第7話 そして始まるこの世界の物語
心配性なのか、たびたび彼女・・・ユフィ・カラーは俺の動向を見るようになっていた。
最も、俺に彼女の本当の名前を話す気などない。というか最初は気づいていなかった。
まさか、開発秘話だけの人物がいるなんて思ってもなかったからな。
まあ・・・この世界が現実になってる以上、彼女の存在がいてもおかしくないだろうとも思えるようになっていた。
そうして学園1年目も残り2か月くらいになってきた時期。
友人となったブックと一緒にばか騒ぎしたり、どっちが起動鎧の上達が上か競争したり。
彼と一緒に、当日になってテストの存在に気づいて青い顔をしたりと意気投合。
そんな俺たちと一緒にいる機会が多くなり、青い顔してるたびに呆れた顔をしてくるシール。
ことあるごとに、何かと突っかかってくるシップ・カラーが何か話してるなと聞き流す日々。
感覚的に、おそらく進級はできると思えるマナ値になってきたと感じられるようになったそんな日。
俺は、この世界についての理解度が低かったんだと思い知らされることになった。
この日、1年目の授業の中で最も重要な授業が行われた。
それは実際に「拠点」にいっての軍事演習である。
と言っても、補給拠点の一つ・・・前線より少し下がった位置にある場所。
そこで配備されている機材を使っての実戦形式での練習である。
もちろん、拠点防衛についている現役騎士が指導員となる。
「俺がこの補給基地の現場指揮をしている、カール・リヒト2級騎士である。
近い未来、この国を守る騎士となる君たちを迎えれて光栄に思う。
ここでの1週間の訓練でしっかりと知識と経験を身に着け、今後の糧としていただきたい」
さて、先の学園でのクラス説明であったのを振り返り少し補足説明しよう。
学園ではA~Fでクラス分けがされるのは説明しただろう。
そしてA,Bクラスに関しては「三年生で卒業後に騎士団入団がほぼ確定している」生徒のクラスであると。
この生徒たちは実際に戦場にでることもあるのだが、その時の呼び名はAクラス生徒なら「A級騎士」となる。
卒業して、正式に入団するとまずは「3級騎士」となる。
「2級騎士」になると、現場指揮官となる。騎士団長とも思われるだろうが少し違う。
この世界の騎士団は、騎士団長の率いる部隊の下に3つの部隊がおかれる。現場指揮官とはその部隊の隊長のことである。
なら騎士団長は「1級騎士」なのか?答えは「否」である。
1級騎士もいるが、2級騎士で騎士団長になった者もいる。
1級騎士は「王城務めの騎士」のことである。
王城を警備する騎士は全員が1級騎士、つまりこの国最高戦力となれる騎士だけ。
その強さも色々ではあるが、少なくとも1級の称号と取れないと王城所属の騎士にはなれないということだ。
なお、ヒロインたちのうち「第二王女だけ」1級騎士が直属でいる。
最もこの騎士は「ゲームと同じなら」かなり特殊な立ち位置を得ている。なにしろ前線にあるとある施設の防衛騎士団の総指揮官である。王城務めが基本の1級騎士なのに。
他のヒロインは「2級騎士」がそば仕えとしてついている。あ、貴族家のヒロインたちだけだぞ。特例できた2人はいない。そこまでは支援してもらえていないそうだ。
何度考えても、最高の称号を持つものを城配置するって・・・王家のその部分だけは納得しづらいものだな。
まあ、言っても仕方がないことだ。
しかし、現場指揮官の家名「カラー」じゃないんだな・・・。
そんなことを考える初日だったが、翌日からは訓練開始である。
ブックやシールと一緒に細かく確認しながら訓練を進める日。
シップとその取り巻きたちが指示無視して怒られてるのを横目で見てる日。
話してないかを確認しにくるユフィ・カラーと少し会話をする日(正体を話した相手は1人もおりません)。
覚えることが多く大変な日々ではあったが、充実した訓練期間を過ごしていた。
「よし!全員集合!」
その日もいつも通りの訓練開始だ。
指揮官殿の号令で全員駆け足、整列。
「うむ。ここ数日の訓練で見違えるほど動きが良くなったな。素晴らしい成長を感じる。
去年は、これすらできない奴らがいたからなぁ・・・君たちは立派に騎士になれると思うぞ!」
そういうお褒めの言葉を貰った。
「さて、本日の訓練だが・・・」
その時である。
基地内に大音量のサイレン音が鳴りだしたのは。
そして、遠くから響いてくる爆発音。
生徒全員が、その音にざわつき始める。
近づいてくる多数の足音。しばらくして現れる多数の騎士たち。
そのうちの1人が、指揮官の傍にやってくる。
「報告!襲撃です!」
「なんだと!?この場所は前線から少し離れているというのに・・・前線部隊は!?」
「はっ!1時間ほど前に遠方に敵影補足とあり!警戒態勢を強化していると報告がきておりました!」
「ということは・・・別動隊が動いていたということか!それも、少なくとも前日から前線を超えていたということだろうな・・・」
「はっ!索敵班からの報告では、敵の数は2部隊ほどとのこと!急ぎ出撃し、迎撃に向かいます!」
「ご苦労!私も彼らの避難指示を出した後すぐにでる!それまでこの基地への攻撃をさせないよう気をつけよ!」
「はっ!出撃します!」
その会話の後、その騎士は自身の起動鎧に走っていった。すでに少なくない騎士が出撃しているようだ。
そして、戦闘もすでに行われている。遠くから炸裂音がこだましている。
起動鎧の武器は、基本は「銃」である。近接用に「剣」や「槍」なんかもある。
そして銃は「魔力銃」と呼ばれるもので、マナ値をエネルギーに変えて球を生成し射つ。
この国の魔力銃は、マナの変換率が高いので威力はあるのだがその分射程が短い。
相手の国は、威力は低いのだがその分射程が伸びるように調整されている。
そして、こちらの騎士は近接中距離をこなせるように装甲を少し厚い目にしている弊害で機動力が相手より低い。
相手は機動力を優先しているので動きが早いが、その分とにかく脆い。
そんな両者の対決・・・基地を守るというミッションでは相手に奇襲を許した時点でかなり不利だ。
こちらが近づく前に、相手の射程圏内に基地が入る可能性が高いからである。
それは、指揮官殿もわかっているようだ。
5名の騎士を呼び、彼らの指示をだす。その後、こちらを向いてくる。
かなり真剣な顔をしている。今の状況を正確にわかっていると思えるな。
「すまない。敵の接近を許したのは私のミスだ。君たちの訓練をしているのだから、もっと周囲への警戒態勢を強化しておくべきだった。
だが、今は話をしている場合ではない。この騎士たちに案内を支持しているので、迅速に移動を開始してほしい。
この基地にも避難用の防護施設はある。少し場所が遠いが、奴らの攻撃がそこにはいかないように食い止めて見せる。
どうか皆、またあとで会えることを祈っている。速やかに行動を開始してくれ!」
そう言って敬礼したあと、彼は自分の起動鎧に走って向かった。
「では皆はこちらへ!駆け足で向かうので、不要なものは全てこの場に置いて行ってくれ!できるだけ身を軽くするんだ!」
そういわれて、俺たちは訓練で身に着けていた備品などを全て外してその場に残し、騎士たちについて廊下を走りだした。
走りながらも遠くから炸裂音は響いてくる。かなり近いような気もする。
生徒の一部は、顔色が悪くなっている。
無理もない・・・実際の戦場を体験するのは2学年になってからだったはず。
なのに、こんなことになるとは。
だが、俺の脳裏に浮かんでいるのは別のことだ。
(おかしい・・・この世界はハーレムルートではなかったのか?)
あのルートは何度もやった。ゲーム自体も何度もやったし、どのルートも10回以上はクリアしていた。
ネットでは、同志たちと何度もルート内容に関してチャットで盛り上がったものだ。
だからわかる。あのルートに補給基地襲撃はなかった。
他のルートでは・・・っ!?
お・・・思い出した。
そして、その瞬間だけで俺は全てを繋げることができた。あのゲームをやりこんでいたこそだろう。
まずい!
そう思った時、俺はある人物を探した。
その可能性があるのかどうかはわからない。
だが、この後起こることを考えるとそうなる可能性が否定できない!
見つけた瞬間、彼女に飛びかかる!
驚いた顔をしていたが、それを気にする余裕がない!
次の瞬間、すぐそばでしたとしか思えない炸裂音。
背中側から何かにぶつかられる激痛。
俺の意識はそこで途切れた。
5日後、俺の意識は戻った。
周りを見ると、そこは病室のようだった。
自分の状態を確認・・・全身痛い。動けない。眼だけだな。
まだ、頭がぼーっとしている。
傍で看護師の人が驚いた顔をした後、笑顔で話しかけてくる。
耳を傷めているのか・・・うまく聞き取れない。
聞こえないってわけじゃないから、鼓膜は破れていないんだろ。
しばらく色々な人が入れ替わり立ち代わりやってくる。
頭が回っていないし、痛みを和らげる薬のせいか眼もぼやっとしているから正確に誰が来ていたのかはわからない。
上手く頭が回るようになったのは、3日後だった。
医者の治療が上手いのか、見た目ほどひどくはなかったのか・・・意識も眼も耳も回復してきていた。
そんな日、彼女が俺のところにやってきた。
頭に包帯を巻いていたが、見たところ外傷はそれくらいにも思える。
「・・・気分はどう?」
普段と違った、すごく心配そうな顔をしてユフィ・カラーが見てくる。
上手くできないだろうが、笑顔で迎えてあげよう。
「大丈夫。医者の腕がいいんだろうな。もうかなり回復しているよ」
ひきつった笑顔と自分でもわかる。あぶら汗もでる。・・・痛い。
すると、少し彼女の顔がやわらかくなった。
「無理して・・・けど、ありがとう。君のおかげで私はほとんど怪我がありませんでした」
「そりゃよかった・・・君に万が一あったらかなり問題だっただろうからな」
「それは・・・可能性はないとは言えませんか。特にあの基地の人たちとか」
その言葉に、忘れていたことを思い出せた。
「そういえば、あの基地はどうなったか知ってる?それと基地の人や同級生のみんなは?」
その言葉に、彼女は少し寂しそうな・・・それでいて少しの笑顔になる。
「基地は半壊。残念ながら放棄することになりました。基地の騎士は出撃していたメンバーは8割が帰還、指揮官殿も生存しております。
・・・お見舞いにきていたようですが、多分わからなかったのかもしれませんね。それで同級生のみんなだけど・・・重傷者は君も含めて複数名おりますが、死者はでなかったのは奇跡だったかもしれません。それほど私たちのいた場所に近い場所で着弾があったそうでした」
そうか・・・みんな生きていたことが救いだな。
ただ、やはり実際の実戦を経験したようなもの・・・それも生身でのこの経験に堪えた生徒もいたようだ。何人か退院後学園を去るとのこと。
ブックやシール、シップと取り巻きたちは全員無事だし学園には残るメンバーだった。
一通り話を聞いて、満足した。
少し寝るというと、彼女は笑顔で言った。
「もう一度言います。かばってくれてありがとうございました。どうか、体を休めてください。
それと・・・今度からは『ユフィ』と呼んでくれていいですよ。おやすみなさい、ブック君」
そう言って、彼女は自分の病室に戻っていった。
そんな彼女を見送った後・・・俺は改めてあの時気づいたことを脳内で確認していた。
そして、やはり間違いないだろうという結論に至った。
「この世界はハーレムルートではない・・・どのヒロインルートでもない、この世界だけの歴史で進んでいる世界だ」
第二王女の序盤だけが起こるイベント「補給基地襲撃」。
主人公が関わるイベントではなくストーリー上で起こるイベントである。
このルートだと、前線基地での訓練イベントが起きないのである。
他のヒロイン攻略後の周回だからな、レベルが違う。訓練の必要ないんじゃね?となるのだ。
なので、王女と街中デートである。寮に帰ってきてその話を知ることになる。
なお、他のヒロインルートだと襲撃があるのだが・・・主人公が指揮官に掛け合ってヒロインたちと初出撃するとなる。
先ほどユフィに聞いたのだが、他のメンバーはわからないが第二王女は首都に残っていたのは確認できたそうだ。
俺のいた基地に彼はいなかった。だが、彼は第二王女の傍にはいなかった。
ハーレムルートでは、逆に前線基地の一つに襲撃するというイベントになる。だが、こちらから攻撃したという話もない。
そもそも、ゲームに登場していないユフィがいる。
さらに気になっていた部分。指揮官殿の名前だ。
ゲーム内にはいなかった名前。同級生以外そもそも名前がほぼでなかったくらいのゲームだったからな。家名が「カラー」というのも、ゲーム内には数名でていたが全員会っていない。そもそもこの家名ばかりという話も「ゲーム会社との会話」という記事で知ったものだ。
第二王女ルートでしか起きないイベントにもかかわらず、ヒロイン全員と同居している主人公。
デートしているタイミングのはずが、彼は首都にいる彼女の傍にはいない。
さらに、ゲーム内で登場していない人物もいるこの世界。
ゲームの世界にやってきたのではない。
ゲームの舞台となった世界にやってきた。
もしかしたら「ヒロインの1人とのルート」を選択した世界かもしれないが、彼が・・・英雄がそれを変えてしまったので元の流れに戻ることはできないだろう。
そうすると・・・今後の展開がどうなるのか予想できそうもない。
下手したら、かなりまずい状況になってもおかしくないのかもしれないな。
そんなことを考えながら・・・俺の意識は眠りに入った。
突然の基地襲撃。
慌てふためく生徒たち。
おびえる第三王女の顔を見て、彼は起動鎧に乗り込む。
決意を固めた彼の力が覚醒、彼は「第二の英雄」としてこの世界に立ち上がることになる!
なんて、おめでたいルートは存在しません。主人公は逃げてる途中で負傷して、入院してもらいます!
※実際は「第二王女以外のヒロインルート」の世界が正解です。ゲームと違って現実なので、第二王女は実際に登場しますが「英雄とヒロイン」との仲を遠くから見てるだけの人物となります。




