってもおかしくはない。


(そうと決まれば、そのネズミを探さなくちゃな)


 オレは体を引き摺りながら洞窟内を回った。




   ◆◇◆




(はっ!)


 ――ひょいっ。




(おら!)


 ――ひょいひょいっ。




(…………)


 あの、ゲームバランスおかしいですよ?

 このスライムボデーの動く速度と、『土喰い鼠』の回避速度が違いすぎる!

 っていうかね! この体が遅すぎる! ナメクジVSゴキブ~リなイメージよ!?


『腕を伸ばす』イメージ――VRでいう『イメージ』とは体をそのように動かすという電気信号を脳から発することを言う、つまり現実世界で実際に体を動かそうとする意味の言――をすると、スライムボディーの一部が触手のようにニュッと伸び出る。その透明な触手でネズミを捕らえようとしているのだが、弄ばれるようにひょひょいと逃げられる。

 この触手ってのがまた遅いのだ。ネズミはオレに物凄く近いところまで接近してくる。なのに、捕まえられない。こちらとしてはパンチ並みの速度で腕を突き出しているつもりなのだが、突き出した自分の腕のイメージに遅れて透明触手が伸びてくるという感じ。絶望的に速度が足りてない。


(ふ、ふふふ、ふっふっふ)


 ――こんな無理ゲー……久しぶりっ!


 ちょっとテンション上がって来た。最近は攻略方法が解りきってるぬるゲーばっかだったからな。ショウの奴からしてみればこういうのMの領域とか言って来るが、人生(ゲーム)は山あり谷ありの方が断然面白い! ……あくまでもゲームオンリーだけど。


(だけど、このままやっても無理ゲーなのは変わらない)


 このスライムボディは思うように動かない。それはステータスがまだ低いってのもあるけど、そもそも敵を倒せないとレベルも上がらないわけで。


 ――ネズミよネズミ。あなたを捕まえる方法は何?


 さて、こういう場合は焦らずに視野を広げるが吉。

 ほら、ヒントってのは意外に近くにあるもんだ。


(NPCのようだが、オレみたいな鉱山スライムは周りに何匹か居る……)


 そいつらもきっとネズミ捕りをしている。何でも教えてくれる優しいチュートリアルの正反対、他のスライムを見て盗めってか。

 他のNPC鉱山スライムもオレ同様に動きは遅い。これで素早いネズミを捕まえてるのなら、何かカラクリがあるはずだ。


 そう思って暫し観察。


 そして気付く。ある特定の条件下では、あのスローなスライムボディでもネズミの動きに負けないほどの速さを出せることに。


 ――なる、ほどね。


 方法は分かった。早速実戦だ。






(ふんにゅぅぅう~~~っっ!!)


 精一杯、というように真上に向かって両腕を突き出して背伸びのイメージ。

 液体は下に落ちるが理。粘液も同じだ。それに反して上に伸ばす。

 例えるならば餅。お雑煮に入っている大きな餅を食べるために箸で上にぐにょ~んと伸ばす。

 それを餅自身がしている感じか。オレ=スライム=餅。

 この上に伸びきった状態を保つのが結構つらい。

 気を抜くとすぐさまぐでぇ~っとドロドロ状態に逆戻りだ。

 常に両腕を上を伸ばし続けるイメージをし続けなければいけない。


(はよ……はよネズミ来いィ~)


 と懇願していたら、待望のネズミ様が警戒心薄く近付いて来る。


 さあ、さあさあ! 苦しゅうない、もっと近ぉ寄れ。苦しまずに楽にしてやんよォ……!


 オレは苦しい体勢をなんとか保ちつつ『その時』を待つ。

 まだだ。まだ早い。もっと傍に来た時じゃないと――。


(3……2……1っ、今だ!!)


 限りなくオレの体に近付いた20センチほどの黒いネズミ。

 そのネズミに向かってオレは倒れた。

 今まで重力に逆らっていた液体ボディを、今度は重力に素直に従い、そのまま勢い良く地面に己の体 を叩き付ける。もともと液体ってのは上から下に落ちるものだ。重力加速度は全て一緒。どんなに動きが遅かろうが、落ちる速度は一定。むしろ力の入れ方によってはより加速することも可能だ。




 ビッシャァアンッッ!!




 ちゅぅ、と一鳴きしてオレの液体ボディの中に囚われるネズミ。


(いよっしゃ! ……お前はもう、逃がさない……)


 と思ったら体内のネズミが消えた。えっ、と思うと同時に視界にメッセージが現れる。


【残り あと9匹】


 あと9回かぁ。正直キツイ。というか時間がかかり過ぎる。

 普通のMMOとは根本からして違うようだ。なんというか、プレイヤーに優しく無い仕様というか。

 オレは気合を入れ直し、再び頭上に向かって体を伸ばした。




   ◆◇◆




【クエストを達成しました。】


 そのアナウンスメッセージは表示されたのは、約一時間後のことだった。

 ちなみに捕獲しようとあの方法をしたのは9回じゃききませんでした。一番最初は運が良かったってことに気付いたのは液体ボディプレスが2ケタを超えたあたりから。


 チュートリアルクエで1時間かかるMMOってどんだけぇ、と思いながらもオレはようやくクリアした。


「よくやったど。お前の捕った『土喰い鼠』はオーク共の食糧になるけんのぉ」


 あれを食うのか。オークになったプレイヤーさん乙。

 と、突然オレの身体が光り輝く。


【レベルUP】


 おおう、ネズミ10匹捕まえただけでレベルが上がったことに喜べばいいのか、それとも一時間も経ってレベルが1しか上がらなかったことに嘆けばいいのか。


「おまえは中々に見どころがあるスライムやな。そういう奴は『外』で、もっと大きな獲物を捕らせる。お前が望むなら、この坑道から出てもう少し割りの良い仕事を回してやることもできるぎゃ」


 ――それとも、此処に残ってネズミを捕って、もう少しレベルアップをするか……か。


 多分だけど、この坑道の『外』での仕事ってのはもっとキツイものなんだろう。

 普通じゃない。普通のRPGじゃない。『モンスターを倒すカッコイイ自分』をロール出来ない。

 地面に這い蹲り、泥水を啜って、自分に出来ることをしていく。そこに選択肢はない。


(今はまだ、弱いから……)


 自由性は限りなく無い。なのに、オレはどうしようもなく燃えていた。


 ――やって、やろうじゃないか……!


 スライムから始まるサクセスストーリーにしてやんよ!


 オレは【YES】を選択し、次なるステージに向かうことにした。








PC名:ンぽヘなトぷー Lv.2

種族:スライム

職種:鉱山スライム


-装備-

頭  :不可

右手 :不可

左手 :不可

上半身:不可

下半身:不可

靴  :不可

装飾品:不可


-習得スキル-

戦闘:無し

魔法:無し

技術:無し

特殊:『吸水』『沈体』『卑弱』

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