第5話:疫病の真相と、魔女令嬢の覚悟
王都は薄曇りの朝を迎えていた。
アルテミア・ヴァレンティーヌは、昨夜の宴会で発生した毒事件と疫病の分析結果を整理していた。前世の薬師としての知識と、精霊リーゼの助けを借り、彼女はひとつの結論にたどり着く。
「……これは、単なる自然発生の病ではない」
リーゼの小さな光が、アルテミアの手元の薬草や薬液を照らす。
「魔術と毒が混ざっているわ……人為的に作られた疫病よ」
その瞬間、ジェルマスが慌てて駆け込んできた。
「アルテミア! 王都の中心で、また事件が……!」
宮廷の広間では、倒れた者が増え、医師たちも途方に暮れていた。アルテミアはためらわず手を伸ばす。触れた瞬間、毒の種類、病の進行速度、そして魔術の痕跡を瞬時に把握する。
「これは……暗い魔術による感染型の毒」
前世の経験が体に染みついている。彼女は即座に治療方針を決定し、応急薬を調合する。植物精霊リーゼは光の力で薬効を増幅させ、倒れた人々に希望を与える。
そのとき、ユリウスが静かに現れた。
「ふむ……アルテミア、ここまで的確に状況を把握するとは。やはり貴女の力は只者ではない」
冷たい瞳の奥に、わずかに敬意が混ざる。
「でも、これだけでは終わらない――真の黒幕は、まだ動いている」
アルテミアは深く頷く。
「そう。誰かが、王都全体を混乱させるためにこの疫病を仕組んだ。毒と魔術を同時に使うなんて、並大抵の力量じゃない」
ジェルマスはアルテミアの肩に手を置く。
「俺は君を信じる……どんな危険でも、一緒に立ち向かう」
その不器用な言葉に、アルテミアはわずかに微笑む。胸の奥で、前世とは違う暖かさを感じる。
リーゼも飛び跳ねるように喜ぶ。
「アルテミアさん、あなたならきっと、この王都を救えるわ!」
アルテミアは決意を新たにした。
「私は魔女令嬢。毒を知り、病を癒す――この力で、王都を、そして人々を守る」
しかし、王都の闇は深い。陰謀と権力争い、嫉妬、そして未知の毒。
「まだ試練は終わらない……でも、私は逃げない」
アルテミアの瞳には迷いがない。魔女令嬢として、薬師として、彼女の物語は新たな章へと進むのだった。
その夜、王都の空には月が静かに輝く。
光と影、毒と癒し、友情と恋――すべてが彼女の力となり、これから訪れる困難に立ち向かう糧となる。