第3話:王都の陰謀と毒の試練
王都の朝は、昨日の毒事件の余波で騒然としていた。
アルテミア・ヴァレンティーヌは、宮廷での治療の経験を胸に、次の行動を考えていた。前世の知識を活かせるとはいえ、ここは異世界――人々の偏見と恐怖が、彼女を容易には受け入れない。
「アルテミアさん、こちらに来てください!」
精霊リーゼの声に誘われ、街外れの森の中へ向かう。そこには、昨日救った女官のひとりが待っていた。
「昨夜の毒……まだ原因はわかっていません。でも、もっと複雑な陰謀が動いているみたいです」
女官は怯えた目で告げる。王都の中で、誰も信用できない状況が広がっていた。
アルテミアは考えた。
「毒――人工的に調合され、特定の者を狙ったもの。これは、単なる偶然じゃない」
前世の薬師経験と、植物精霊リーゼの感知能力を組み合わせれば、毒の成分だけでなく、調合者の手口も推測できる。
「ジェルマス、ユリウス。協力してくれる?」
王国騎士ジェルマスは即座に頷く。
「任せろ、アルテミア。俺たちが守る」
しかし、ユリウスは冷たく微笑む。
「ふむ……協力はいい。しかし、私の情報と貴女の薬師知識、どちらが優先されるか試してみるのも面白いかもしれませんね」
こうして、アルテミアは二人との微妙な協力関係を築き、宮廷内の情報網を駆使して調査を始めた。
調査の最中、アルテミアは毒の痕跡を辿り、王都の地下にある古い錬金術室に辿り着く。暗闇の中、微かな光を放つ植物精霊リーゼが道を照らす。
「ここだわ……」
部屋の中には、薬草や奇妙な瓶が無造作に並んでおり、明らかに普通の医師では扱わない成分が散乱していた。
「これは……誰かが、意図的に毒を作り出している」
アルテミアは手早く毒を分析し、応急処置の方法をメモする。同時に、この場所が宮廷内部の誰かとつながっている可能性を直感する。
その時、背後から声がした。
「さすが魔女令嬢、手際がいいね」
振り返ると、黒衣のユリウスが立っていた。彼の目は計算と興味に輝く。
「協力するだけじゃなく、私の推測を覆すとは……面白い」
アルテミアは微笑む。
「毒の調合者は、宮廷の誰か。誰かが、権力争いに私を巻き込みたいのね」
ジェルマスは警戒を強めた。
「つまり、この陰謀はまだ序章に過ぎないってことか……」
その夜、王都の空には満月が輝く。アルテミアは屋敷の窓から、遠くに見える宮廷を見つめた。
「私は、この世界で薬師として生きる。そして魔女令嬢として、信頼と居場所を作る」
しかし、宮廷にはまだ多くの秘密と危険が潜む。毒の影、権力争い、疫病――。
アルテミアの試練は、これからさらに厳しさを増していくのだった。