温度
歴史資料館は地域の歴史的資料を保管、展示するための施設である。千年前から異次元ポータルの発生が記録されてきた雨ノ原市では、ほぼ異次元ポータル発生記録の管理と、異次元から落ちてきた物品の保管のための公共施設となっている。
「電子化が進められてるとはいえ、原本の保管も大事ですからね。今日は書庫にこもりますからね」
朝から生首の展示室に飛び込んできたと思えば、平田館長はたいそう不満そうにシードルへ予定を告げた。
「除湿剤の取り替え時期なのでね、カビは資料の大敵ですし」
「温度と湿度の管理って地道だよな。がんばれ」
「なんで世界には四季があるんですかね。温度も湿度も変わりすぎです」
「春夏秋冬どれがいいんだ?」
「冬ですかね。乾いてる方がやりやすいので」
「去年のカビ大量発生がよっぽどこたえてるな」
「カビ掃除も除湿も面倒くさすぎるんです」
「手伝えなくて申し訳ないが、がんばってくれたまえ」
「はい……湿度を五十%に固定するアイテムでもおちてこないかな」
「うちの世界をなんだと思ってるんだ」
「生身の人が空飛べる世界で?風を操る魔法もあって?大気中の湿度、それも一部屋のコントロールもできないんですか?」
「うちでもカビ取りは大変だったぞ」
ほらいかないと終わらんぞ、とやる気が行方不明な平田館長との会話を切り上げる。
「シードルさん」
「……いってらっしゃい」
「いってきます!」
書庫の分厚い扉が閉まり、静けさに包まれた展示室で巨大な生首は二度寝をはじめた。




