檸檬
客の来ない歴史資料館で、生首だけの状態でどう時間をつぶすか。本のページをめくる手も念動力もないただの生首のお気に入りは、ラジオだった。
「今日は人生相談の日だから国営チャンネルにしてな」
「もうですか。一週間はやいですね」
「先週も同じこと言ってたな館長」
「じゃあ私は事務室で作業してますから」
昔は可愛らしいデザインの小型ラジオが売られていたものだが、今では型落ちのスマホにラジオアプリを入れて、スピーカーに繋げてもらっている。
ラジオ人生相談は、スタジオと直接電話を繋げて話を聞いてもらう生放送番組だ。
スタジオと直接電話を繋げて今週の相談は、同棲中の彼氏と食のタイプが合わないが別れるべきか、というものだった。作りたての唐揚げをだして、さあ食べようとレモンをかけてあげたら彼氏の説教がはじまり、唐揚げはすっかり冷めてしまったと相談者の若い女性は涙ながらに訴えていた。
「……それで、おいしく食べてほしくって、レモンかけてあげただけなのに一時間も文句言うっておかしいでしょ」
「とりあえずレモンは自分の食べる分だけにしませんか。聞いてれば、この件だけで別れるのは勿体ない彼氏さんだと思いますよ」
「うーんそうかも……そのあと皿洗いもやってくれたし」
相談はそこで解決となったものの。
「ちなみに先生はレモンかけない派なんですね?」
進行役の女子アナが斬り込み。
「ええ。衣の食感と肉汁を味わいたいのに、レモンは邪魔かなと」
回答者の文筆家がばっさり斬り捨て。
「えー!レモンかけなきゃ唐揚げは「未完成」じゃないですかぁ」
相談者の女性が油を撒いた。
そこから番組終了時間まで、熱い論争が繰り広げられ。
「先生、もうお時間ですよ」
「じゃあね、レモンが要るのか要らないのか、彼氏さんともよく話し合ってみてくださいね!相談ありがとうございました!」
「はい、聞いていただいてありがとうございました」
燃えつきた三人は挨拶もそこそこに通話を終わらせるのだった。
「今週も面白かった……しかし唐揚げ唐揚げって言うから食べたくなってきたよ。食べられないのにな。一度くらい食べてみたかったなぁ」




