錬助Side 1.ランダムスタート
2123年8月22日(水)22:00
ムネ先輩からGCOを買い取ったその日の夜。
オレは幼馴染のショウと同時にGCOをプレイすべくダイブした。
【所属する大陸を選択してください。】
機械的な女性のアナウンス。
確か『オリビアの泉』という番組で、この声の女性の名前は『橋場知美』だと言っていた(どうでもいい)。
しかし、訊かれるまでも無く既にそんなの決まってる! クソゲー上等! 無理ゲー上等ォ!
オレは《パレマニナ大陸》をすかさず選択。黒い扉の中に吸い込まれる。
――あ~れ~……。
次なるステージは真っ黒な部屋だった。
【種族を選択して下さい。】
メッセージと共に選べる種族の一覧が表示される。
えーと……ゴブリン、コボルト、ウルフ、インプ、食人花……etc……。
なんだこれ、めちゃめちゃあるな。全てが色々なRPGで有名な雑魚モンスターたちだ。
ホントにパレマニナ大陸じゃ、プレイヤーは魔物となって冒険していかなきゃいけないってことか。
しかし、どうするか。オレの目標は《魔王》だ。都市伝説レベルの噂らしいが、オレはなれると信じている。
とすると、魔王になるのに一番近そうな奴を選ぶのが良いのではないか。
――どれだよ……。
すみません、解りません。どうしようもありません。
そもそもなれるかどうかすらも解らないのに、魔王に近いモンスターなんて解るかよ。
――いや、待てよ?
もしも魔王になれるのだとしたら、初期に選択できる全ての魔物に可能性があるのではないか。だとしたらどれを選んでも同じなんじゃ……。
うーん、あれこれと考えるのは苦手だ。ここはイッパツ運だめし!
オレは【ランダム設定】を選択し、次の工程に行った。
【この名前は既に使われています。】
――な、なにぃ~~~!?
種族設定を終えたオレは、そのままキャラクター設定に移っていた。
とは言っても姿はランダムで定められたモンスターだ(ランダム設定だとゲームを始めるまでどんなモンスターかは解らないようだ)。なので決めるのは性別、年齢、そしてキャラクターネーム。
登録アバターでほとんど決まっているから、それをキャラ設定で反映させるだけ。
オレの登録アバターの名前は《ウェイク》。GCOでもこの名前でいこうと思っていた。
なのに、使われている……だとっ!?
仕方なく手元の現れたキーボードで新たな名前を入力する。
【オルファング】っと。
ふむ。適当に考えた名前だが、結構カッコイイんじゃね?
決定ボタンを押してシステムの反応を待――
【この名前は既に使われています。】
うおい。
またですか。
オレはもう一度名前を入力して決定ボタンを押す。
【サタン】【この名前は既に使われています。】
……くっ、ま、まあしょうがないな、これは。
【ベルゼぶぶー】【この名前は既に使われています。】
……ぬう。
【風間の小次郎】【この名前は既に使われています。】
……なんとっ。
【†漆黒の堕天使†】【この名前は既に使われています。】
……これも、なのか。
【金太】【この名前は既に使われています。】
……大冒険っ!
【ピポリタンX】【この名前は既に使われています。】
……ファイトー! もうイッパーツ!
【Guilty】【この名前は既に使われています。】
……有罪だよ。この名前を使ってる奴がな。
【氏子M無地男】【この名前は既に使われています。】
……ド○エモーン!
【母ちゃん】【この名前は既に使われています。】
……母ちゃ~ん……マジかよ。全☆滅とは……。
というか、入力したオレもオレだけど、既に使ってる奴らも相当だな……!
くっそおおおお!! どんな名前ならOKなんだよおおおお!!
オレはよりテキトーに名前を入れて決定ボタンを連打しまくった。
【巧い坊・華麗味】【この名前は既に使われています。】
オラオラオラオラオラー!
【ポニオ】【この名前は既に使われています。】
オラオラオラオラオラオラー!!
【天魔獄門不動明王】【この名前は既に使われています。】
オラオラオラオラオラオラオラー!!!
【Marlboro】【この名前は既に使われています。】
オラオラオラオラオラオラオラオラー!!!!
【ンぽヘなトぷー】【この名前でよろしいですか?】
オラオラオラオラオラオラオラオラー!!!!!!
【この名前で決定します。】
オラオラオラオラオラオラオー…………ら……え?
【GAME START】
――あ、あれ? 今なにかとても不吉なメッセージが見えたような……。
オレは頭に疑問符を浮かべたまま、漆黒の渦に飲み込まれた。
◆◇◆
べちょん……!
――は?
いきなり放り出され、地面に着地したオレに聞こえたのは、粘液体を叩きつけたようなエフェクトサウンドだった。
――ちょ、え……?
つか、地面が近い。顎のすぐ下はもう地面なんですけど。
転んだのかと思って立ち上がろうとするが――――出来ねえ。
というか、オレの体……なんか、テカってね? ヌメってるというか。ちょっと透けてるんだけど……。オレいったいどんなモンスターになったんだ?
『ふんっ、来たか。新たなる使徒よ』
その声に思わず顔(?)を上げる。
よく見るとオレの居る場所は、真っ黒な神殿のような所だった。
『我の名は《ファレスティナ》。暗黒大陸《パレマニナ》を造りし神じゃ』
頭上から響く声はどこか高飛車なお姫様を連想させる。
『忌々しい光の女神《ラシェーディナ》により、我は今、思い通りに力を使うことが出来ぬ。――よいか、《ンぽヘなトぷー》よ。貴様は己を鍛え、魑魅魍魎を率いてダーナ大陸に攻め入るのじゃ! ダーナが我が軍勢に侵されるたび、ラシェーディナの力は弱くなる』
――待って、ちょい待って。……え? この女神さん今なんてった?
『貴様には我から《闇神の芽》を授けよう。これは可能性の芽じゃ。これからの貴様の弛まぬ努力が、その芽を開花させる養分となるじゃろう。――《ンぽヘなトぷー》、貴様がどのような大魔に成長するか、観させてもらおう……』
――いっ……いぃぃぃ~~~やぁぁぁ~~~っっ!!?
なんだよ《ンぽヘなトぷー》って!
オレ、そんな名前で登録しちまったのか!?
『《ンぽヘなトぷー》。ま、まあ、せいぜい頑張ることじゃなっ。期待してやらんことも……ないぞっ』
その名で呼ぶなぁぁぁ~~~!!!
てか、そこでツンデレはいらねぇぇぇ~~~!!!
『ではゆけっ、《ンぽヘなトぷー》よ! 我の期待を、裏切るでないぞ……!』
――誰か、誰か嘘だと言ってくれぇぇぇ~~~……。
そしてオレは、再び闇に包まれた。
◆◇◆
べちょ……っ。
そんな不快な音と共にオレの視界に映ったのは、薄暗い洞窟だった。
(え、ここは…………ん? あれ? 声が!?)
なんというか、自分の声がエコーされて聞こえてくる。頭の中だけで響いているような、外に向けて声を出してないような感じだ。
――ちゃんと喋れてるのか、これ?
しかも、今までプレイしてきたゲームと比較すると、アバター操作の違和感が酷い。
そもそも、普通に喋れないという仕様なんて初めてだ。
(そういえば、オレってどんな姿に……なんていうモンスターになったんだ……?)
キョロキョロと辺りを見渡すと、小さい水たまりが見えた。
鏡代わりにはちょうどいいだろうと、オレは水たまりに近付く。
(ぬぅおおおぉぉぉ……なんだこれー、動きづらいぞぉー……!)
これはあれだ。『歩く』という動作ではない。どちらかというと『匍匐前進』のように体を動かすイメージか。
ずるりずるり、と地面を這って水たまりへ向かうオレ。
いったいオレはどうなってしまったんだ……?
(…………え)
そして、オレは水たまりに映ったオレを見た。
――否。それはもう、オレではなかった。
オレが登録していたアバター《ウェイク》の容姿の面影は微塵たりとも残ってはいない。
何故なら今のオレの姿は――――
(す……すすすすす、スライムぅぅぅぅぅ~~~~~~!!!?!?!?)
初心者のお友達。RPGでの最弱の代名詞。
粘着質かつゼリー状のスケルトンボディーを持つ、《スライム》と呼ばれるものだった。
作者はスライムが好きです。
LOVEじゃなくて、LIKEですが。