エピソード4.8 翼の生えた蛇
〈エピソード4.8 翼の生えた蛇〉
「サマエル様、モンスターたちの動きに不審なものが見られます」
国連の兵士の一人が、泡を食ったような顔でそう報告する。彼の視線の先には人間ではない者がいた。
「どういうことだい?」
口を開いたのは翼の生えた巨大な蛇、サマエルだ。
その姿は見る者の怖気を誘うが、サマエル自身は至って温厚な性格をしていて、国連の兵士たちにも信頼されている。
「浮足立っていると言うか、何かを待っているような感じなのです」
兵士は恐縮しているのか、たどたどしい声で言った。
「いよいよ、《敵対者》がこの世界にやって来ると見て間違いないだろうね」
サマエルはどこか愉快そうに笑みを広げた。
「はい。結局、桂木修一を見つけ出すことはできませんでしたね。我々も手は尽くしたのですが」
修一を発見できた、という報告はどこからも上がっていない。
また、自衛隊が見つけたという情報もない。
修一が見つかれば、全ては解決すると聞かされていただけに、兵士ももどかしさを感じているようだった。
「構わないさ。奴を打ち取ってから、修一を探すって言うムーブもありだからね」
サマエルはかつて自分もまた《敵対者》の烙印を押されていたことを思い出し、心の中で自嘲する。
「そうですか」
悪魔の中でも指折りの力を持つ《敵対者》の相手は人間にはできない。
なので、どうしてもサマエルを初めとする天使の力が必要だ。
「とにかく、創造神は焦っていないし、お前たちももう少し気持ちを大きく持て」
サマエルの言葉を聞いて、兵士の男も心が落ち着くのを感じていた。
「分かりました」
全知全能の神が後ろに付いているのだから、恐れることは何もないと、兵士も思ったようだった。
「案外、修一の方から僕たちに会いに来てくれるかもしれない。僕にはそんな予感がするんだよ」
サマエルの予感は《未来視》に近いものがあることを兵士も知っていた。
「サマエル様は桂木修一とは面識があるんでしたよね」
サマエルと修一の関係に興味をそそられた兵士はそう尋ねていた。
「ああ。僕にとって修一は古い友人のようなものだよ。向こうは僕のことをそんな風には思ってないかもしれないけどね」
サマエルは懐かしい記憶を呼び起こし、羨望の眼差しで言った。
「そうですか。あなたと桂木修一の友情が今も続いていると良いですね」
兵士はサマエルの人間味の感じられる声を聞いて、和やかに相槌を打った。
「うん。とにかく、修一が僕たちの敵になることはないから安心して良いよ」
サマエルは胸を張りながら言った。
「はい」
兵士も明るい未来で見たような声で返事をする。
「さてと、敵対者の二つ名を冠する《サタン》が出て来るとなれば、僕たちも忙しくなりそうだし、ここは気合の入れどころだぞ」
サマエルはまだ見ぬ敵に向かって挑むように言った。




