第14話 神罰
「この世界には、グレアを倒すことの・・・出来る人間は・・・・・・もう存在、しない。既に、運命の女神の・・・加護は、この世界から・・・失われている。」
アルフェさんの言葉は、私を絶望させるのに十分な威力を持っていました。
「う、嘘・・・。嘘、ですよね・・・?」
しかし、彼女は、ゆっくりと首を横に振りました。
「え・・・・・・?じゃあ、私、・・・・・・何の為に・・・?」
何の為にここまで来たのか。つまり、グレアの言葉は最初から全て出鱈目で、私は、愚かにも希望を抱いて、彼の掌で踊っていただけに過ぎなかったってこと?・・・道化だったって、事・・・・・・?
私は、膝から力が抜けて、地面に座り込みました。そして、先程あれだけ泣いたのに、また涙が流れてくるのを感じました。
しかし、私が泣き出す前に、アルフェさんが私の前に座り込み、頬に両手を優しく当ててきました。そして、子供に言い聞かせるように、ゆっくりと、そして優しく、言葉を紡ぎます。
「落ち着いて・・・。誰も、希望が零とは・・・言ってない、よ?」
「・・・・・・え?」
彼女は微笑し、私を抱きしめると、こう言いました。
「こことは違う世界に・・・助けを求めるの。私が・・・扉を、開いて・・・あげる。」
「違う、世界?」
「そう、異世界。そこは、この世界とは、違う法則があって・・・違う文化があって・・・違う価値観を持つ世界。」
「そんな所で、本当に見つかるんですか・・・・・・?もし、私たちの価値観とは全く違う人たちだったら、どうするんですか・・・?」
そうです。私達にとっては悪でも、その人たちにとっては正義かも知れません。この世界で云えば、私達の一族と他の人たちでは、正義の価値観が全く違ったではありませんか。私たちは、悪魔を倒すことが正義だと信じ、他の人たちは、彼らは神様で、神聖なものだと信じていました。
本当にそんな場所で、この世界を私と一緒に救ってくれる人なんて、見つかるんでしょうか?
「大丈夫、だよ。今から繋げる世界には、悪い人も沢山いるけど、それ以上に、親切な人も沢山いるから。・・・私、何度も行ったことあるから、ね?」
私を落ち着かせるように何度も頭を撫でてくれた彼女は、私が少し落ち着いたのを見ると立ち上がりました。
「これから、この世界のコピーを・・・創る。美しかった頃の、コピーを。そして、その世界で・・・彼らには修行して貰うの・・・・・・。その中から、貴方が信用出来る人間を・・・連れておいで?」
「世界を・・・創る?」
「そう。そうだな・・・世界の名前は、『神罰』、でどうかな?私達に、与えられた・・・神からの罰、という意味。」
彼女の周りに、大きな力が集まっているのが分かりました。周囲の景色が歪んで見えるほどの、とても大きな力です。
「騙すようで気が重いけど・・・もし頼んで断られたら、帰って貰えば・・・いいし。命がかかってるんだから、しょうがないよ・・・。」
どんどん大きくなっていく力に、私は耐えることが出来ず、吹き飛ばされました。地面を転がりながら見た彼女の額には、大量の汗が浮いています。
「え、ま、待って!」
周囲の力と反比例して、彼女の体の中の力が、弱くなっていくのを感じました。
「まさか、アルフェさん、貴方、命を・・・!?」
「・・・ゴメンね。貴方だけを残すことになって。・・・・・・でも、信じてるから。貴方なら必ず、グレアを倒してくれるって・・・・・・信じてるから。」
「待って・・・・・・待ってー!」
力を振り絞って近づこうとする私の目の前で・・・
「またね・・・。」
彼女は、光の粉になって、消えました。