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特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです  作者: 月待 紫雲


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35話 ロマの剣

 技術をどれだけ磨いても、圧倒的な力の前には無意味だ。


 そう、例えば今。エルゼ王女が討伐したガスト級のベルゼボアとか。イノシシの魔物で凄まじいパワーで熟練の冒険者ですらひき肉にされる脅威の魔物だ。


 エルゼ王女はプロテクションという魔法で防御壁を形成し、凶悪な突進を真正面から受け、本来なら火の耐性があるはずの体皮など関係ないとばかりに炎の剣で斬った。


 ま、そもそもこいつより上の魔物なんて散々相手にしてるから苦戦するわけないのだが。


 世は弱肉強食。弱ければカモにされる。


 あれから聖女認定を盾に冒険者登録をさっさと済ませたエルゼ王女は、早速昇格に励んでいる。といっても、どんな魔物も瞬殺なのだが。


 オレ? オレは薬草採取してるよ。


 冒険者のランクはブリーズ級、ウィンド級、ガスト級、ゲイル級、ストーム級、テンペスト級と分けられている。


 今のオレらはガスト級。ベテラン冒険者の域だ。


 ストーム級がファイアードレイクをパーティーで相手取れる化け物集団なので、まともな人間でたどり着けるのはゲイル級が一番上だろう。テンペスト級はもう伝承に残るレベルなので存在していないのと同じだ。なので、どんな化け物でもストーム級が最上位である。


「もっと歯ごたえのある敵がいいのう」

「十分歯ごたえある敵のはずなんですけど」


 エルゼ王女が戻ってきて1ヶ月は経ったか。1ヶ月でガスト級ってなんだよ。世の冒険者が泣くぞ。


 オレも上がってるから人のこと言えないんだけど。


「今年の間にゲイルには上がっておきたいな。この辺で派手な事件でも起きてくれると楽なのだが」

「王女が事件を望まないでください」


 どこの国に危険を望む王女がいるんだよ。


 空を見上げる。


 今日も平和ダナー。




◯




 オレが自分に与えられた部屋で読書をしていると、勢いよく扉が開かれた。


「ロマ!」

「いきなり入ってこないでください。着替え中だったらどうするんですか」

「不敬罪だ」

「オレの方が!?」

「そんなことはどうでもいい。こいつだ」


 テーブルの上に置かれたのは剣だった。随分しっかりした鞘に納められている。


「あれ。今日はお祝い品が届いたのでは」


 一等聖女ウラリアが送るって言っていた、聖女認定のお祝い品だ。


「中にあった。特任騎士にと」

「エルゼ王女が持てばいいのでは? 凄い剣なら、エルゼ王女が持ったほうがいいでしょ」


 教会が所持している領地の中に、希少鉱物が取れる鉱山地帯がある。教会が権力を持つことができている理由のひとつだ。希少鉱物を加工して、強力な武器にする。


 それを英雄や国に与える、というわけだ。


「とりあえず見てみろ。というかこいつもだ」


 剣の上にガシャリと追加で置かれる。今度は短剣だった。


「特任騎士が武器に苦労しそうな様子だったので、送らせていただきました、だそうだ」

「いえ全く苦労してませんが」


 魔法剣あるし。

 本を棚に戻し、剣を持ち上げる。


 ……鞘込みだというのにかなり軽い。


「失礼いたします」


 鞘から剣を抜く。青とも銀とも言える美しい刀身がその姿を現す。


「綺麗だな」


 ぽつりと、エルゼ王女が呟く。


「使われている鉱石は星幽銀(アストラル)。馴染ませた魔力に適応して鍛えられる銀、だそうだ。魔力が通しやすい」

「……すげえ剣なのでは」

「そうだな。大抵の者が喉から手が出るほどほしいだろう。星幽銀も希少鉱物だからな。しかも聖句を刻んである」

「聖句っていうのは」

「聖書の一部を刻み込んで効果を発揮するものだな。どれどれ」


 背伸びをしながら、刀身や鞘に刻まれた聖句を確認する。


「剣の保護が主だな。あとは装備者が魔法の効果を受けやすくなる」

「げ」

「露骨にいやそうな顔をするな。加護や結界系統だ。要はお主が怪我をしにくくなる。いざというとき、と思っておけ。エンチャントだって命を救っただろう」


 感覚が鈍るから嫌なんだが……確かにファイアードレイクのときはないと死んでた。ま、普段恩恵に預からなければいいだろう。


 しかし、な……。


「魔力で成長するなら、なおさらエルゼ王女が持ったほうがいいのでは。剣帝のセンスもあるし」

「いやお主が持て」


 つまらなそうに、エルゼ王女が言う。


「あの女、唾をつけるようなことをしおって……と思わなくはないが、希少な剣だ。長さもお主好みではないのか?」


 確かに、よく生成する魔法剣のサイズ感だ。加えて軽いから、魔法剣の感覚で振るいやすいだろう。


「お主の強さを底上げできるのであればそちらのほうがいい。ワタシは魔法があるからな。それよりほら、短剣も確認しろ」


 一度剣を納めて、置く。そして言われた通り、短剣の方も確認した。


 刃がない。刺突に特化した短剣だ。剣先からみると刀身がひし形をしている。スティレットと呼ばれる、鎧通しの類。こちらも星幽銀(アストラル)らしく、同じような青銀の輝きを持っていた。柄の先が輪になっており、鞘から引き抜きやすくなっている。


「便利ではないか? この間、至近距離では素手で対応してたからな」

「まぁ」


 あの一戦でオレに必要と思われる武器を考えられるウラリアにびっくりだが。


「どれ、つけてやる」


 腰の剣を外され、剣と短剣どちらもつけられる。左に剣。


「短剣はどちらだ」

「右です」


 右に短剣の鞘が引っ掛けられる。そうして1、2歩下がったエルゼ王女は腕を組んだ。


「武器だけ豪華だな」

「武器だけ豪華ですからね」

「これを機に鎧でもつけてみてはどうだ」

「重いだけです。これで十分ですよ」


 オレが差していた剣はエルゼ王女が背負う。


「では行くか」

「行くってどこに」

「当然、試し斬りだ」


 扉に体を向けて、エルゼ王女は言った。

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