閑話5 真の英雄
とある屋敷の地下。
そこにある訓練用装置の傍に、汗をぬぐっている1人の男がいた。
そこに近づく1人の騎士。
「おつかれさま。見違えるように動きが良くなってきてますね。
だが・・・まだもう少し必要です。30分休憩の後・・・」
「15分休憩後でもいいですが?」
「ダメです。今はまだ時間があります。なので、今はゆっくりと休憩をとりつつしっかりと」
「・・・了解です」
よろしいと言って、騎士は傍に置いておいたコップに水を注いで渡す。
それを飲みながら・・・彼は座っている人物を向く。
「しかし、あれから1週間ですが・・・本当に動きが良くなりましたね。今のあなたなら、私も決闘など申し込まなかったでしょうね」
「・・・あの時にそうなっていなかった以上、それは仕方がないです。ゼノス護衛騎士」
そう返したのは・・・英雄セイル・ルートヴィッヒ。
この2人が今いるのは、ゼノス所有の屋敷の地下である。
この状況を説明すると・・・時間は1週間ほど前に遡る。
「・・・これが、今わかったことですね」
アーリアがそう締めくくる。
場所は、セイルを含めて7人が暮らしている寮の食堂である。
あの日から彼が頼んだように、6人の女生徒たちはそれぞれで調べれることを調べてくれた。
「使える」
その話を聞き終わったセイルはそう言って顔を上げた。
「その部隊運用・・・少し付け加えることができそうか?」
「私の権限を使えば、指揮官に進言することはできるかと」
「ではアーリア、申し訳ないがお願いしたい。内容は詳しく紙に書いて渡す。
大元さえ押さえてくれたら、後はそちらで変更加えてもらっていい」
「わかりました・・・」
その真剣な表情に、アーリアは少し驚く。
あまり見たことがないほど真剣だったからである。
「シィン。君の父はかなり腕の立つ技師ということ。首都に呼んでもらうことはできる?」
「はい。というか・・・首都に暮らしてますが」
「ではルリスとカリンに協力してもらって、騎士団所属の技術者たちに起動鎧の調整依頼を。
調整内容は、アーリアの会議で決まった内容に沿って」
「我が家の発言力を使うのはいいですし、カリンとの共同発言なら確実性はでるでしょう。
ですが・・・会議がどう動くかはわかりませんが」
「大丈夫。俺の・・・英雄の発言としてを強調すれば、この案は通ると思っている」
その言葉を聞いて少し考えた後、アスカが会話に加わる。
「では、自分に起動鎧を用意してくれた貴族にも協力を依頼します。英雄に協力と言えば、もしかしたら・・・」
「頼む。これ以降は、時間勝負にもなりそうだから」
そうして、セイルは改めて全員に1人ずつ視線を送り・・・アーリアを見る。
「みんな、すまない。俺に時間をください。そしてアーリア、頼みがある」
「・・・なるほど。確かにこれなら」
「そうですね。それに・・・彼女たちの協力が得られるなら起動鎧の調整も間に合うかと」
「幸い直近であの部隊の試験を・・・その時の参加者なら、問題ないかと」
騎士団の会議室では、アーリアからの進言と渡された英雄からの手紙を協議されていた。
最も、すでに結論は出ている雰囲気ではある。
アーリアはそれを見て、平静を装いつつも内心は驚いていた。
(自分で読んでも驚きましたが・・・彼の立てたこの編成、彼らから見てもかなり有力だったようですね)
そんなことを考えていた。
そのまま会議は満場一致で終了。
それぞれが、英雄より提案された「国を守るための騎士団」結成のため迅速に行動を開始した。
アーリアは、それを見届けて寮に戻・・・らないで王家お抱えの技術者の所に向かうのだった。
自分にできることで、戦うために。
そして・・・ヒロインたちとの時間を削り、アーリアに頼んだセイル。
ゲーム内この時期は、ハーレムルートだとヒロインたちとイチャラブ期間である。
だが、今彼がいるのはゼノスの個人宅地下にある訓練施設であった。
「よし。今日はこれまでにしよう。・・・そろそろ終わらないと、また怒鳴りこんでこられる」
「ですね・・・ゼノス殿の奥さん、怖いし」
ここ数日、訓練に熱中したために食事の時間に遅れて調理器具で襲われそうになっていた2人はそろって震えた。
「しかし驚いたよ。私を恨んでいると思っていたのに、いきなりやってきたと思ったら『訓練をつけてくれ』ときたもんだ」
「あれは、あなたの責任ではない。・・・英雄とおだてられていた俺の、それに関係なく俺の失敗でもあるんです」
意味は分からないでしょうけど、とセイルは心の中で付け足した。
あの基地襲撃事件後、防衛施設から離れていたこともありゼノスは騎士の地位はく奪されようとしていた。
だが、英雄自身の弁護と護衛対象であるアーリアの権限により降格と2週間の謹慎処分となった。
2週間は自宅待機となったので、その期間を使ってセイルは彼に訓練を依頼したのである。
国でも指折りの騎士。また、ヒロインたちでは自身の訓練時に手心を加えてしまう可能性があった。それほど親しくなっていたのである。
故に、自身を徹底的に鍛えてくれる人物としては適任だと思いアーリアに依頼して彼とのつなぎを作ってもらったのである。
結果、セイルは同年代の騎士の中では頭一つ抜けたレベルまで自身を鍛えることができた。
そして、その3日後・・・彼は起動鎧に乗って1人出撃していた。
行先は、壊滅された補給基地の一つ。そこは今、帝国が駐屯基地として再利用しようとしていた。
「・・うん?何かやってくるぞ?」
「なんだと?」
基地内を歩いていた起動鎧に乗った騎士が視線を向けた先、一つの光が迫ってきていた。
「あほ!向こうからくるなら敵に決まってるだろうが!警報鳴らせっ!!」
「1機で向かってきているだと!?」
あわただしく動く騎士。そこに襲撃する1機の騎士。
『さて・・・セイル・ルートヴィッヒ、ライトニング・・・目標への攻撃を開始する』
射程内に入ったのを確認し、彼は攻撃を開始した。
腰に付けたマナ砲にて攻撃を開始。連続で撃ち続ける。照準はあまり気にしない。
そうして接近、基地内に降りた直後・・・すぐさま移動を開始し剣による攻撃に移行。
機動力を生かし基地内を駆け回り、次々と迎撃にでてきた敵機を撃破していく。
再建されつつある施設には、入り口から連続でマナ弾を撃ち込んで破壊しつくす。
彼が地上に降りてから10分ほど・・・基地内で動いているのは、彼だけになっていた。
「・・・大丈夫そうですね」と言葉を残し、最後の試験をクリアした英雄を見守っていた騎士はその場を立ち去った。
機体から降りたセイルは周りを見回していた。
破壊された施設。切り裂かれた起動鎧。黒煙の昇る基地。そこに横たわる・・・多数の死者。
「・・・っ!」
その光景を見ていた彼の胃は限界を迎え・・・その場にすべてを吐き出した。
だが、それでも彼はその光景を見続けた。
転生する前に実際に見ることがほとんどない光景。ゲームのように作られたものだけ見ていた光景。
それを今、自身の手で行ったその現実をしっかり受け止めるために。
これから歩く道に、この光景はずっと付いてくるということを改めて理解するため。
自分がヒロインたちと幸せに過ごす世界・・・あのゲームのエンディングのような未来を手に入れるために。
これからもこの光景を作ることを理解するために。
ゼノスからの最終試験。「戦う覚悟をもっているのか?」という質問にしっかりとした答えを持つための試験。
セイル・ルートヴィッヒは今、この世界この国に誕生した「英雄」としてスタートラインに立つことができた。
万が一・・・そのために遠くで見ていた5体の起動鎧と6人の女性騎士。
彼女たちの元に、彼は帰ってきた。
起動鎧から降りてきた彼の顔を見て、彼女たちは彼がどういう状況になっていたのかはすぐにわかった。
味方を守るために戦い、それでも敵兵に明確な殺意をもって相対したことのない彼が・・・国を守るために、「相手を殺す戦い」をしてきた結果が今の彼だと。
けれど、それ以上に彼が誇らしかった。そうなると理解して戦い抜いた彼が。
そして、彼女たちの心は完全に一つとなった。
歩み寄る彼を笑顔で迎え、1人ずつ・・・口づけを交わすのだった。
「ロボットが好きだ」「戦闘シーンが好きだ」「異世界に行って無双したい」
色々あるでしょうが、ふと考えた時に思ったのは「今の記憶もってて、平気で戦えるのか?」でした。
その一つの答えが、彼です。
やりたいことあるとしても「人同士の戦い」を普通にできるのか。
この回で、彼はその覚悟を持ったという回となります。
※後ほど語られることがない設定
ゲーム内では、アーリアはこのあたりのタイミングで王国技術師たちに
「主人公の機体の背中に機動力をさらに上げるための装置」を作らせた。
そして同時に「自分が乗り込むための場所を設置」させていた。
1人起動鎧に乗れない彼女は、そうして戦場に立ち主人公たちと一緒に戦うことになります。




