第5話 『マニー』の過去
「俺の幸運で世界を救う?」
マニーが話した言葉をそのまま返してしまったが、それもしょうがないと思うだろ?
マニーの口ぶりから俺はこの世界をこんな風にした元凶、つまり、敵がいるんだと確信していたし、だから俺たちを連れてきた理由はそいつらを倒して欲しいからだと思っていたんだから。
そこにいきなりこんなことを言われたら、誰だって俺と同じ反応をするはずだ、ほら、ロコンも頭の上に ? マーク出してるし。
「どういうこと?私たちは何をすればいいの?」
マニーは迷いを強引に振り切ったようで、頭を数度軽く振ると、真っ直ぐこちらを見ながら言った。
「話すと長くなるので、2人には<<私の記憶の断片>>を見てもらいたいんです。構いませんか?」
「まあ、どういうのかわからないけど俺はいいよ。」
「私も。どうやるの?」
「何もする必要はありません。」
マニーは俺に近づいて、顔に両手を添えて・・・って、おいおいおい、顔が近づいてくるんだが!?目を閉じてるし、これはもしかして都市伝説だと思っていたキ、キス・・・!?
「マ、マニー!?」
ロコンも驚いている。
「安心してください。身を委ねて・・・。」
そ、そんなに甘い声で喋られると、体が動かせなく・・・しかたがない、ここは俺も目を瞑るほうがいいのか・・・!?
俺が目を瞑った瞬間、俺のおでこにコツンと何かが触れて・・・そこから意識が渦のようなものに吸い込まれた。
「あー、なんだったんだ・・・?」
俺が目を開けると、そこは先ほどまでいた火星のような荒野ではなく、VRMMO 神罰 の世界のようだった。
「あ、あれ?」
え、もしかして夢、夢ですか・・・?
「そういえば、ほっぺた抓るの忘れてたし、そもそもマニーが俺にキスをするはずもないし・・・。」
「そもそもキスなんてしてないわよ記憶捏造すんなバカ。」
「うお!?」
び、びびった、慌てて俺の右側を見たらロコンがいるんだもんよ。
「アレは夢じゃないし、相手と自分のおでこを触れさせることが記憶を見る条件なんだって。決して!絶対!間違っても!アレはキスをしようとしたんじゃないんだからそこを勘違いしないでよね!」
「そうだったのか。」
少し残念な気もするが、まあ当然だよな。
「お願いだから・・・勘違いしないで・・・。勘違いよね、マニー・・・・・・?」
「ん?何か言ったか?」
小声で聴こえなかったんだが・・・。
「い、いえ!何も言ってないわ!」
ならいいんだが・・・。
「そろそろ始まりますよ。」
2人で騒がしくしていたらいつの間にか俺の左側にマニーがいた。
「始まるって、何が始まるんだ?」
マニーは、今にも泣きそうな顔でこっちを見て、
「愚かだった、本当に愚かだった、私たちの記録、記憶ですよ・・・。」
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私たちが戦い始めてから、いったいどれくらいの月日がたっているのでしょう?
それはきっと、誰にもわからない、だって、何百年も前のご先祖様たちも戦っていた記録が残っているから。
そして、その人たちも、自分たちがいったいいつから戦っているのか知らなかったから。
いや、一人、ううん、一体だけ、それを知る モノ がいる。
私たちに戦うための力を与えてくれた神 グレア なら、どれくらい戦っているのか知っているハズだけど・・・でも、彼は長老しか話す権利を持っていないし、無理でしょうね。
それに、どのくらい続いたのかわからない戦いも、もう直ぐ終わりを迎える。
私たちを家畜のように管理し、間引いてきた悪魔たち。
この世界の神であったグレアは、大昔、数百体の悪魔にこの世界を奪われたのだと言われている。
だから、この世界を、人間たちを守るために、様々な種族に力を与え、私たちと共に悪魔と戦ってきたと。
そして、その悪魔たちも、残っているのは悪魔の頂点に立つ ウロボロス のみ。
私たちはアレを倒すことで、やっと開放されるんです。
悪魔からも、そして、神からも。
やっと、本当の自由を手に入れることが出来るんです。
実を言うと、私はグレアをあまり信用してはいないんです。
少年のような姿の彼は、確かに戦闘で危ないとき私たちを手助けしてくれます。
けど、偶に見せる笑いに、私は寒気を覚えるのです。
私たちは何か、重要なことを知っていないような、或いは忘れているような、そんな漠然とした不安を覚えるのです。
でも、そんなことを誰かに話そうものなら、裏切り者として処分されてしまうでしょう。
私たちには、自由、悪魔からの開放という目的があるのです、それに背くことは許されないからです。
ですから、私は、出来うる限り早く戦いを終わらせて、この不安な生活から開放されたいと、そう願っているのです。
早く、一刻も早く、この世界が平和になりますように・・・。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
いや、いやいやいや!
何で、どうしてこうなったの!?
私たちが ウロボロス の目の前に出たとき、最初に動いたのはグレアでした。
今まではそれこそピンチにならなければ何もしようとしなかったのに、やはり ウロボロス との戦いともなると、自分から動かなければ勝てないとでも思ったのでしょうか。
彼が右手を空に向け、何かを呟いて・・・。
その瞬間、私は本能に従って、全力で後ろに走りました。
背信行為、敵前逃亡として処刑されても可笑しくない行為です。
自分でも何故こうしたのかわからなくて、でも、怖かった。
ウロボロスではなく、グレアが。
怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて仕方なくて、私は・・・!
『逃げろ!』
その時、頭の中に直接声が聴こえて、私は振り返りました。
ウロボロスが、叫んだように見えました。
その瞬間、グレアの右手に、黒い光が集まって、世界が黒に染まって・・・・・・・・・・。
気が付いたときには、私の愛した仲間は、皆、死んでいました。
「あははははははははははははははははははははは・・・!」
戦場には何も残りませんでした。
木も、草も、動物も、そして、私の仲間も・・・。
全ての命が消えうせ、生きているのは、ウロボロスと、グレア、そして私だけ・・・。
そのグレアは、右手を顔に当てて、空を見ながら笑っていました。
「何が、何がそんなに可笑しいの・・・!?」
私が発した言葉で、ようやく私が居ることに気が付いたのでしょうか、グレアがこちらを視界に入れました。
「ひっ・・・・・・・・・!!」
その瞬間、私の体は恐怖で動かなくなりました。
「あれー?生き残りがいたんだ?・・・・・・あ、君いつも僕を睨んでた娘か。なるほど、僕を信用してないから本能的に何をするかを悟って逃げたわけか。へえ、凄いね君。」
薄ら笑いを浮かべながら近づいてくる『グレア』に、私は目に涙を浮かべて首を振ることしか出来ませんでした。
「いやー、間違っちゃった。殺すつもりなかったのにね。でもさ、手違いとはいえ、さっきまで僕を慕ってた奴らが一瞬で死んじゃうと、何か無性に可笑しくならない?」
訳がわからないことを呟きながらも、私との距離が確実に狭まってきます。
わかっていたんです、この距離がゼロになった瞬間、私も皆と同じ運命を辿ると。
わかっていても、体は動かなくて、逃げることも出来ない・・・・・・・!
動いて、動いてください、少しでも距離をとらなきゃ、私の心が、壊れちゃう・・・・・!
「いいね、その表情。うんうん、人間はそうでなきゃ。僕と同等とでも思ってたのかね他の連中は。本当に腹が立つよ。」
どんどん私との距離が近づいて、私は、私は・・・!
『させんぞ!』
そこで私を助けてくれたのは、ウロボロスでした。
全長50mを超え、尻尾の代わりに二つの頭が付いた悪魔の長は、小さなグレアにその太い胴体で巻きつくと、きつく締め上げました。
そのまま殺してしまう気なのは、私にでもわかります。
「あははは。わかっているんだろ?もうあんたじゃ僕には勝てないってさ。」
しかし、それが当然のようにウロボロスの締め付けを軽く抜け出した彼は、一体何なのでしょう・・・。
『ぐううううう・・・』
「いやー、あんたら人間は役に立ってくれたよ。ご褒美だ、真実を教えてやろう。」
苦しげに呻く ウロボロス の上に立ち、グレアは言いました。
「実は、こいつら、つまりお前たちが倒してきた悪魔が本当は神様で、お前たちが神様だと思ってきた僕こそが悪魔なんだよね。」
その言葉は、私を絶望させるには十分な威力を持っていました。
「そんな、じゃあ、私たちがやってきたことって・・・」
「自分たちのことを見守ってきた神様を殺してきたってことだねー。残念でした!知りたいことがあったんだけど、神様連中は役に立たなくてね。予定を変更して世界を征服することにしたんだ。」
『グレア』は自慢げに話を進めていましたが、私はそれに反応する余裕もありませんでした。
「僕の力は<<他人に不幸を渡す>>こと。そうだな、疫病神とでも言ったほうがわかりやすいかな、神様じゃないけど。たとえ神様でもさ、運命とかには逆らえないんだよね。ほら、君たちに倒されてきた神様がいい例だろ?」
私たちは、数々の神様を倒してきましたが、それは神様が運命に抗う力を持っていなかったから?
「ウロボロスは<<命の輪廻>>を司る神。だから、僕が殺しても直ぐに復活する。でもさ、それならそれで無効化する方法はあるんだよね。」
彼はそう言うと、ウロボロスの上から降りて、その目の前に立ちました。
「人間は不幸にも突然寿命がきて死んじゃったけどさ、ウロボロスには何が起きると思う?。」
私を振り返り、尋ねてくる悪魔。
『ガアアアアアアアアア!』
私にばかり気を取られているグレアを倒す好機と見たのか、ウロボロスが目にも止まらない速さでグレアに巻き付こうとしました。
「無駄だよ。」
彼が指を鳴らしたその瞬間、ウロボロスの真下に突然巨大な渦が出来たかと思うと、そのままウロボロスは落ちていってしまいました。
「あはははは!ねえ見た!?普通におちて行ったよ<<煉獄>>に!」
彼はそう言って笑っていましたが、私の心は絶望感で満ちていました。
ウロボロスですら、手も足も出なかったのです、彼がどうなったのかはわかりませんが、私の命があと少しで消えるであろうことは簡単に想像できました。
「<<煉獄>>っていうのはさ、神様の力を喪失したヤツラの行き先なんだよね。そこでは、どんなに強力な神でも一切の力を行使出来ない。つまり、そこに落ちたヤツはもうどうすることも出来ないってわけさ。この世の終わりをじっくり眺めるといい!」
彼は笑い終わるとこちらを向いて、品定めするように眺めてきました。
その時の私の心は、既に壊れていたのかも知れません、これでやっと恐怖から開放されると。
「殺して・・・。」
私の呟きを聞いた彼は、しかし面白くなさそうな顔をしました。
「悪魔が望みを聞いてやるわけもないだろう。」
そんな、殺してももらえないの・・・?この苦しみを、まだ味わわなければいけないの・・・・・・!?
「・・・よし、決めた!お前、見逃してやるから、そのかわり俺を殺せるやつを連れて来い!」
彼の言葉を、私は信じられずに聞きました。
「最大の敵は倒したし、暇なんだよ。悪魔にとって暇ってのは最大の拷問なんだぜ?そうだな・・・、僕を殺せるのは、世界一幸運なヤツだけだよ。どんなに力があっても、運命の女神に愛されていないと僕とは戦えない。だから、そいつを見つけて僕の前に連れて来い。僕が負けたら、この世界の全てを戻してやる。」
その言葉は、私を奮い立たせるのには十分な力を持っていました。
「ほ、本当に・・・?」
「信じるか信じないかはお前しだいだ。ま、せいぜい頑張れよ。」
そう言って彼は私の目の前から消えました。
そこに残されていたのは、大量の死体と、座り込んだ私だけでした・・・・・・。
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今回の話は、かなり暗いです。
でも、物語の最初、つまり、なぜマニーが神代たちをこの世界に連れてきたのかを語るためには、どうしても避けては通れない話だったと思います。
とうとう物語りも進んできましたが、いかがでしょうか。
これからも面白くなるように頑張りますので、よろしくお願いします。
第5話なのに3話になってた・・・。直しておきました。