第4話:王都に迫る疫病と、毒と癒しの狭間
王都に、不穏な噂が広がっていた。
「疫病が広まっている――!」
街角の人々のざわめきに、アルテミア・ヴァレンティーヌは眉をひそめる。前世の薬師の勘が、胸の奥で警鐘を鳴らす。
「ただの流行病じゃない……。これは人工的な何かの匂いがするわ」
彼女の言葉に、リーゼは小さな光の粒を震わせながら頷いた。
「アルテミアさん、この病気……精霊の感覚でも何か不自然なものを感じるわ」
アルテミアはすぐさま行動を開始する。王都の医師や治癒師たちと連携しつつ、毒と病のサンプルを分析。前世の知識と植物精霊リーゼの力を組み合わせ、わずか数時間で原因の手がかりを掴む。
「……これは、陰に潜む者の意図的な仕業。王都の権力争いを混乱させるために使われている可能性が高い」
その時、ジェルマスが息を切らして駆け込んできた。
「アルテミア! また毒事件が発生した! 今度は宮廷内の宴会場だ!」
アルテミアは即座に動く。宴会場に到着すると、すでに数名の貴族が倒れ、混乱が広がっていた。彼女の手が触れると、毒の種類が前回とは異なることに気づく。微妙に改良された混合毒だ。
「この毒……誰かが私の動きを読んでいる」
アルテミアの瞳に鋭い光が宿る。彼女はジェルマスに指示を出した。
「安全な場所に避難させて。私は毒の分析と治療を優先する」
一方、ユリウスも現場に姿を見せた。
「ふむ……前回と異なる毒の手口。貴女が分析する前に、私が成分の一部を突き止めてしまうかもしれませんね」
冷たい笑みを浮かべる彼の目は、興味と挑戦の光で輝いていた。
アルテミアは微笑み返す。
「それでも構わない。毒を理解し、治すのは私の役目」
彼女の手から、植物の力が光となって広がる。倒れた貴族たちは徐々に呼吸を取り戻し、宴会場に静寂が戻った。
リーゼが小さく飛びながら囁く。
「アルテミアさん……あなた、本当にすごい」
その夜、アルテミアは一人、王都の夜景を見下ろす。月明かりに照らされた宮廷の塔には、陰謀と権力争いの影が長く伸びていた。
「毒を知り、病を癒す――私は、魔女令嬢として、この世界で生き抜く」
胸に誓いを立てた瞬間、微かな予感が走る。王都を蝕む疫病の原因――それは単なる偶然ではない。誰かが意図的に魔術と毒を操り、秩序を揺るがそうとしているのだ。
ジェルマスは静かに隣に立つ。
「俺も……君と一緒に戦う」
ユリウスは、影のように屋上から見下ろしながら呟く。
「面白くなってきた……アルテミア・ヴァレンティーヌ。君の毒と癒しの力、これから試す価値がありそうだ」
その夜、王都の空には深い闇が落ちる。
毒と疫病の影、宮廷の陰謀、そしてアルテミアの信念――。
彼女の試練は、ますます激しさを増していくのだった。