第2話 『ロコン』視点
俺を悩ませる夢がある。
いや、夢っていっても将来の希望とかの話じゃない、文字どうり寝ている時に見る夢のことだ。
運だけで生きてきたこれまでの人生の中で、この一つの要素だけが俺を悩ませる。
夢っていうのは、本人の記憶や願望が強く現れるそうだが、じゃあ俺が毎日見ている夢は、いったい何を示しているんだろうな?
見渡す限りの荒野。そこに一人で立っている俺。どこまで行っても誰も居ない、死んだ世界--これが俺の見ている夢だ。
ただの夢かも知れない、だが、俺は漠然と、何とかしなきゃって思っているんだ。
確信がある。
<<何か>>をこのままにしたら、世界はこんな風に変わってしまうことの。
そして、俺なら、いや、俺じゃないとそれを変えることが出来ないことの。
今、夢とほとんど同じ光景が、俺の目の前にある。
違うところといえば、仲間も一緒にいることぐらいだろうか。
・・・・・・・・・どうしようか?
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最初はただ、面白い男と出会ったなって思っていただけ。
お調子者で、頭は悪くて、でも、何か運がいい男。
それに、仕事もしてないニートだったわね。
こいつ、私の2倍以上もダイブ時間長いのよ(あ、ダイブって言うのはVRMMOに入ることね、全ゲーム共通の起動コマンドなの)。
しかも、そんなに入って何をしてるのかと思ってこっそり後を付けてみたら、探索しきれなかった場所の自然や景色を見てるだけ。
俺は努力なんてしたこと無い。運だけで乗り切ってきた--って豪語してたから、もし一人でレベル上げとかしてたらからかってやろうと思ってたのに。
自然や景色はこのVRMMORPG 神罰 の売りの一つだし、私もすっごく綺麗だとは思うけど、ネトゲなんだし、レベル上げくらいはしてもいいと思わない?
前に一度、PT内でオフ会やったのよ。
他の人たちはガリガリに痩せてたり逆に太ってたり、典型的なオタクって感じの人たちだったんだけど、神代とマニーは違ったわね。
神代と名乗った人は、背が高くて必要な分だけ筋肉が付いている、それに、常に他人に気を配っている、そういう、一言で言えばかっこいい人間だった。
最初は誰も信じられなかったんだけど、色々話をしていくうちに、神代だって認めざるを得なくなったんだよね。
確かに声は同じだし、ゲーム内でもPTメンバーにいつも気を配ってるいいやつだったけど、リアルでもこんなにかっこいいとは思わなくて。
あれは衝撃だったわ。
衝撃といえば、マニーも衝撃だったわよ。
可愛かった。
すごく、女の私でさえ見とれるほどに可愛かったの。
黒いロングヘアー、長い睫毛、背は少し小さいお嬢様って感じの子だったわ。
そう、例えるなら、孤島の桟橋で、長いワンピースを着て麦わら帽子を手で抑えながら海の向こうを儚げに眺めている女の子みたい。
あの日ほど驚いたこと、今まで記憶に無いわよ。
と、色々あって私と神代、マニーはその後もオフで会って遊んだりしたわ。
あの二人といると、ゲームだろうとリアルだろうと変わらず楽しくて。
っていうか、驚いたのは神代の年齢よ。
成人してたのねあいつ。
何で働かないのか聞いて見たら、金はいっぱいあるから働きたくないでござるって言ってたわ、駄目人間め。
どうやら宝くじで当てたらしいわ、あいつの運のよさはリアルでも通用する本物だったってことね。
で、3年。
あいつらと一緒にすごした時間よ。
PTの皆も、マニーも、皆好き。
だけど、神代はもっと好きになった。
あいつ、人を惹きつける力でもあるのかしらね、気が付いたら目で追うようになってた。
あいつは、私のことをどう思ってるんだろう。
今年高校を卒業する私でも、あいつは好きになってくれるのかな。
マニーは、あいつのことをどう思っているんだろう。
でも、今はそれどころじゃないのよね。
現実逃避はそろそろ終わりにしないと。
見渡す限りの荒野、さっきまでいた森とは明らかに違う場所に私たちはいた。
神代は驚いて回りを見渡しているし、マニーはすごく難しい顔をして俯いている。
神代はともかくとして、マニーは、なんだろう、すごく泣きそうな顔をしてる。
なんだろうあの表情、後悔、いや、懺悔・・・?
そういえば、さっきも何か様子が変だったけど・・・・・・。
・・・・・・私たち、どうなるんだろう?
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どうでしたでしょうか?
今回、各キャラクターからの視点に挑戦してみようと思いまして、この方法をとらせていただきました。
少し物語の進行が遅すぎますね、反省してます。
次回はちゃんと進むので、許してください。