第1話 俺の運はやばいんだぜって話
いろいろ書いておりますが、他の作品も全て完結しますので、出来ればそちらのほうも見ていただけると嬉しいです。
面白くなるように努力しますので、よろしくお願いします。
俺の名前は神代信也
唐突だが、俺は運が良い。
俺の運に名前を付けるとしたら激運、いや、超運、いやいや、神運ってクラスだな、うん(ネーミングセンスのことは何も言うな)。
それこそ、俺ほどに運がいいやつなんて世界でも数えるほどしかいないんじゃないか?
努力や才能で成功を掴み取るやつらは、それこそ腐るほどいるが、努力も無しに成功するやつなんてのはそうそういないハズだ、そうだろう?
ぶっちゃけ、頭は悪い。
高校ではテストの点数が三十点より上になったことないしな。
だが、運の良さで言えば誰にも負けない自信がある。
昔から何かに応募すれば当選し、どんな危険も回避してきたが(急用が出来てキャンセルした飛行機のハイジャックなど。何事も無く犯人は捕まったが)、この頃の 幸運度はヤバイレベルだと思う。
だって、成人になってから10枚だけ買った宝くじで1等2等3等を全部当てるなんて、いったいどれくらいの幸運があれば出来るんだ?
俺の総資産は既に20億を越している(その後もいろいろあった)ので、ぶっちゃけ死ぬまで働かなくても生きていけると思うのだ。
働きたくないでござる。
でも、やること無くてすごく退屈だったんで、買ってみた。
VRMMORPG 神罰を。
いや、これ面白いわ。
もともとゲームは好きだったし、ネットでの評判もすごく良かったからさ、思わず。
VRMMOってのは、最近完成したゲーム体制で、昔から名前だけは言われてたんだよ。
自分がゲームの中に入るってやつだよ、聞いたことくらいあるだろ?
それがとうとう完成したっていうからさ、ゲーマーとしては見過ごせないよな。
・・・てなわけで今、仕事もしないでゲーム三昧でござる。
「神代。テトラ の討伐行くわよ」
「お、皆揃ったのか。じゃ、出発するか。」
『おー!』
最初に話してきたのが俺のパーティーメンバー ロコン な(言わなくてもわかると思うが、神代ってのは俺のことだ。名前考えるのが面倒でな)。
俺がこのVRMMORPG 神罰 を始めた頃から一緒につるんでる女で、種族は獣人で職業破壊神のパワーファイターだ。
整った顔立ちに白い猫耳が付いてて長い尻尾が腰の辺りから伸びている(男心をわかっているな。あ、顔や体に毛はないぞ。あくまで耳と尻尾だけだ)、小柄な体格だが、レベルアップボーナスを全て筋力に振っているという、珍しいやつだ。
残りは俺のパーティーメンバー40人。
まあ、この辺は後で紹介するさ。
まず、このゲームのストーリーから説明していこうか。
『世界の神によって作られ、管理されてきた人間。彼らは神々の気まぐれによって、生かされ、あるいは殺されてきた。だが、人間は今立ち上がる。真の自由を手にするために、他の種族と共闘し、神々の支配から開放されるために・・・』
っていうパッケージからもわかると思うが、この世界のボスは全て<<神様>>なんだよ。
しかも、大抵の場合ビルより大きい。
ボス攻略の時には、大抵50人以上の人数で戦いを挑むんだが、この間戦ったグインってやつなんかすごかったんだぜ?
頭が弱点なのに、頭が雲に隠れて見えないんだもんよ。
だから、いかに踏み潰されずに足下に行き、そこから振り落とされずに頂上まで登るかが肝だったのさ。
とまあ、これだけでも珍しいゲームだと思うが、これだけじゃないんだぜ?
なんとこのゲーム、ネトゲの癖に<<完全クリア>>があるらしいんだよ。
つまり、このゲームのボスは全てが<<ユニークモンスター>>、つまり1度しか倒せないモンスターなんだ。
『この世界の神を全て倒しきったとき、新たな世界の扉が開かれる』ってゲームのホームページには書いてあったし、何が起きるのかワクワクするよな。
で、俺たちは今回、ラージウス大陸の神である、テトラっていう神様に戦いを挑みに来たのさ。
これから何が起きるんだろうな?
「神代さん。後1時間ほどでテトラ到着ですよ~。」
と俺に話しかけてきたのはマニーっていう女だ。
こいつはエルフで職業風神、ロコンと同じく俺と初期からつるんでいたやつで、俺とロコンとマニーが、実質このPTのトップだな。
エルフは耳が少し尖がった背の高い種族で、風の扱いを最も得意とする種族だ。
破壊神、風神、炎神、水神、雷神、これがこのゲームの主な職業一覧な。
本当はもっと細かいのが数十種類あるんだけど、マイナーなのが多いから省く、面倒くさい。
もう気付いているやつもいるだろうが、このゲームは生物が生みの親である神に成り代わることを目的としている。
だから、職業名に<<神>>なんて付けているわけだ。
勿論名前負けなんてしてない、各キャラの攻撃なんて見てるだけで心が躍るかっこよさだぜ?
大地が割れ、竜巻が起こり、辺りが火の海になり、津波が起きて、無数の雷が落ちる。 この派手な攻撃もこのゲームの魅力の一つだからな。
それと、このゲームの職業や技には、所謂回復系がない。
どんな攻撃でも、当たれば即死するからな、有っても無意味だってことだ。
この難易度の高さもコアなゲーマーの心を掴んで放さない要因だろうな。
だがな、このゲームが発売されて3年、遂に残すボス敵は今俺たちが向かっているテトラ、同じ大陸の反対側にいるバックス、そして、そいつらを倒した後に出てくる、最高神である創生神ウロボロスの3体だけとなった。
世界中で頑張ったんだぜ、俺たちは?
このゲームには、転送系のアイテムや魔法も存在しない上に、マップ上の広さは実際の地球の半分程度あるからな。
勿論、生物は神に支配、管理されてきたって設定だから、道も整備されてない。
となると当然、乗り物系もないわけで、果てしない大地、あるいは海を、俺たちは自分でモンスターと戦いながら旅をしてきたわけだ(まあ、キャラのステータス補正があるからな、普通に旅をするより全然疲れないが。)。
一つとして同じ光景なんか存在しないこの世界を、仲間たちと感動しながら進んで来たのさ。
とくに、1年前サヴェン大陸のボスを倒した後にそいつの体の上から見た朝日を俺は一生忘れないだろうよ。
周りの山々の間から昇ってくる太陽を、それよりも高い位置から見下ろすんだぜ?
この自然の雄大さが、このゲームの一番の魅力でもあるよな。
「よし、じゃあこの辺で休憩にするか。2時間休憩の後、テトラ攻略に向かう。各々先ほどのモンスターとの戦闘で減った武器の耐久度を確認し、飯を食っておけ。じゃあ、解散!」
俺が叫ぶと、皆思い思いの場所や仲間と談笑しながらいなくなった。
「神代、私たちもご飯にしましょうよ!」
「あ、私も~」
とロコンとマニーが近づいてくる。
俺たちはいつも3人で飯を食っているので、特にいうことは無い。
良い場所を探して弁当を食っていると、マニーが話しかけてきた。
「しかし、神代さんやっぱりすごいですよね~。あのモンスターのドロップってかなりレアだったはずなんですけど~」
俺たちがさっき戦った<<スマッシュ・ウルフ>>ってやつのことだな。
こいつはそもそも会うことが難しく、弱いくせに倒したら経験値たんまりっていう、プレイヤーにとってはとても嬉しいモンスターなので、出会っただけで幸運だといえるのだが、更にレアドロップすることでも知られている。
赤と黒の花びらの小さなヘアピンだ。
これの効果はズバリ、幸運度の上昇。
それだけか、何て言わないでくれよ、他の連中にはただアイテムドロップ率を高める装備に過ぎないだろうが、俺には強力なアイテムなんだぜ?
俺の種族は人間で、職業は無神っていう、マイナーもマイナーな職業なんだが、俺が使うと大変なことになるんだこれが。
破壊神は文字どおり物質の破壊、風や水の神はそのまんまその属性の攻撃しか使用出来ないが、この無神だけは違う。
技を使用すると、ランダムで何かに変身し、その能力を得ることが出来るんだ。
どういうことかわかるか?
植物に変身してしまって何も出来なくなるときもあれば、ボスである神に変身して神々の黄昏を始めることも可能な職業だってことだ。
このランダム決定は、キャラの幸運度が高いほどにその状況に合わせたものに変身する可能性が増える。
このゲームはボスを倒すと、それに関わった全てのキャラに勝利ボーナスとしてアイテムが配布されるんだが、今までの俺の拾得物はほとんどが幸運度上昇アイテムだった。
アイテムは千差万別で決まった能力のアイテムが出るなんてほとんどないんだが、俺の場合この系統のアイテムしかドロップしないんだこれが。
勿論、レベルアップボーナスは全て幸運度に振っているので、俺の現在のパラメーターは幸運度のみが限界値で、他はモンスターの攻撃1度で即死するモヤシになっている。
だが、俺はこのPTの最強戦力なので、リーダー扱いになっているわけだ。
「本当にすごいわよね、その運。あたしたちにも分けなさいよ。」
「いいぜ、ロコン、マニー、お前たちにさっきドロップしたアイテムやるよ。」
2人はえっ!?って顔をして驚いている。
「いや、そんな悪いですよ~。すごいレア装備なんですよ~?神代さんが使ってください~。」
「と言われても、既に幸運度MAXなんだよ。これ以上上昇しないんだ。なら、お前らが使ってやってくれ。そのほうがアイテムも喜ぶ。」
と言って2人の髪の毛を優しく手にとってヘアピンを付けてやる。
「え、2つ?」
「ああ。4つドロップしたからな。2人に2つずつやるよ。」
ククク、2人の驚いた顔が笑えるぜ。
さっき5体と戦っただけなのに、4つもドロップしてるんだから当たり前だけどな。
「うわ、相変わらず強運ですね~。すごいです~」
「いや、流石ねー。」
2人とも喜んでいるみたいで良かったな、あげた甲斐があるってもんだ。
「大切に使わせてもらうわね。」
「わたしもです~」
「おう。そうしてやってくれ。」
そんな話をしているうちに、弁当を食い終わった。
「なあ、この辺りを探索しようぜ。」
俺の提案に2人は当然とばかりに頷いた。
このゲームに同じ景色は存在しないので、俺たちは暇さえあればこうして景色を見て回っている。
この綺麗な自然を見ない人なんて、人生の半分は損をしてるからな(最近では景色を見るためだけにこのゲームを買う人たちもいるくらいだ)。
「じゃ、あっちから行ってみようぜ。」
俺は直感に従い後ろの森を指差した。
何かがある、あるいは起きる、そんな確信があったからだ(実はさっきから行きたくてウズウズしていた)。
大変なことだが、しかし決して悲しいことじゃない、むしろ楽しいことが待っていると俺のカンが告げていた。
「そっちに、行くんですか~・・・・・・?」
あれ?マニーが乗り気じゃない?
「私は行きたいかな。何でだろう、行かなきゃいけない気がするの。」
「・・・わかりました~。」
「決まりだな。」
少し見て回って帰れば集合時間には間に合うだろう。
しかし、マニーの様子が気になるな、どうしたんだろ?
モンスターがいるかもしれないのにズンズン進んでいくロコンを追いかけて、俺たちは森に入っていった。
薄暗い森の中を3人で歩く。
植物が生い茂る森の中をスイスイと進んで行くと(この程度はゲームをやっていれば慣れる。旅をするのもこのゲームのコンセプトの一つだからな)、俺たちは円形に開けた場所に出た。
「綺麗・・・。」
「・・・・・・。」
マニーは何かを堪えるように顔を顰めていたが、ロコンはホゥ・・・と息を吐いて感動している。
勿論、俺も感動していた。
暗い森の中でここだけ日の光を浴びて、まるで輝いているようだ。
だが、俺はその中心の辺りが気になった。
「なあ、あれ何だ?」
その辺だけにユラユラと陽炎が出来ているのだ。
別に陽炎が出来るほどに暑いとは思えない(むしろ涼しいくらいだ)。
俺は何故かこれが無性に気になって、少しずつ近づいていった。
「気をつけてね。新種のモンスターかも。」
後ろから2人もゆっくり近づいてくる。
俺は十分に注意しながら、その陽炎に手を伸ばし・・・手が吸い込まれた!
「う、うおーーーーー!?」
俺の体がどんどん吸い込まれていくー!?
「ちょ、まずいわよ!」
2人が俺を助けようと反射的に手を掴み・・・。
気が付くと俺たちは見知らぬ場所に立っていた。
『・・・どこだ(よ)ここ?』
俺たちの身は一体どうなってしまうんだろうな。