ダーナ大陸Side 2.初級スキル習得
2123年8月22日(水)22:07
GCOを開始して、一番最初に拠点とする村――マトペリ村に転送された俺は、「これぞMMOの空気!」というものを感じていた。
エリア|松五郎 :募集! 壁1 火力2 犬子鬼の洞窟 レベ15以上 wisよろ
エリア|ピコタン :『滅火の宝玉』売って下さい! 値段は要相談です
エリア|ばるかんエース:『大蛇の牙柄』6k @4 マレロバの村で露店してま~す
エリア|飛燕 :もしもーし 今ヒマー?
エリア|飛燕 :誤爆ですww
エリア|Axel :募集します 前衛2人 針葉流れの滝 Lv20以上 よろしくです^^
エリア|ベルゼぶぶー :騎士見習いクエ 一緒にやりませんか? @2人
エリア|リリカルなのよ:クラン『◇白銀†騎士団◇』では初心者を歓迎しています 体験入団も出来るので興味のある人はご連絡くださいm(_ _)m
エリア|間人ぷぅ :募集 古骨遺跡 〆ます エリア失礼しましたー
視界の斜め下にあるチャットウインドウに、どんどんログが流れていく。
これはVRMMO共通システム、エリア別チャット機能だ。
ネトゲが画面を見る時代から、仮想世界を見る時代へとシフトしても、チャット機能は無くならなかった。
画面を見る時代では、チャットで会話をすること多かった。しかし、現在では普通に音声での会話が出来るためチャットの必要性は少なくなったと思われたが、さっきのように、今では速報や簡単なメール代わりに使われている。
GCOではまだ解らないが、大体のネトゲでは課金アイテムかクエストアイテムを使うことで『エリアチャット』が出来るようになる。
ネトゲによってチャットの範囲は違うが、恐らくGCOでは各種族圏を一エリアと見なしているのではないだろうか。
「うっはー」
俺はチャットウインドウから目を離し、改めてマトペリ村の大通りを見た。
様々な恰好をしたプレイヤーたちで賑わい、NPCの店員が呼び込みをしている。
――んと、これからどうするんだろ?
普通ならこれからを説明してくれるNPCが居ると思うんだが。
「……あ」
通り過ぎた入り口のところに村人A的なおっさんNPCが立っている。その頭上には金色に輝くマーカー……イベントNPCの印のようだ。
「ちわー」
俺はそのNPCのおっさんに話かけた。
「ようこそ。ここはマトペリ村だよ」
「うん。知ってる」
「私の名前はウルガード。道先案内人のようなものだ」
「ようなものって……」
「君がこれからどのような道を進むのかは分からないが、私の知ってる限りでサポートをしよう」
「当然、無償ですよね?」
「まず、この村には3つの重要な施設がある。一つは『冒険者ギルド』。ここで冒険者に登録すれば、ギルドでクエストを受けられる。クエストを達成すれば報酬も貰える。今後、君が最もお世話になる施設となるだろう」
そうだな。登録しなければクエストを受けられないなら、初めに登録はしておくべきか。
「二つ目は『教会』。一日一回、光の女神様より神託を授かることが出来る。女神様の仰られた入手困難なアイテムを、神託を聞いてから3時間以内に教会の台座に納めると、特殊なアイテムやスキルを手に入れることが出来るそうだ」
――ほう。それは面白そうだな。
でもそれだと、そのアイテムを求めてトラブルが起こりそう。主に売り買いとかで。
「ああそうだ。納めるアイテムは全て『譲渡不可アイテム』なので、自分の力で手に入れなくてはならないぞ」
「うまくできてますねー」
そういう金稼ぎは出来ないらしい。
「最後の三つ目は、『修練所』だ。初級のスキルのいくつかをここで教えてくれる。初級とはいえ、今の君にとっては十分に役に立つものだろう」
「まったくです」
スキルが一つも無い現状はすぐにでも脱したいところだ。
それに、あのあとの先輩の話から考えるに、GCOのスキルシステムに何かありそうだ。他のゲームとは、異なる点が。
「今言った3つ以外にも、武器屋や防具屋、道具屋、貸し金庫屋、食事処など、役に立つ店は一通り揃っている。まずは村を回り、準備を整えるのが最優先だよ」
まあ、RPGの基本ですね。
「私はいつもここに居る。また何か聞きたいことがあったら、話しかけてきてくれ」
そしてニッコリと笑ったおっさんは、次の瞬間、俺から視線を外し、虚空を見ながら口笛を吹いていた。
「……あの」
その姿に哀愁を感じてしまった俺は、何故かもう一度おっさんに話しかけた。
「ん? 何か聞きたいことでもあるのかい?」
「え、えーと……他に役に立つ情報ってありますか?」
「『役立つ情報』…………」
検索中です……検索中です……というアナウンスが聞こえてきそうなおっさんの顔。
「そうだね。システムメニューでマップを開くと、この村の地図が表示されるんだけど、実はこの地図の表記は全ての施設にマーカーが付いているわけではないんだ。つまり、地図に記された施設以外にも施設があるかもしれない。それを探してみるのも良いと思うよ」
ふむむ。ということは、今現在表示されてはいないけど、隠された名店があるかもしれないということか。
「ありがとう。おっさん」
「私はおっさんではない」
「…………え?」
「では、また何か聞きたいことがあったら、話しかけてきてくれ」
「……」
◆◇◆
「さ、さってとー」
色々あったが、ようやくスタートだ。
まずは『修練所』で、スキルを得るのが先だな。
俺はマップを確認し、村の西側にある『修練場』に向かった。
「ここは『修練所』だ。今日はどんな用向きだ?」
木造二階建ての奥行の広い建物の中に入ると、カウンターの向こうに立っている歴戦の戦士然としたヒゲ親父に話かけられた。
――どうでもいいが、さっきからおっさんばっかじゃね? 綺麗なお姉さんとかにしてよと言いたい。
「スキルを習得しにきたんですけど」
「じゃあスキルの種類を選んでくれ。ここでは《戦闘》、《魔法》の初級スキルを教えている」
「《戦闘》と《魔法》の両方のスキルを習得することは可能ですか?」
「可能だ。時間はかかるがな」
「そっか……じゃあまずは《戦闘》からで」
「それなら向かって右端の扉に進め。中に指導官がいる」
俺はヒゲ親父の指さす扉の中に入っていった。
◆◇◆
「ふんっ! やっ! てりゃっ!」
部屋の中は、テニスコートくらいの広さがあった。芝生の地面には何本かの丸太が刺さっている。
「せいっ! せいやっ! とりゃさっ!」
部屋の中に居た指導官からは、レベル1のステータスで覚えられる戦闘系スキル『閃過』の習得方法を教えてもらった。
スキルを習得するには、そのスキルを使えるだけのステータスを持っていることが前提で、そのうえでスキル毎に違う習得方法をこなすと、そのスキルを習得することが出来る。
今回の『閃過』の習得方法は、この部屋の床に刺さっている丸太を木刀で思いっきり100回叩くことだ。軽くコンコンと叩いただけでは駄目らしい。
「87! 88! 89!」
にしても、一番最初に覚えるスキルでこんなに手間がかかるなら、もっと上級のスキルはどれだけ面倒くさいのか。
「98! 99! 100! っと」
修練用に借りた木刀を丸太に100回叩きつけた瞬間、パララパッパラー! と効果音が鳴った。……意外とショボイ効果音だな。
【スキル『閃過』を習得しました。】
「『閃過』は、通常攻撃の速度を2秒間だけ1.5倍にしてくれるスキルです。攻撃速度はダメージ量にも深く関係してきますので、かなり重要なスキルと言っていいでしょう。慣れれば、2秒の間に複数回攻撃をすることも出来るかもしれません」
へえ。単純な攻撃力増加じゃなくて、速度を上げることで攻撃力も高めるスキルか。
俺はさっそく試してようと、丸太の前で木刀を構える。
「……ってあれ?」
そういえば、このゲームのスキル発動ってどうやるんだ?
決められたプレモーションをしたり、ショートカットボタンを押したりと、そのゲーム毎に発動方法は違う。
俺は指導官に訊いてみた。
「【天位の書】のスキル設定で『オリジナルプレモーション』を設定できます」
その言葉でさっそくシステムウインドウを立ち上げる。
スキル画面では、覚えたての『閃過』がひとつだけ表示されていた。
『閃過』発動条件を選択。どうやら『音声発動』『初動作発動』『ショートカットボタン発動』のどれかを選び、それぞれ設定するようだ。
――少しめんどくさいな。
と思いつつも設定する。
設定しながら、こんなにも面倒なことをする理由についても考えていた。
――たぶん、これはPvPのための仕様なのだろう。
GCOのグランドクエストは敵対する大陸の侵略。それは必然的にPvP必須ということになる。
簡易AIで動くモブならともかく、同じプレイヤー同士の戦いで、発動方法が定められているスキルを使うのは、テレフォンパンチをするようなものだ。
だからこそ、個々人で発動条件の設定を行うということなのではないかと推測。戦いをより複雑化させるために。
「よし、設定完了」
さて、ものは試し。『閃過』を発動だ。
「ふぅー……、ハッ!」
スキル発動と同時に木刀を振り下ろす。
ヒュッ――ズパァァン!!
『閃過』の効果で速度の増した振り下ろしは、丸太に勢い良くぶつかってそのまま振り切った。
「く、つぁ、これは……結構ムズいや」
このスキルは本当にただ『速度が上昇』するだけなんだ。今までプレイしたVRゲームのようなシステム上のモーションアシストは無い。急激に加速された攻撃は、そのまま武器を振り抜くだけなら問題はないが、加速中の2秒の間にもう一度攻撃をするには、加速している体をちゃんとに制御しなければいけない。
攻撃を加速させるっていうのは、全身を加速させると同義。アシストが無いってことは、狙いも次の手も自分の身体操作の腕にかかってくるということだ。
「思ったよりも難しそうだな」
もしかしたら、これが先輩の言っていた『MMOに慣れしんだ俺らでも梃子摺るかもしれない点』なのかもしれない。
既存のVRゲームでは、どれもモーションアシストは基本的に存在していた。それが無ければ、本来普通の一般人なんか、リアライズされたモンスターとなんてまともに戦うことも出来ないだろう。
――もしGCOが、ゲームシステム上のモーションアシストが全くないゲームなのだとしたら。
確かに今までとは勝手が違うかもしれない。
「はは」
でも、もうちょっとでコツを掴めそうな気がする。これでも要領は良い方だ。周りからは器用貧乏と呼ばれるが……。
もう少し練習すれば2回、いや3回ぐらいは加速中に攻撃できるかも。
――まあ、それは実際にモンスターと戦いながら練習するとして。
今はこの『修練所』で出来るだけスキルを習得するほうが先決だな。
俺は次なるスキルを求めて指導官に話しかけた。
◆◇◆
「……ぬう。けっこう時間がかかったな」
現在習得できる《戦闘》スキルをそれぞれ習得していたら、気が付けば深夜0時に差し掛かろうとしていた。RPGを始めて2時間近く経ったというのに未だモンスターとも戦えていないとは。
――先輩がGCOを『めちゃめちゃ凝ったやり込みゲー』と評すわけだな。
しかし時間をかけただけあって、スキルもいくつか習得したし、ステータスも上昇した。
長時間、木刀を振り回したり、指導官の攻撃を避けたりして動き回っていたせいか、『筋力』、『体力』、『敏捷』の値がピコリンピコリンと上がっていったのだ。かけた時間は無駄じゃない。
「んじゃ、お次はどうするかなっと」
《戦闘》系のスキルは全て習得したわけではない。ステータスが足りなくて習得条件を満たしていないものもあった。レベルを上げて再挑戦しなければ。
「そうと決まれば…………って、あ」
とりあえず次は冒険者ギルドに行って登録。ついでに手ごろなクエストを見て、それからマトペリ村の外で一狩りしよう。
そう思って『修練所』の中央カウンターを通り過ぎようとした俺の目に付いたのは、《魔法》スキルの指導官がいるという部屋だった。
――魔法か……。既に近接攻撃系なステ振りになってるっぽいけど、ちょっと見てみようかな?
最近、ミリタリーなFTSばっかだったし、ファンタジーなものにもっと触れたいお年頃なのです。
「む……この場に来たということは、魔法の習得を希望する者か……?」
抹茶色のローブに三角帽、右手に長い杖。これぞ魔法使い! というようなじいさんが現れた。
このじいさんが指導官か。
「あーとぉ……うっ。は、はい。魔法のスキルを習得しにきました」
やべえ、すげえ眼光だ。思わず敬語になっちまった。
「ふむ……」
じろりと俺の全身を見まわすじいさん。
だから眼つき悪いって。
「……出なおして来るがよい」
「は?」
な、なんだ?
「まだ、お主の力では魔法を習得することは出来ぬ」
「え……な、なら、どうすれば……?」
初っ端からステータス不足? やっぱレベルを上げてこないとダメってことなのか?
「習得条件が最も容易い魔法でも『知識』が8以上必要じゃ。『知識』を高めたいのなら、『修練所』の待合室にある『書籍』を読めば必要条件を満たせるじゃろう。もし、それ以上の知識を求めるのであれば、隣街『ブリュンデラ』の図書館に更なる『書籍』がある。あの場所ならきっと、お主の知的探究心を満たしてくれるじゃろう」
――なるほど。『書籍』を読めば『知識』ステータスが上昇するのか。
ステータスはレベルアップ前に出来るだけ高めておいた方が後々良いだろう。
しかも、このGCOでは必要ステータスさえ有れば、職種関係なくスキルを使えるみたいだ。近接系のスキルだけじゃなく、遠距離系のスキルも覚えておいて損は無い。
――いやむしろ、剣も魔法も使えた方が『勇者』って感じがするよなっ。
練助の奴は『魔王』への道をちゃんと進めているんだろうか、などと考えながら、俺は『修練所』の待合室に向かった。
◆◇◆
【――このように、スキルとは決してシステム任せな技ではありません。プレイヤー自身のアバター制御能力、咄嗟の判断力、なにより日頃の積み重ねが物を言います。昨日今日覚えたばかりの強力なスキルよりも、ずっと使い続けてきた初級スキルの方が、得てしてここぞという場面で重宝するものです。】
待合室に3冊あった『書籍』の最後の一冊。
『はじめてのスキル ~スキル使用時の心構え~』を読んでいた。
だが読んでいるというよりは、聞いていると言った方がいい。落ち着いた男性の声で朗読するのを、起きたまま最後まで清聴するのだ。
パラッパラッというページを自動でめくる音と、淡々とした口調の朗読は、システム的にそんな効果は無いものの、強力な『催眠』効果を与えてくる気がする。
鋼の意志で2冊を読み終え、3冊目もようやく終わりが見えてきた。
【スキルには、それぞれ『熟練度』があります。使用すればするほど、そのスキルに身体が慣れていき、スキル効果が上昇します。『熟練度』を上げることにより、覚えたばかりの頃とは比較にならないほどの利便性を得ることも可能となるでしょう。】
――あと……1ページぃ……。
【最後に、繰り返しになりますがスキルで一番重要なのは、日頃の積み重ねです。積み重ねは『熟練度』となり、スキルの性能を上げてくれることは勿論、何よりもプレイヤー自身の体に、そのスキルの最適化された使い方を染みつけてくれるのです。】
その言葉を最後に、目の前で宙に浮かんでいた『はじめてのスキル ~スキル使用時の心構え~』は閉ざされ、俺が着いている机の上にポトンと落ちた。
「お、終わったー!」
思わずグッと伸びをした俺の視界に、ピコリンとステータス上昇の表示が浮かんで来た。
【知識+1】
――ぃよし! これであのじいさんの言っていた『知識:8』の条件はクリアだ!
初期ステータスでは『知識:5』だった。『書籍』を一つ読み終わるたびに『+1』されたのだ。
「これで魔法スキルが習得できるな」
時間にすれば、たったの15分ちょい。一冊5分しかかかっていなかった。しかし、この分じゃ他にも色々と『書籍』があるみたいだし、それら全てを合わせたら一体どれだけの時間を費やせばいいのか。
「……ま、とりあえずは初級の魔法スキルを習得してみますかね」
俺は、さっきのじいさんが居た部屋に入っていった。
「うむ。初級魔法スキルの習得条件は満たしておるようじゃの。……よかろう、お主には魔法スキル『焔の緋玉』を伝授しよう」
魔法スキルの取得方法は比較的難しくは無い。渡された魔導書に書かれた呪文を、一字一句違わず詠唱すること。これは全ての魔法スキル共通らしい。
「では、あの藁人形に向けて放ってみるのじゃ」
――えーと……こほん。では行きます。
「か、『篝火を灯せ、微風と遊べ、揺らぎ光るは燠火の煌き、貫き焦がすは決意の炎、我が命に集いて仇を撃て……《焔の緋玉》!』」
何度か心の中で練習をしてから、たどたどしくもつっかえずに言い切ると、正面に掲げた右手の前に、ボウッと炎が四方から収束して火の玉状になった。
そして、ゴオオオオッというサウンドを響かせて飛び出し、藁人形に目がけて直進。10メートルは離れていた目標に1秒足らずで近付き、爆発音と共にヒットした。
あとに残るは所々燃えている黒焦げになった藁人形。がしかし、すぐさまポリゴンの欠片となって散っていった。
【スキル『焔の緋玉』を習得しました。】
【知恵+1】
【精神+1】
お、『知恵』ステータスも上がった。
――なるほど。
『書籍』を読んで『知識』を増やし、『魔法スキル』を実践することによって『知恵』を得るのか。
「この場所で教えられる魔法スキルは、あと2つじゃ。それぞれ習得条件として、『知識:10』、『知識:12 知恵:10』が必要じゃ。条件を満たすことが出来たのならば、再び此処を訪れるがよい……」
◆◇◆
「次は冒険者ギルドか」
冒険者登録して、この村周辺の殲滅系クエストでも受けて、さっき覚えたスキルを試してみましょうかね。
「あ」
そう言えば、俺って初期装備のままだった。
これから狩りに行くんだし、初期配布金ほとんど使ってでも、良い武器にしたほうがいいかな。
俺はマップを開き、武器屋を探して大通りを歩き出した。
PC名:アローネス Lv.1
種族:人間
職種:旅人
-装備-
頭 :無し
右手 :ビギナーズ・ウッドソード
左手 :無し
上半身:布の服(上)
下半身:布の服(下)
靴 :皮の靴
装飾品:無し
-習得スキル-
戦闘:『閃過』『歪傷』『響打』『噴脚』
魔法:『焔の緋玉』
技術:無し