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特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです  作者: 月待 紫雲


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41話 迷い

 魔物に、故郷を燃やされた。

 痛くて、熱くて、怖くて、泣き叫んでいたのを覚えている。炎に包まれる中で、じりじりと焼かれていく己の命。


『もう大丈夫ですよ』


 そんな中、優しく声をかけてくれた。


 傷を治療してくれて、保護をしてくれた。


 教会に所属している彼女は、三等聖女らしい。自分は彼女の付き人として雇われることになった。命を救われて、住む場所まで用意してくれた。


 自分にはひどいやけどが残ったが、彼女は態度を変えなかった。


『わたくしは目が見えないのです。だから気にしませんよ』


 そう、優しく微笑んでくれた。


 教会に所属するにはいくつか道があった。


 修道女に、聖女に、守り手。


 聖女である彼女を守りたいと思った。あの炎から救ってくれた彼女を、今度は自分が救いたいと。目となり、剣となり、助けになりたいと。


 だから守り手になった。厳しい修練も乗り越えて、幾度も怪我をしたけれど。


 その度に、ウラリアは自分を癒してくれた。そして「無理をしないでください」と気遣ってくれた。


 そうしてやっと強くなれた。だが、目の前のやつは平気な顔をして立っている。


 なんだか気に入らなかった。


 自分には覚悟がある。だが、やつにはそれがない。


 ヘラヘラしている。自分を否定されているみたいで腹が立った。


「アンタが死んだら次はウラリア様だぞ? 死んでいいわけあるか」


 そう、言われるまでは。




◯




 呼吸が落ち着いてきた。

 ニエベは自分の仮面に手をかけると、乱暴に外して投げ捨てる。呼吸の妨げになるだとか、実利的な理由で外したわけじゃないだろう。邪魔くさいから外した、だけのように見えた。


 その顔は、左半分がやけど痕で赤くなっている。


「なんだ、可愛い顔してるじゃん」

「……うるさい」


 突っ返すように言われるが、先程までの乱れは感じない。両手で剣を握り締め、そしてこちらを真っ直ぐ見る。


「――すぅ」


 ゆっくり息を吸う。


 オレは、対称的に息を潜めて、腰を落とす。


 風が吹いた。


 真っ直ぐな剣だった。


 今までと比べ物にならない、迷いのない剣。


 オレはさっと動いて剣を弾きあげる。


 そして首元に刃を当てた。


「――いい剣筋だった」

「届かなかったがな」


 自嘲気味に息を吐くニエベ。そうして仮面まで歩み寄ると付け直す。


「いいじゃん別に」

「良くはない。が、今は良しとしておく」

「敵にしっかり届きゃいいのさ。今そんな時間じゃないだろ?」

「……そうだな。オマエの剣、覚えておく」


 うーん、できればあまり覚えてほしくないけど、これくらいならいいか。




◯




「先ほどは、ありがとうございました」


 解散して、焚き火を再び眺めていると、ウラリアから声をかけられた。


「何が」

「見せてくださったでしょう? あなたの剣」

「少しだけね」


 ウラリアは微笑みを浮かべる。


「――ずっと、無茶をさせていたのかもしれません」

「まぁ本人が望んでるからいいんじゃないですか?」

「わたくしはあまり、望んでいるわけではありませんわ」

「忠義もほどほどにって? 難しい注文ですね」


 忠義がプラスに働くなら、主としてはこの上なく良いことはないんじゃないか、と思う。逆らう可能性が低い方が良いし。ニエベが強くなれたのは、忠義あってこそだろう。


「あなたが咎めてくださったおかげで、あの子も少し意識を変えてくれるかもしれません」

「咎める? 何を?」


 オレが問うと、ウラリアは意外そうに眉を上げた。


「ニエベが死んだらわたくしの番になるから、死んでいいわけあるか、と。そのようなことを」

「別に咎めてないっすよ?」


 事実を言っただけだし。


「ぶっ!」


 近くで寝ていたエルゼ王女が跳ねた。


「説教はしてない、と言うわけか?」


 声を震わせながらエルゼ王女が顔をこちらに向けてくる。


「当たり前のことでしょうが。戦いと私情は分けろって話でしかないですよ」

「無理があります」

「へ?」

「そうそう無理があるぞ、お主」


 え。

 なんかオレがニエベを心配して言ったような空気になってる?


 いや別に心配してないって。


「剣の考え方を言っただけですよ。他意はないです」

「ニエベを口説いたのは?」

「は?」

「可愛いって言ってたじゃろ」

「そりゃ、仮面で隠すほどのもんじゃないなと思ったから言っただけで、その場のノリですよ。ノリ」

「ワタシは言われたことはないが?」

「可愛いこと大前提だろ、アンタ」

「当たり前だ、あほう」


 エルゼ王女とそんなやり取りをしていると、ウラリアが笑った。口元に手を当てて、肩を震わせる。


「良いですね。お友達のようで」


 それから顔を上に向けた。


「わたくしもそういう風に、気軽に話したいものですわ」


 そう言い残して、ウラリアは去っていく。その先には、ニエベが待機していた。


 視線をエルゼ王女に戻す。


「……そろそろ寝ないと明日に響きますよ」

「わかっておる。明日は頼むぞー」

「ほどほどに働きます」


 魔物相手だろうし、そんなマジにならなくてもいいだろ。もし魔女を相手にするとなっても、エルゼ王女のデタラメ魔法で解決だ。


 オレが苦労することはないでしょ。


 …………うん、たぶん。

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